映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラスト・ホリデイ

2009年05月15日 | 映画(ら行)
ラスト・ホリデイ [DVD]

Paramount Home Entertainment(Japan)Limited(CIC)(D)

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余命3週間といわれたら、あなたなら、何をしますか?

           * * * * * * * *

脳に腫瘍ができていて、余命3週間と宣告されてしまったジョージア。
その残された時間をどう過ごすのか・・・、
これはそういうストーリーです。
というと、すごく重いヒューマンドラマと思うでしょう?
ところがこれは、コメディなんです。
なんだかとても元気の出てしまう、ハートフルコメディ。
涙はなし!


ジョージアは、デパートの調理器具売り場で働いています。
実演販売で、お客さんの前でちょっとしたお料理を作って
試食してもらったりもする。
実は、このデパート唯一の黒字部門。
やり手NO.1の売り子なのですが・・・。
たまたま受けた脳の検査で腫瘍が見つかってしまった。
これまでろくな楽しみもなく、
地味にまじめにつつましく生活してきたのは、なんだったのだろう・・・。
せめて死ぬ前に、今まであこがれていて、できなかったことをしよう!

コツコツと積み立てていた年金をすべて解約し、
ありったけの現金を持って、
あこがれていたヨーロッパの高級リゾートホテルに乗り込む。
なんとそこで、彼女の務めていたデパートの社長や、地元の議員に出会うのです。
もちろん一介の庶民の彼女のことを、彼らが知っているはずもない。

それどころか、思い切り良くお金を使い、
カロリーも気にせずおいしい料理をほおばり、
人には遠慮せず思ったことを言う。
それがまた、的を得ていて心地よい。
そのキップの良さに、
ホテルの従業員や周りの宿泊客たちは、一体どこのセレブだろう
・・・と噂し、人気者になっていくのです。


ホテルの最上階のスイートルーム。
高級な服を好きなだけ買って、
エステにスノーボードにカジノ・・・。
本当に思い切り楽しんじゃうのです。
う~ん、私も一度はやってみたいですね。
ジョージアが、もう、ほとんど思い残すことはない・・・
というくらいになって、思い出すのは、
同じデパートで働いていた、ちょっぴり憧れの彼のこと・・・。
やっぱり帰ろう、と思ったその大晦日。
帰り道は雪崩で不通。
さて・・・。


良い物語でした。
ちょっぴり気持ちが沈んでいるような時、見るといいと思います。
私の好きなゴスペルシーンもあるのもうれしかった。
ジョージアは教会のゴスペルコーラスの一員なのですが
「なんで、私なの。
何で私がこんな不幸な目にあわなければならないの・・・!?」
と、神様に、つい、グチをつぶやいてしまう。
そのつぶやきがだんだん大きくなって、
いつの間にかリードボーカルになっていて、
皆で盛り上がったりするんです。
これぞ、真のゴスペルですね!


さて、このDVDが届くまでに、事件あり。
他の何本かとまとめてレンタルしたのです。
GW用のつもりで。
そうしたら届いた何本かの中に、「ホリデイ」のDVDが。
あれ? こんなの予約したんだっけ? 
ちょっとまて。
ジュード・ロウが出ているヤツだよね。
あの、二人の女性が家を取りかえっこするヤツ。
みたでしょ。間違いなく。
これはかなりのお気に入り作だった。
にもかかわらず、見てないつもりでレンタルしてしまった私って・・・、
と実は少なからず落ち込んだのですよね。
そうしたら、その2日後くらいにメールで連絡があって、
配送間違いでした、とのこと・・・。
あらためて、「ラスト・ホリデイ」が届きました。
無論「ホリデイ」の分は無料。
私が間違って予約したのではないことが分かって、ほっとしました。
それとあわせて、こちらから苦情を言ったわけでもないのに、
良くぞそのミスに気づいてくれた! 
ちょっと感心してしまいました。
・・・プロのお仕事とは、こうでなければいけません。
いえ、始めから間違わなければいいのですけれどね・・・。
でも、ミスを犯すのが人間ですから、
いかにミスを発見し対処するか、というのはとても重要ですね。
「TSUTAYAのネットで宅配レンタル」は、
なかなかあなどれませんよ~。

