映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ソハの地下水道

2013年11月14日 | 映画(さ行)
ユダヤ人を守り通した男



* * * * * * * * * *

1943年 ナチス占領下のポーランド。
ソハは窃盗を副業としながら、迷路のように入り組んだ地下水道で働いています。
ある日、ゲットーからトンネルを掘って逃れてきたユダヤ人を見つけます。
始めはお金目当てで彼らを匿ったソハですが、
次第にユダヤ人たちと心を通い合わせ、
自身の身の危険も省みず、彼らを守ろうとしていきます。


これは14ヶ月もの間、地下水道に隠れ住んだユダヤ人たちの実話を映画化したもの。
生と死が紙一重のこの時代、この環境下で、
それでも生き抜こうとする人々の心の強さが胸を打ちます。
地下水道と言うと聞こえが良すぎる。
つまりは下水道です。
真っ暗でジメジメしていて、ネズミが駆けまわる不衛生な場所。
私ならやっぱり収容所で死ぬほうがマシ、と思うかもしれません。
けれども彼らはまだ、人間性を保って生きていくことができる。
収容所のシーンがほんの少しありましたが、
そこでは帽子を失くしただけで撃ち殺され、犬のよう這いつくばって歩かされたりする。
人の尊厳までを奪うナチスにとらわれて生き長らえるよりは・・・
という気持ちも、もっともではあります。


でも生きていくためには水や食料が必要です。
誰かの援助なしではとうてい続けることはできません。
始めは欲得づくのソハでしたが、
彼なしでは生きられないユダヤ人達に次第に責任のようなものを感じ始めるのですね。
それはユダヤ人一人ひとりを“知る”事によってもたらされます。
しだいにソハにとってユダヤ人たちは家族のようなものになっていくのでしょう。
ソハの奥さんも夫の行為が外部に漏れれば死しかないので、反対をするのですが、
根が善良な人なので、反対もしきれません。
直接ユダヤ人に恨みも敵意もあるわけでなし。
国が勝手に作り上げた“差別”がまやかしであることを、
庶民のほうがよくわかっている。



ホロコーストがもたらすドラマは、
いつも私達に静粛な思いをもたらします。
本作、はじめは英語を用いるという企画だったのだそうですが、
監督の希望で現地の言葉となったそうです。
確かに、これを英語でやられると妙に薄っぺらくなってしまう気がしますね。
まあ、どちらにしても字幕の私達はさして気になりませんが、
地元の人々の心意気は地元の言葉で・・・。
そうだ、「あまちゃん」も方言を使いまくりだったからこその魅力でもありましたね。

ソハの地下水道 [DVD]
ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ,ベンノ・フユルマン,アグニェシュカ・グロホフスカ
東宝


「ソハの地下水道」
2011年/ドイツ・ポーランド/145分
監督アニエスカ・ホランド
出演:ロベルト・ビェンツキェビチ、ベンノ・フユルマン、アグニェシュカ・グロホウスカ、マリア・シュラーダー
歴史の重さ★★★★★
満足度★★★★★