映画と本の『たんぽぽ館』

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リリーのすべて

2016年03月26日 | 映画(ら行)
命がけの“自分”らしさ



* * * * * * * * * *

世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・ヘルベの実話です。


1926年デンマーク。
風景画家のアイナー・ベルナー(エディ・レッドメイン)と、
その妻であり肖像画家のゲルダ(アリシア・ビカンダー)は
仲睦まじく暮らしていました。
ある時、ゲルダに頼まれアイナーが女性モデルの代役を務めるのですが、
そのことでアイナーの中に眠っていた女性の意識が目覚めてしまうのです。



次第に、“リリー”として女性の姿でいるほうが
自然でいられることに気づくアイナー。
はじめのうちは面白がって、
アイナーにドレスを着せ化粧を手伝い、パーティーにも連れ出していたゲルダ。
そしてまた、アイナーの女性姿、リリーをモデルにした絵が
評判を呼びどんどん売れ始めてしまうのです。
しかし次第にアイナーではなくリリーが本体となっていく夫に不安を感じ始める・・・。



性同一障害は、今でこそ世間に広く認められていることですが、
当時はただの変態か、もしくは精神病の範疇でした。
作中では治療と称して脳に放射線を浴びせるシーンまであり、
なんとも痛ましい限りです。
通常このような映画のストーリーであれば、まっさきに妻は夫を見限って出て行ってしまいそうですが、
このゲルダは違います。
夫が、何人の医者にかかっても、精神病と言われることに納得出来ない。
リリーこそが夫の本来の姿で、たまたま男性の姿をしていることが間違いなのだと確信します。
ついにはこのゲルダが外科医を探しだし、世界初の手術となるのですが・・・。



アカデミー助演女優賞も納得のアリシア・ビカンダーでした。
ゲルダは途中までは確かに『妻』だったのですが、
後半からはリリーと同性の『親友』、
あるいは『姉』のような立場になっていきますね。
そのことを彼女は実は淋しく思っているのですが、
たとえ『夫』を失ってもリリーの一人の人間としての生き方を尊重しようとします。
そういう、強くてしなやかな女性像を上手く浮き上がらせています。



一方、エディ・レッドメインですが、
見ているうちは、やや女性としてのしぐさがオーバーなような気がしていました。
でも考えてみると、リリーとして生きたいと願う彼女は、
あえて女性を演じるほかなかったのですね。
他の女性のしぐさを真似るシーンもありました。
ドレスや化粧、身のこなし。
体ではどうすることもできないからこそ、
見た目の「形」を完璧につくりあげようと務めていた。
そういう結果の、やや過剰な女性しぐさだったわけなのですね。



それにしても実話を元にした作品というのはそのストーリー運びにも圧倒されますが、
その結末にもまた驚かされるのです。
ひたすらに自分らしくありたいと願った結果というのが・・・。
圧倒されます。


「リリーのすべて」
2015年/イギリス/120分
監督:トム・フーパー
出演:エディ・レッドメイン、アリシア・ビカンダー、ベン・ウィショー、セバスチャン・コッホ、アンバー・ハード

医学の歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