映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「極北ラプソディ」海堂尊

2013年11月21日 | 本(その他)
究極の救命救急医療

極北ラプソディ (朝日文庫)
海堂 尊
朝日新聞出版


* * * * * * * * * *

財政破綻した極北市の市民病院。
再建を図る新院長・世良は、人員削減や救急診療の委託を断行、
非常勤医の今中に"将軍"速水が仕切る雪見市の救命救急センターへの出向を指示する。
崩壊寸前の地域医療はドクターヘリで救えるか?
医療格差を描く問題作。


* * * * * * * * * *

極北クレイマーの続編。
私は、海堂作品が好きな割には、すべて文庫化を待ってから読んでいるのでした。
海堂先生、ごめんなさいm(_ _)m


先日映画版「ジェネラル・ルージュの凱旋」を観たところで、
本作というのは非常にタイミンがよろしかった。
というのも、そちらのラストシーンでは、
速水医師が極北市に旅立つところでしたから。
本作ではその速水医師が、極北救命救急センターの副センター長となり、
相変わらず彼独自の強引なやり方で、救急医療を切り回しています。


私は、速水医師はてっきりこの地へ共に来た花房さんと一緒になっているものと思っていたのですが、
そうではなかったのですねー。
相変わらず、共に優秀で信頼出来る医師と看護師のまま。
しかし、私のこの疑問符には本作の中にちゃんと答えがあるのでした。
そ、そうだったのか・・・。


とは言え、本作の主人公は前作「クレイマー」と同じ、
若き医師今中です。
彼はすっかり規模を縮小した極北市民病院で、
世良院長とともに患者の治療にあたっている。
そんな彼が、救命救急センターへレンタル移譲され、
速水医師のやり方を目撃するという筋になっております。


念願のドクターヘリを導入し、
地域の救命救急を一手に引き受けているこのセンター。
それは速水医師が以前から描いていた医療組織の実現の場だったのです。
計画的な人員配置とローテーションで、
医師や看護師はきちんと休暇を採ることができる。
そしてこのセンターは来るものを拒まない。
作品では地域医療のあり方を俯瞰的に解いていきます。
医師の不足を嘆いたり、無医村で奮闘する医師を描いたりする作品は多くありますが、
こんなふうに、医療行政という国の根本からそれを考えていくものはあまりないように思います。
ドクターヘリの守備範囲から逆に行政区を作り上げていくというような、
目からうろこの構想も語られ、
意義ある一作となっています。


しかし、そういう難しい話に終始しないところが海棠作品のいいところ。
スペクタクルシーンやロマンス、居酒屋での飲み比べなど、
楽しめるところも満載。
満足、満足。

「極北ラプソディ」海堂尊 朝日文庫
満足度★★★★★