映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「昨夜のカレー、明日のパン」木皿泉

2016年03月11日 | 本(その他)
水面に波紋が広がるように・・・

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)
木皿 泉
河出書房新社


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7年前、25歳で死んでしまった一樹。
遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、
テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、
周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。
本屋大賞第二位&山本周五郎賞にもノミネートされた、
人気夫婦脚本家による初の小説。
書き下ろし短編「ひっつき虫」収録!


* * * * * * * * * *


本屋大賞第2位という触れ込みで売りだされている本ですが、
いやなるほど、それも納得、じんわり心にしみる感動作です。
そもそも私、この著者のことをよく知っていなかったのですが、
和泉努さん、妻鹿年季子さん、
脚本家ご夫婦のユニットなんですね。
だから確かによくプロットが練ってあって、
人物関係が繋がり合っていくところなどはとても楽しい。


本作で軸になるのは、7年前に、25歳で病で亡くなった一樹。
そんな彼を取り巻く周りの人々の今や過去を
まるで水面に落ちた一滴の雫から波紋がゆったりと広がっていくように、
描いています。


残された嫁、テツコは、今も一樹の父であるギフと一緒に暮らしています。
そんなテツコの恋人である岩井さんは、
テツコと結婚したがっているのですが、
テツコにはそんなつもりはないように見受けられる。
一方、隣家に住み、一樹の幼なじみでもあるタカラは、
飛行機の室内乗務員だったのだけれど、
ある日「笑うこと」を忘れてしまい、仕事をやめている。
けれど、同じく「困った」状況にある元同級生と出会って、
新たな道を歩み始める。
かつてパチンコ依存症であったというギフは、
何故かテツコの恋人、岩井くんと親しくなっていく・・・。


人と人との関係はこんなふうに何気なくどこかでつながっているのかもしれません。
誰もが悲しみを胸にしまいながら、
だけれど、大げさに泣き叫んだりはしない。
そっとその悲しみを見つめて、むき合って、
そして人と人との出会いの中で悲しみを癒していく。
静かで味わい深く、ほんのり癒し系の作品です。


「昨夜のカレー、明日のパン」木皿泉 河出文庫
満足度★★★★★

ヘイトフル・エイト

2016年03月10日 | 映画(は行)
ヘイトフル・エイト?



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あれ?
 西島作品じゃないけど、私たちが出てきちゃいましたね。
何しろトンデモ作品なので、私たちの出番ってことで・・・。


クエンティン・タランティーノ監督作品だもんねえ・・・。
 で、これ、西部劇なんだね。
そう、一面真っ白な雪の中で、あんまり西部劇って感じはしないけど。
 舞台は南北戦争から数年後のワイオミング。
 間違いなく西部劇です。
冒頭、雪で埋もれたキリスト像の道標の映像に、
 やけに重々しく、またちょっとアクの強い音楽が重なるよね。
そう、これが後で知ったんだけど、音楽はエンニオ・モリコーネでした。
だからさ、やっぱり西部劇!! 
 いかにも往年の西部劇という雰囲気の幕開けなのであります。



さてストーリーは・・・
吹雪のため閉ざされた一軒のロッジ風雑貨店。
 この設定が何やらミステリっぽいのだけれど・・・。
そうだね、一人また一人と死人が出るけど、犯人探しともちょっと違う。
 しかし、思いがけない展開は確かにある!!
 しいて言えば、生き残るのは誰か・・・?


