映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「風渡る」 葉室麟

2013年11月26日 | 本(その他)
キリシタンとしての官兵衛

風渡る (講談社文庫)
葉室 麟
講談社


* * * * * * * * * *

「神の罰より、主君の罰を恐れよ、主君の罰より、臣下、百姓の罰を恐るべし」。
戦国の世で、神の愛のため戦うと誓った黒田官兵衛。
土牢の幽閉から逃れ信長への謀反に暗躍、
秀吉の懐刀となり勇名轟かせた策士でもあった。
「民を貴しとなす」とした稀代の名将の真の姿が、
新直木賞作家による渾身の筆で現代に甦る。


* * * * * * * * * *


吉川英治「黒田如水」についでの黒田官兵衛本です。
司馬遼太郎「播磨灘物語」に行こうと思ったのですが、
長いので、ちょっとためらってしまい、まずはこちらで。
こちらも敬愛する葉室麟さんの著作ですので…。


さてと、「黒田如水」の思い切り感動シーンが、
今作ではそれをあざ笑うような展開となっています。
本作の主人公は黒田官兵衛ともう一人、ジョアン・デ・トルレス。
外国人? 
いいえ、日本人なのですがキリシタンの修道士。
つまりこれは洗礼名。
ただし、この人物は実在ではなく創作上の人物。
日本人とされますが、背が高くほりが深いし目も青みがかった灰色。
ということで何やら謎の出自が伺われます。


黒田官兵衛がキリシタンであったことは知られていますが、
そういえば吉川英治版「黒田如水」の中では
さほど大きく取り上げられていませんでした。
信長の配下の秀吉。
その又配下の官兵衛、ということで
当然信長に絶対服従・崇拝するというのが立場です。
しかし、黒田官兵衛は策士です。
信長がキリシタンを容認したのはヨーロッパとの交易が必要だったため。
ヨーロッパの様々な文化、特に鉄砲や大砲の武器が
日本全国制覇を狙う信長には必要でした。
でも官兵衛はその先行きに危うさを感じ取ります。
自らを「神」と考える不遜な信長を放置しておいて良いのか・・・。
さらに、この思いは竹中半兵衛の秘めた心中とも一致するものでした。
そして、官兵衛の策略に乗せられたのが明智光秀で・・・と、
驚くべき発想の歴史が展開していきます。
おもしろい! 
これまでの葉室作品のように「凛として美しい」お侍さんは登場しませんが、
独自の視点による新しい黒田官兵衛の人物像。
こういうのも有りなんだなあ・・・と、
目から鱗が落ちる思いでした。


まあ、そんなわけで、本作は少し前の私のように
黒田官兵衛についてあまり良く知らない方がいきなり読むべきではないという気がします。
まずは一般的に知られている黒田官兵衛像を知ってから読んだほうが、面白みがわかる。
そういう作品だと思います。
その意味で、私は先に「黒田如水」を読んでおいて正解だったかも。
「如水」すなわち、「水の如し」ですが
もうひとつの意味についても本作で語られていまして、とても興味深いのでした。

「風渡る」葉室麟 講談社文庫
満足度★★★★☆