2006年/アメリカ/112分
監督:ウェイン・ワン
出演:クイーン・ラティファ、LL・クール・J、ティモシー・ハットン、アリシア・ウイット

「ニッポン硬貨の謎」 北村 薫 

2009年05月14日 | 本(ミステリ)
ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件 (創元推理文庫 (Mき3-6))
北村 薫
東京創元社

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この本を楽しむために必要なものが3つあります。
1 まず、北村薫ファンであること。
2 さらにエラリー・クイーンファンであること。
3 そして、「50円玉20枚の謎」に興味があること。

私は1と3はOKなのですが、肝心の2が全くダメ。
そもそもこの本は、
「北村薫」が「エラリー・クイーン」の未発表作品を翻訳した、
という想定の基に描かれているのです。
それなので、この文体は、
そう、まさに海外ミステリの翻訳調なんですよ。
私には、苦手感たっぷりの・・・。

エラリー・クイーンは実際に一度来日していますが、
そのときに起きた事件を基にしたストーリー。
そういうことになっています。
ご存知のように、エラリー・クイーンには「国名シリーズ」があります。
「ニッポン樫鳥の謎」という本もありますが、
実はこの原題は「The Door Between」。
この邦題は日本で勝手につけたもの。
だから、本当はこれは国名シリーズとして描かれたものではないのだそうな。
そこで、埋もれていた本当の国名シリーズの「ニッポン」版があった、
ということなんですね。

まあ、そもそも、そういうことからして、私はよくわかっておらず、
ミステリファンとしてはあるまじきエラリーオンチなので、
この本はややつらいです。
エラリーファンを自任する方でなければ
真の意味で楽しむことは、できそうにありません。


さて、もう一つ。
「50円玉20枚の謎」とは。
これはもともと実際に、ミステリ作家若竹七海さんが、
書店でアルバイトをしているときに体験した出来事なのだそうです。
あるとき1人の男性がいそいそと店に飛び込んできて、
まっすぐレジに来て、50円玉を20枚出し、
千円札に両替してくれ、と。

お店で単に両替は断られることもありますが、
この書店ではそれに応じる方針を出していたため、
千円札と交換し、その場は終わったそうなんですね。
これがそのとき一度だけなら記憶に残るほどのことでもない。
しかし、その人は毎週現れ、
きっかり50円玉20枚を差し出して両替して帰っていく。
一体、この20枚もの50円玉はどのようにして生じたものなのか、
なぜ、いつもわざわざ書店に現れて両替するのか。
このあたりが謎なわけです。
ミステリ作家仲間のうちでこの話が話題となり、
それぞれがこの謎を推理。
そうしてできた「50円玉20枚の謎」という本も出ていまして、
私はこれを読んでいます。

無論、この本はその謎だけでなく、
きちんと(?)殺人事件もあるのですが、
北村薫氏の50円玉の謎の解釈も、楽しみでした。
でも、・・・、
私としてはあまりにも抽象的こじ付けなんで、あまり納得できません。

とにもかくにも、
この本を楽しむにはかなりのエラリー・クイーン知識が必要。
ということで私は惨敗。

満足度★★★☆☆

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

2009年05月12日 | 映画(な行)
ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア (デジタルニューマスター版スペシャル・エディション) [DVD]

角川エンタテインメント

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死ぬ前に、まだ見たことのない海を見に行こう

          * * * * * * * *

余命わずかと宣告され、末期病棟の同室となったマーチンとルディ。
死ぬ前に海を見に行こうと、病室を抜け出します。
パジャマのまま裸足で。
駐車場に止めてあったベンツを失敬。
ところが、この車がギャングのもので、大金が積んであったのです。
二人の、ギャングと警察に追われながらのロード・ムービー。

難病モノ、とはいえ、この作品はユーモアがちりばめられていて、
湿っぽさはありません。

ギャング二人は黒いスーツにサングラス。
見た目はいかにも凄腕のギャングなのに、
言うことなすことトンチンカンでドジ。
なんともおかしい。

また、マーチンとルディが銀行強盗に入った先の銀行員たちも、至って冷静。
銃を突きつけられながら、
「その監視カメラは録画機能がないのよ」・・・なんて解説してくれるし、
二人が奪ったお金から分け前をもらったりしてる・・・。
世の中、いつもこんな風ならのどかでいいのですが。

さて、ついには
片やギャングの大集団。
片や警察の大集団。
はさまれてしまった二人の運命は・・・!?。
いやいや、二人はこんなことではへこたれないのです。
求めれば道は開かれる・・・。