まずは、賞金の掛かったお尋ね者ドメルグ(唯一の女性登場人物)を捕らえたジョン・ルースが、
 彼女を町まで連行しようとする道中、吹雪になってこの小屋に避難するんだね。





 途中で同じく賞金稼ぎをしているマーキス・ウォーレンと、
 自称新任保安官のクリス・マニックスを拾う。





 その小屋には店主から留守を頼まれたというボブと3人の先客がいる。



縛り首の処刑人と、カウボーイ、そして南軍の元将軍の老人だね。







一見、たまたま集まった、なんの関係もない人々のようなんだけど・・・
この中に、ドメルグを救い出すために紛れている人物がいる、と、ウォーレンは言う。
 それは一人か、もしくはそれ以上・・・。
言われてみれば誰も彼も怪しい奴ばっかり!!
 で、まずは二人がコーヒーに入れられた毒で死ぬのを皮切りに、
 小屋は血みどろの殺戮の場と化していくわけ・・・。
 まあ、あんまり楽しくはないよねえ・・・
けど、結局この話は、この題名自体が罠なんじゃないの?
ヘイトフル・エイト、ね。
 ・・・確かに。


ここまで血みどろだともう、残酷感は麻痺しちゃうけど、
 考えてみるとこのストーリーはとにかく平等だという気がする。
えー?平等?
 むちゃくちゃ黒人差別発言があったじゃない。
それはそうだけどさ、本作での「死」とか「本性」の扱いは全く平等なんだよ。
 白人も、黒人も。
 男も女も。
 老いも若いも。
 お尋ね者も保安官も。
 善も悪もない。
 おまけにだれにも正義がない。
 普通はストーリー上どこかに肩入れするヒイキがあるじゃない。
 でも、そういうところがほんとに平等で、潔いわーって思う。
なるほどね・・・。
 ま、好きではないけど、面白い作品ではあった・・・。
タランティーノ監督らしい、ブラックな味わいと、過剰な血みどろ合戦が好きな方なら
 間違いなく楽しめます。

「ヘイトフル・エイト」
2015年/アメリカ/168分
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン
血みどろ度★★★★★
意外性★★★★☆
満足度★★★☆☆


の・ようなもの

2016年03月09日 | 映画(な行)
セピア色の青春を楽しむ



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最近公開された「の・ようなもの のようなもの」。
興味はあったのですが、結局見逃してしまい
見るのは後日になると思います。
が、いずれにしても、その元になる本作「の・ようなもの」を見なくちゃイカンでしょう、
ということで拝見。


1981年、森田芳光監督の映画デビュー作です。
修行中の二つ目落語家“志ん魚(しんとと)”を中心とした青春グラフィティ。
軽妙さとさりげない青春の切なさ、
なるほど、こういう感じ・・・。
が、しかし、当時の時代雰囲気が色濃く、懐かしさは感じますが、
作品としてはいかにも古いなあ・・・という感覚は拭いきれません。
セリフも多くの人がド素人調・・・。
でもまあ、こういうセピア色の青春を懐かしみ楽しむのにはいい作品です。


23歳の誕生日を迎えた志ん魚は、仲間のカンパで初めてソープランドへ。
(作中では“トルコ”となっていて、それもいかにも時代を感じます。)
彼はそこで働くエリザベス(秋吉久美子)と出会う。
エリザベスは純な彼を好ましく思い、電話番号を教えます。
付き合い始める2人。
おお、秋吉久美子さん!! 若く美しい。
ちょっとエキセントリックで浮世離れしているところがいかにも彼女らしい。
そんなある日、近所の女子高の落研に講師として招かれた志ん魚。
女子高生・由美を好ましく思いますが・・・。
あくまでもソープ嬢との付き合いは、遊びと割り切るのか・・・。
若干、私としては納得出来ない感じもあるのですが・・・。
でも“エリザベス”さんは、限りなくオトナですねえ・・・。


ただ、深夜から明け方、街を独り語りしながら歩き続ける志ん魚のシーンは、印象的でした。
制作されたその時にこそ、生きる作品なのだろうと思います。
まあ多分、多くの作品はそうなのでしょうけれど。


これまた若い、小堺一機さんと関根勤さんが
コンビででてくるのがお慰み!!

