映画と本の『たんぽぽ館』

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42世界を変えた男

2013年11月10日 | 映画(は行)
やり返さない勇気



* * * * * * * * * *

史上初の黒人メジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの半生を描きます。
実話に基づいたストーリー、それはずっしりと感動的です。



1947年。
第二次世界大戦が終了し、
平和が訪れ、人々がまた野球に熱中し始めた頃。
ブルックリン・ドジャーズのジェネラルマネージャー、リッキー(ハリソン・フォード)は、
周囲の反対を押し切り、黒人のロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)とメジャー契約を結びます。
当時は、人種差別が根強く、黒人が入れない場所が多々ありました。
野球でも、黒人リーグが別にあり、
黒人が白人と同じチームで野球をするなどとは誰も考えたこともなかったのです。
それで、ロビンソンをチームに引き入れたドジャーズには、
あらゆる誹謗中傷が浴びせかけられます。
外部のみならず、チーム内でも彼は邪魔者扱い。
彼を追い出すための署名が行われたりします。
実ははじめからこのような事は予想の範疇でした。
リッキーはロビンソンに言います。
「やり返さない勇気をもて」と。
右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せばいい。
というこの言葉。



元々は血気盛んで自尊心の強いロビンソンなのですが、
この言葉を胸に刻み、耐えるのです。
それは結局自分との戦いでもあります。
相手チーム監督のあからさまな差別のヤジに耐えるだけ耐え、
密かに人目のないところで激情を爆発させるシーンには胸が熱くなります。
けれどもこんな時、ついに同じチームのメンバーが彼をかばい始めますね。
時間はかかるけれど、いつか人と人は分かり合える。
人の意識は変わっていく。



最近「やられたらやり返す」というセリフが流行っていて、
私もついノッてしまうわけですが、
やり返さないこともまた、大事なことなのです。
でもこれは主に「暴力」についていっていることなのでしょう。
(言葉の暴力も含めて)
ロビンソンの場合は、自らの野球の力で「やり返」したわけですね。
100倍返し以上かもしれない。
要は卑劣な相手と同じ土俵に上がってしまったら、
それで負け
ということなのかもしれません。
その時はやり過ごすことこそが「勇気」。


その後は彼に続いて多くの黒人がメジャーリーグに進出してきました。
今では当たり前すぎて、誰も疑問に思ったりしません。
そしてこういう過去があったことすらも忘れられているというのは、
ある意味、幸いなことでもあります。
でもこうして、歴史を振り返ることもまた意義がありますね。
人種の枠を越えて、共にいて当たり前という風潮を創りだす、
その勇気ある第一歩を踏み出したジャッキー・ロビンソンを描く、
大変力強い一作でした。



「42」は、ジャーキー・ロビンソンの背番号ですが、
これは今もアメリカの全球団で永久欠番となっているそうです。



ハリソン・フォードの気骨のある老ジェネラルマネージャー役、ステキでした。
かつて第一線を歩んだ人が歳を重ねると、
こんな感じで若い人に道を指し示し、後押しする人になるんだな・・・と、
納得できてしまいます。
それはハリソン・フォード氏本人のイメージとも重なり、
すばらしいキャスティングだと思いました。


「42世界を変えた男」
2013年/アメリカ/128分
監督:ブライアン・ヘルゲランド
出演:チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォード、ニコール・ベハーリー、クリトファー・メローニ、アンドレ・ホランド

人種差別の歴史度★★★★★
満足度★★★★★