マーチンとルディはお互いをいたわりつつ、最良のコンビとなっていきます。
どうせ、残り少ない命。
となれば、実際、もう怖いものなどないのです。
彼らは海への旅のために銀行強盗をしたり、車を盗んだりするのですが、
基本的には常識人。
それだけに、私たちはとても彼らを身近に感じてしまうんですね。

明日の命も保障されていない、というときに、
私たちは何を優先させるのでしょう。
そんなときに、ちょっとばかりの道徳は歯止めにならないし、
周りの人も、そうと聞いては
多少のことは多めに見てくれそう・・・。
しかし私だったら、小心者ですから、
多分それもできないと思ったりして・・・。

さて、この作品は、普通のロード・ムービーと比べると、
「追われる」という立場があるので、スリリング。
そして、命のタイムリミットはいつくるのかも分からない。
こういう設定だけ聞くと重苦しくなってくるところを、
よくこんな風にカラッと仕上げたものです。
この手腕はすごいですね。
最後の最後にはとうとうギャングに捕まってしまうのですよ。
彼らの運命やいかに。
そして、海を見ることはできるのでしょうか・・・!?

ドイツで大人気を得た作品ですが、たしかに、一度観て損はない作品です!

1997/ドイツ/90分
監督:トーマス・ヤーン
出演:ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ルトガー・ハウアー

ロード・オブ・ドッグタウン

2009年05月11日 | 映画(ら行)
スケートボードにかける青春群像

           * * * * * * * *

70年代。アメリカ西海岸。
わずか3年でスケートボードの世界を一新させ、
全米の若者たちが熱狂するカルチャーに変えた
伝説のスケボー集団“Z-BOYS”の実話を基にしています。
この作品はそのメンバーの1人、ステイシー・ベラルタの脚本によるものです。

サーフショップ「ゼファー」にたむろする少年たち。
ほとんど不良というかチンピラというか、
まあ、普通の大人から見ると「しょうもない・・・」
と、つい思ってしまう、少年たちですね。
しかし、この店のオーナーがチームを結成し、
スケートボードの競技会に出場すると一躍注目を浴び始める。
その技、スピード感。
これまでにはないものだったんですね。

絶好調の彼らは、水不足で水の張られていない人家のプールに忍び込み、
そこで練習したりします。
立派な家宅侵入罪なので、時には警察に追われながら、(それも楽しんだりして)
浮かれて過ごす毎日。

しかし、この無邪気な彼らを大人たちが食い物にし始める。
結局は欲得がらみの話になってしまうんです。
そうして、彼らはバラバラになり、それぞれの道を歩き始める。

題材はスケートボードですが、
行き場のない閉塞感で突っ張っていた少年たちが、
生きがいを見出し、そして夢を見失い、
しかし、また、自分の足で歩み始める。
これはごく普遍的な青春の物語なのです。
そんなところがとてもリアルに描かれていたと思います。

この少年たちがいいんですよ。
金髪かつ長髪、美しい肉体の少年たち・・・。
なんだか、吉田秋生のコミックに出てくるような雰囲気。

それから、注目すべきはこのサーフショップのオーナーがヒース・レジャー。
この人は、まるでここに出てくる少年たちが
そのまま大人になってしまったという感じ。
はっきり言って、「分別ある大人」なんかじゃ決してないのです。
これまで、好きなことばっかり自分流でやってきた。
ガラが悪くて、独りよがり。
まじめに仕事をしているステイシーをバカにしたりする。
・・・そんな風なので、次第に周りの人から愛想をつかされるのですが、
やさぐれ男の悲哀が、実に良く出ているんですよね~。
さすが、ヒース・レジャー。
要所要所で決めてくれます。
この映画に彼が出ていなければ、もっとつまらないものになっていたかも。

2005年/アメリカ/107分
監督:キャサリン・ハードウィック
出演:エミール・ハーシュ、ヴィクター・ラサック、ジョン・ロビンソン、ヒース・レジャー



ロード・オブ・ドッグタウン [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「雨恋」 松尾 由美

2009年05月10日 | 本(ミステリ)
雨恋 (新潮文庫)
松尾 由美
新潮社

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沼野は、しばらくの間、
渡米した叔母のマンションに留守番代わりに住むことになったのですが、
なんと、そこには先客がいて・・・。
それは、以前この部屋で亡くなった、小田切千波の幽霊!
彼女はなぜか雨の日だけ現れる。
現れるといっても、姿は見えない。
しかし、声は聞こえる。
その彼女が語ったことによると、
彼女は自殺しようとしたのだけれど、
急にバカバカしくなり気が変わったとたん、頭を打って気絶。
その間に誰かに殺されたらしいのだ・・・と。

幽霊が登場するミステリは結構あります。
その幽霊の能力(?)を生かし、
通常では知りえないことを知ることができて、事件解決、
そんなパターンは多いですね。
しかし、ここに登場する千波さんは、
部屋から出ることはできないし、人の心を読んだりもしない。
いつまでもこの部屋に囚われ、あの世へ行くこともできない千波の代わりに、
沼野が事件を調べ犯人を突き止めようとします。

事件について、何か一つ納得がいくごとに、
千波の姿が沼野にも見えるようになっていきます。
始めはひざから下。
次にはウエストから下。
そして首から下。
最後に顔が現れたとき・・・、
それは事件解決のときでもあるのですが、それはまた・・・。

沼野はいつの間にか雨の日を待ち遠しく思うようになっていたんですね。
つまりそれは雨恋であり、雨乞でもある。
ちょっぴりロマンチックな幽霊譚。
意外な犯人とは・・・?


どうなんでしょう。
女性が描いた女性像であるがゆえか、
私にはさほど千波さんは魅力的には思えなかったのですが・・・。

満足度★★★☆☆

バーン・アフター・リーディング

2009年05月09日 | 映画(は行)
ちょっぴりおバカな味わい・・・毒も少々

             * * * * * * * 

フィットネスセンターで働くチャドとリンダが、
CIAの機密情報が書き込まれたCD-ROMを拾います。
これを利用して、一攫千金を狙おうとする二人。
これは元CIA職員のオズボーンのものだったのですが・・・。
そのオズボーンの妻、ケイティは財務省連邦保安官ハリーと不倫中。
しかしハリーは無類の女好きで、
出会い系サイトでリンダと知り合って、付き合い始める・・・。

このように登場人物の様々な思惑が、それぞれに関連しあい、
いつしか意外な方向へストーリーが転換していきます。
ドタバタクライムコメディとでもいうのでしょうか。
しかし、この作品を「コメディ」と呼ぶにはちょっと抵抗がある。
普通におかしいコメディとは違って、これはコーエン兄弟監督作品ですから。
ブラックなユーモアたっぷり。

私たちは必死で生き、生活しているつもりなのですが、
傍から見ると、こんな風に滑稽なものなのかも・・・、なんて思ってしまいます。

例えばこんな風です。
オズボーンは実はCIAをクビになったのですが、
妻や周りの人には自分からやめたといっている。
それを噂した人曰く
「彼は、CIAを自分からやめたといっているよ。」
「昨今は、クビのことをそういうんだ。」
会話がしゃれていますねえ・・・。

また、ここに登場するブラピは頭が空っぽの筋肉オタク、という役どころ。
彼のこれまでのイメージとは全然違います!
しかし、いつものクールな彼を知っているからこそ、笑えちゃうんですね。
殴られて、目を白黒させて、鼻血を出しているブラピだなんて・・・。
ジョージ・クルーニーもまた、ナンパが得意のへなちょこ野郎だし。

バーン・アフター・リーディング・・・、読後焼却のこと。
情報漏洩には気をつけましょう!!

監督・製作・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニー、ジョン・マルコビッチ、ティルダ・スウィントン


バーン・アフター・リーディング 日本語予告編



恋に落ちたシェイクスピア

2009年05月08日 | 映画(か行)
恋に落ちたシェイクスピア コレクターズ・エディション

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「ロミオとジュリエット」で悲しみのロマンス2倍

        * * * * * * * *

98年度アカデミー作品賞受賞作。
シェイクスピアが主人公と来れば、
もっと地味で難解な物語なのでは・・・と実は思っていたのです。
でも、これはとても楽しめてしまう、ラブロマンスでした。
楽しめる・・・というべきではないのかな。
一応悲恋なので。
しかし、ユーモアを交えつつ、切なく燃え上がる愛に、
ついつい引き込まれてしまいます。


エリザベス朝、ロンドン。
シェイクスピア(ジョセフ・ファインズ)はすでに売れっ子の劇作家ですが、
スランプに陥っている。
そんな時、裕福な商人の娘ヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)と出会い、
恋に落ちる。
彼女は演劇が大好きで、男装してオーディションに来ていたのですね。
当時、舞台に女性が上ることは許されていなかった。
だから、演劇では男性が女装して演じていたんですね。
日本でも、古来は同じ。
・・・洋の東西を問わず、セクハラの時代は長かった・・・と。

まあ、それはさておき、
このヴァイオラには、親が決めた婚約者がいる。
こちらは貴族で、おもいきり嫌なヤツ。
(しかし、この人が、コリン・ファースなんですよ! もったいない・・・。)
この結婚はエリザベス女王も認めており、そむくわけにもいかない。
けれど、二人の思いはますます燃え上がり、ひそかな逢瀬を続ける。

このあたりから、シェイクスピアの創作意欲にも火がつき、
堰を切ったように物語を書き始めるのです。
それが「ロミオとジュリエット」。
もともとは喜劇の予定だったのですが、
自らの報われない愛を反映し、悲恋へと姿を変えてゆく。

シェイクスピアとヴァイオラ、そしてロミオとジュリエット。
この二つの恋が交差し絡み合い、奥行きの深いストーリーとなっています。

シェイクスピアの劇のセリフは、
ちょっと難解でとっつきにくいと思っていました。
そもそも、きちんとシェイクスピアの劇を見たこともないですもんねえ・・・。
この作品で、二人の逢瀬と劇の練習の映像、そこに劇のセリフがオーバーラップするシーンがありました。
そこでは、詩のようなセリフにこめられた思い、感情の高まりが
スムーズに胸にしみ込んできて、泣けてしまいました。
これが、シェイクスピアの力なんですねえ・・・。
そしてまた、ラストには当然あの、
「ロミオとジュリエット」のラストシーンが来て、また泣けて。
ここのジュリエットは女装の男優ではありませんので、ご安心を!

結局ラストは、ハッピーエンドとはいいがたいのですが、
でもこれもまたなかなか希望に満ちていて、すがすがしいものでした。
これは、男装が良く似合うヴァイオラらしさが良く出ています。
彼女のその後の物語を予感させます。


登場人物たちも、どれもいいのですよ。
エリザベス女王を演じるのはジュディ・デンチ。
さすが迫力です。
女王が水溜りの前へ来て、ふと立ち止まる。
お付の騎士たちは一瞬躊躇した後、
マントを脱ぎ、水溜りに敷こうとする。
女王は「ふん、遅いのよ!」といって、そのままバシャバシャと歩いてしまう。
おかしいですよね。
でも、こういう感じ、好きです。
この映画の後の映画作品で見知っているだけですが、
いかにもエリザベスっていう感じもします。

ヴァイオラの乳母も、良かったですよ。
とにかくヴァイオラが好きで、ちょっと甘やかしてしまうところもある。
二人の秘密の逢瀬がばれないように、
一晩中部屋の前で見張っていたりするんですから。

かと思えば、ベン・アフレックまで出てる。
他にもジェフリー・ラッシュにトム・ウィルキンソン。
おやまあ、なんと豪華な出演陣。
絶対に観て損のない作品です。
・・・というか、今回初めて観たという私のほうが、変ですよね?

1998年/アメリカ/123分

監督:ジョン・マッデン
出演:ジョセフ・ファインズ、グウィネス・パルトロウ、ジュディ・デンチ、ジェフリー・ラッシュ、トム・ウィルキンソン、コリン・ファース、ベン・アフレック

「たぷたぷ だいあり」 坂田靖子

2009年05月06日 | コミックス
たぷたぷ だいあり (あさひコミックス)
坂田 靖子
朝日新聞出版

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さて、坂田靖子さんのコミック新刊、2冊目。
こちらは、彼女のエッセイ漫画で、見開き2ページで一話。

これまた本の背表紙の解説を借りますと・・・

「日常の中に潜む素朴な疑問・・・。
ミルクティのミルクを沸騰させて作ったら、死ぬほどますい!
坂田が定めるセクハラの基準とは? 
さりげない事柄を、普通ではありえない基準で解決(!?)する
エッセイ・漫画集!!」


金沢在住の彼女の日常がユーモラスに語られています。
お料理に関する話題も多い。
そう難しい料理ではないのです。
簡単に作れてしまえそうなものが多い。
でも、食材がわが北海道とはちょっと異なりますね。
そういうところがまた郷土色も感じられて、良いのです。

ただ、この本の作品は、2000年から2001年にかけて書かれたもの。
ひどく容量の小さいパソコンで苦労する話などもあって、
ああ、そういえばそういう時期もあったって、
ちょっと懐かしい気すらしてしまいます。
10年も前の話ではないのにね。

それで、現在の著者を知りたい方は、「サカタBOX」へ、どうぞ。
こちらは、漫画ではなくて、文字なのがちょっと残念ですが。
あ、簡単料理の紹介もあった!

満足度★★★★☆

サカタBOXより

「海に行かないか」 坂田靖子

2009年05月05日 | コミックス
海に行かないか
坂田 靖子
朝日新聞出版

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久し振りに、坂田靖子さんのコミック新刊が出ていたので、購入しました。
しかも2冊。
こちらの「海にいかないか」は、まず、ショートストーリー集。

本の背表紙の解説を借りますと・・・

「楽しくて、笑えて、ちょっと考えてしまう坂田ワールドがここに終結!!
ほのぼの気分幸せいっぱいのショートストーリー集です」

うむ、まさに、その通りですな。
メルヘン、というほどには夢々していない。
どこか現代の日常の感情を臭わせながら、とぼけた口調で語られていく。
登場人物たちも、いかにも人がよさそうなんですよね。
単純化されたこの絵柄からも、そういうムードが漂っています。


始めの方に、ドラゴン退治をする騎士のお話があります。
この本では珍しく2話連作。
旅の騎士がドラゴンの住むという洞窟に入ってみると、
ドラゴンは桶にはまり込んで抜け出せなくなってしまっていた。

こんなものを退治したからといって
「風呂屋の騎士」とかヘンな名前で呼ばれるだけだ――――名誉にも何にもなりゃしない
帰ろうとする騎士。

また、あるときには
竜が飼いたいというわがままなお姫様のリクエストで、竜を捕まえに行く騎士。
犬かネコか山羊かブタにすればいいのに・・・。
しょうがない、行ってくるか。
ぼやく騎士。

普通にサラリーマンみたいな騎士ですね。
こんな感じで、悲壮感とか決死とかには縁のナイ登場人物たち。
このユル系が今時、癒しですよね。
でも、この著者は、何も今の時代だからこうなのではなくて、
少なくとも、デビューしたての私の知っている時分から、
ずっとこのスタイルなんです。
だから、好きなんです。

坂田さんはよほどこの騎士がお気に入りらしくて、
あとの方でもまた登場します。
そこでは鎧が磁気を帯びて磁石になっちゃう。
お城で鍋釜やスキやクワがくっついてしまうので、
気をつけてくださいよ、なんて下働きの人に怒られたりしてる。
まあ、肩こりにはいいかも・・・。

でも、時々あるシリアス作品もいいんですよ~。
私のおススメコミック作家です。

私の好きな作品は
「バジル氏の優雅な生活」
「マーガレットとご主人の底抜け珍道中」
シリーズもので、すべて読もうとすると結構な分量になりますが・・・。

満足度★★★★☆


デュプリシティ/スパイは、スパイに嘘をつく

2009年05月04日 | 映画(た行)
大企業は、したたかだった・・・

            * * * * * * * 

デュプリシティとは二枚舌のこと。
このストーリーはとにかく、狐と狸の騙しあい。
心してみなければ・・・。


トイレタリー業界の最大手B&R社。
そことは最大のライバルのエクイクロム社。
エクイクロム社は、スパイチームを結成し、相手方の機密を入手しようと躍起。
そこに加わったのが、元MI6のエージェント、レイ(クライヴ・オーウェン)。更には、B&R社には、
元CIAエージェント、クレア(ジュリア・ロバーツ)を、
潜入スパイとして送り込んでいる。
しかし、この二人には過去からの因縁が・・・。
お互い心惹かれながらも、信用していいものかどうか、間合いを計っている。
男と女のかけ引きだけでも大変なのに、
さらにスパイとしてのかけ引きですからね・・・、これは大変。
二人の出会うシーンが何度かあるのですが、
そのつど同じセリフの繰り返し。
ここは、つい、にんまりしてしまいます。


始めの方に、この二社の代表の喧嘩のシーンがあります。
口論の末に手が出て、取っ組み合い。
まるで子どものけんか。
この二社の争いといっても、こんな感じで、ほとんどお互いの意地の張り合いです。
でも、これが国と国の対立でもなく、
武器を扱っている危ない企業などでもない。
ごく生活に密接した日常的なものを扱う企業同士の対立、
ということで、なんだかユーモラスで、
肩の力を抜いて楽しめてしまうところがいいですね。

とはいえ、新製品があたれば、とてつもない収益となるわけで、
社運をかけた諜報合戦が繰り広げられるわけです。

このようなドラマは、でも、なんとなくラストの予想がつきませんか。
紆余曲折の末、結局このスパイの二人が愛で結びついて、
双方の企業を出し抜き、勝者となるのだろう・・・と。

ところが、そうは行かないんですよ・・・。
良い意味で裏切られた感じ。
とってもしゃれたラストシーンでした。
つまりは、MI6もCIAも、
したたかな商人(ここは、「あきんど」と読みたいですね)にはかなわない・・・ってことで。
この世界的不景気に、企業もこれくらい元気を出して欲しいって、願望でしょうか。

さて、彼らが血眼になって手に入れようとした、新製品の情報。
その新製品とは、何だったのでしょうか。
これも、ちょっと笑っちゃいますが、確かに切実なものでもあります。
ぜひご覧になって確かめてください。

2009年/アメリカ/125分
監督:トニー・ギルロイ
出演:ジュリア・ロバーツ、クライヴ・オーウェン、トム・ウィルキンソン、ポール・ジアマッティ

デュプリシティ スパイは、スパイに嘘をつく 予告編 DUPLICITY Trailer Japanese







シャイン

2009年05月03日 | 映画(さ行)
シャイン [DVD]

パイオニアLDC

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音楽の神に愛されたあまり・・・

* * * * * * * *

オーストラリア出身の実在の天才ピアニスト、
デイヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いています。

ここで特異なのは、単なるピアニストの成功譚ではなく、
認識機能障害を持ちながら、復帰を果たした、という点。

天は二物を与えず、などという言葉があります。
まるで音楽の神に愛されたかのような天賦の才。
しかし、彼の精神は音楽にのみ向けられているかのようで、
自分の世界のみに生きている。

映画では彼の幼少の頃から描かれていますが、
多分にその父親との関係が
彼の精神形成に影響を及ぼしていることを匂わせていました。
すべてを支配下に置かなければ気がすまない、独善的で威圧的なその父親。
これもまた、常軌を逸しているかのように見受けられます。
一度はアメリカ留学の話が持ち上がったのですが、
この父親の反対により、中止。
その後のロンドンの王立音楽大学入学も、
父親の反対を押し切ってのものでした。

いかにも神経を病んでいて普通ではないのですが、
それでも、いろいろな人の支えがあって、演奏活動を続けることができる。
こういう点も大事だと思います。

いかにも神経質そうな、このピアニストをジェフリー・ラッシュが見事に演じ、
アカデミー賞主演男優賞を獲得しています。
コンクールでのラフマニノフピアノ協奏曲第3番の演奏シーンが圧巻でした。
まさに、なんて難しそうな曲・・・。

1995年/オーストラリア/105分
監督:スコット・ヒックス
出演:ジェフリー・ラッシュ、ノア・テイラー、アレックス・ラファロウィッツ、アーミン・ミューラー・スタール

シャイン




「シンデレラ・ティース」 坂木 司

2009年05月02日 | 本(ミステリ)
シンデレラ・ティース (光文社文庫)
坂木 司
光文社

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この著者は、「青空の卵」から始まる引きこもり探偵のシリーズで、
ファンになりまして、
この本も、迷わず買いました。
大学の夏休み中、歯科医の受付のバイトをする咲子が主人公。
一応ミステリですが、
歯医者さんで殺人事件が起こったりはしないのでご安心を。
「日常の謎」を解いてゆくストーリーです。


例えば、
ある女性患者の関係者と思われる男が突然乗り込んでくる。
『何でこんなに治療に長くかかるんだ! 
しかも、とんでもなく強い薬まで出して!』
・・・しかし、それは全く事実無根。
これは一体どういうこと・・・?

また、例えば、
ある男性は電話の受け答えはとても感じがいいのに、
実際に通院してくる時はいつもつっけんどん。
こんなに印象が違うのはなぜ・・・?

患者が心に持つ大事な秘密を解き明かしていきます。


咲子は実は、子供の頃かかった歯医者の印象が最悪で、
大の歯医者嫌い。
歯医者嫌いというよりは、すでに恐怖症。
そのとき以来、一度も歯医者にかかったことがない。
ここのバイトも母親に騙されて受けることになってしまった。
そんな咲子だったのですが・・・。

ほんとに、歯医者って、できれば行きたくないところの一つですよね。
あの歯を削る時の音を聞いただけで逃げ出したくなってしまう。
でも、ここの歯科医が、すごくいいんですよ。
患者の気持ちを大事にする。
そして、スタッフもまた、個性豊かで、それぞれ素敵な人ばかり。
あまりにも皆いい人過ぎるよ~、と不満に思ってしまうくらい。
本当にこんな歯医者さんがあれば患者としていってみたいし、
働いてもみたい。
いやいや始めたバイトではありながら、
患者やスタッフの役に立つとうれしく、
どんどんやりがいを感じて、
受付でも、歯科の知識がなくては・・・と、勉強まで始める。

こういう、成長の物語でもあるのです。

そしてまた、私としてはここがポイント高いのですが、
歯科技工士、四谷へのほのかな思い・・・、
その恋の行方。
これがいいんです!!
四谷は気取らなくてちょっとぶっきらぼう。
でも、すごく細やかな観察眼。
器用なその手、細くて美しい指。
男性のきれいな指って、なんだかちょっとドギマギしちゃいます。
私も、こういう人は好きだなあ・・・、
なんて、それはどうでもいいのですが。

というわけで、いろいろな方向から楽しめてしまう。
おススメです!

満足度★★★★☆

ジェロニモ

2009年05月01日 | 映画(さ行)
ジェロニモ [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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滅び行く民族と文化への鎮魂歌

           * * * * * * * *

西部劇、とはいえ熱い男のロマンはありません。
合衆国騎兵隊を相手に抵抗した伝説のアパッチ族戦士、
ジェロニモにスポットを当てています。
大抵の西部劇では、アパッチは最大の敵。
しかし、元はといえば彼らの土地に勝手に進入してきたのは白人なのですから・・・。

このドラマは、20年の抗争の末、ジェロニモが軍に投降するところから始まります。
ジェロニモの護送の任にあたったのは、
ゲイトウッド中尉(ジェイソン・パトリック)と、
士官学校を出たてのデイヴィス少尉。
物語はこのデイヴィス少尉(マット・デイモン)の視点で語られています。

ゲイトウッド中尉は、アパッチ族を良く理解し、
これ以上のお互いの殺戮は避けたいと思っています。
その彼の元でジェロニモを護送する旅。
誇り高く、ときに猛々しいジェロニモ。
デイヴィス少尉はゲイトウッド中尉ともども、彼に惹かれていくのです。

アパッチ一族は、保留地に移され、そこで農耕生活を強いられます。
しかし、この広い大地を駆け回り生活してきた彼らには
苦痛以外の何物でもない。
あるいざこざから、ジェロニモは数十人を引き連れて脱出。
しかし、圧倒的な白人の軍勢や文化に抗い続けることは、無理な話です。

皮肉なことに、ゲイトウッドやデイヴィスは、
アパッチの身柄引き渡しを要求する保安官や、
アパッチを惨殺し、賞金稼ぎをする一団と敵対し、
白人からアパッチを守ったりします。
もうこうなると、何が正義なのかも分からない。

マイノリティの側に寄り添って考えることができる、
このような人物は、当時でも、そう多くはなかったのだろうと思います。
しかし、白人の持つ圧倒的な力は、もはやとどまることがない。
ネイティブアメリカンがこの地での長く培ってきた文化は、
そこでヨーロッパ文化に飲み込まれてしまいました。

この映画は、戦いを描いているのではない。
滅び行く民族と文化への鎮魂歌なのだろうと思います。
だから終始静かな語り口で、極端なクライマックスもない。
言ってみれば、やや退屈ともいえるわけですが、
でも、このテーマとしてはこれが妥当なところでしょう。

1994年/アメリカ/115分
監督:ウォルター・ヒル
出演:ジェイソン・パトリック、マット・デイモン、ジーン・ハックマン、ロバート・デュバル、ウェス・ステューデイ