の・ようなもの [DVD]
森田芳光
角川エンタテインメント


「の・ようなもの」
1981年/日本/103分
監督・脚本:森田芳光
出演:伊藤克信、秋吉久美子、尾藤イサオ、でんでん

満足度★★★☆☆

トゥ・ザ・ワンダー

2016年03月07日 | 映画(た行)
詩的に描かれる、愛と孤独



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パリに住むシングルマザー、マリーナ(オルガ・キュリレンコ)は
モン・サン・ミッシェルで、
アメリカから来たニール(ベン・アフレック)と出会い、情熱的な恋に落ちます。
ニールに誘われた母子は、アメリカに渡り
オクラホマ州の小さな町で暮らし始めます。
しかし、幸福感に満ちた時は短く、次第に情熱は失われていく。
ニールは幼なじみのジェーンに心惹かれ始めるのですが・・・。



このように書くと、どこにでもありそうなラブ・ストーリーなのですが、
本作は全然「ラブ・ストーリー」というイメージとはかけ離れています。
登場人物一人ひとりのモノローグで、状況が語られていきます。
日々の彼らの日常を写し出していきながらどこか詩的。
モン・サン・ミッシェルの情景がステキでしたね。
こんなところで出逢えば、確かにロマンスは生まれそう。
さてしかし、マリーナは、
ニールを愛すれば愛するほど孤独を深めていくようにも思えるのです。
それは、至福の時は確かにあるけれども、それでもやはり人は結局は一人なのだ・・・
という真理に気づいているからなのかもしれません。
二人の間にできてしまった隙間を埋めるかのように、
他の人をまた求めてしまう・・・。



ベン・アフレックがベン・アフレックに見えないくらいに、
ここではオーラを消しているような感じ。
あえて顔のない“男”として描かれているようです。
だから、彼はやはり通り過ぎていく男なのだろうな。
消えゆく愛・ロマンへの挽歌というにふさわしい作品です。



しかし、現実的には私は思うのですが、
マリーナは仕事を持つべきだったのですよ。
常にニールへの愛だの恋だの思いつめてるからこうなる。
もっと、ちゃんと生活しなよ! 
そうすれば他の人達との繋がりもできてくるのに。
ま、そんなことになったら本作は成り立ちませんが。



「トゥ・ザ・ワンダー」
2012年/アメリカ/112分
監督:テレンス・マリック
出演:ベン・アフレック、オルガ・キュリレンコ、レイチェル・マクアダムス、ハビエル・バルデム
ロマンス度★★★★☆
満足度★★.5

ザ・ブリザード

2016年03月06日 | 映画(さ行)
いかにも凍り付きそうな海で、人々のこころざしが熱い!



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アメリカ沿岸警備史上最も偉大なミッションとして語り継がれる
SSペンドルトン号の救出劇を映画化したものです。



1952年。
真冬の北大西洋を史上最大級のブリザードが襲い、
大波に揉まれて巨大タンカーがまっ二つ。
なんともゾッとしてしまう映像です。
バーニー(クリス・パイン)率いる4人の沿岸警備隊が
定員12名の小型救助艇で荒れ狂う海へ乗り出し、
タンカーが沈むまでの約3時間、決死の救助活動に当たります。


この時代のちょっとレトロな雰囲気がまたいいのです。
ハイテクなし。
人の知識と工夫、そして勇気が全てというところが、いっそ潔い。





タンカーの乗組員たちも、ただ救助を待つだけではなく、
勇気と知恵を振り絞って自分たちの出来るだけのことをする。
助けようとするものと助かろうとするもの、
双方の気持ちや状況のベクトルが奇跡的に重なり成功した
・・・そういうことなのだろうと思います。



沿岸警備隊のバーニー・ウェイバー、
そしてタンカーの一等機関士であるレイモンド・シーバート(ケイシー・アフレック)。
この二人が、それぞれのリーダーシップをとることになるのですが、
どちらも、普段はどちらかと言うと気弱な感じなのです。
自己主張がないと言うか
「オレが、オレが」という目立ちたがるようなところがない。
バーニーなどは彼女の方からプロポーズされてしまうくらい。
けれどもこの二人は、自分の仕事の知識や経験には自信があって
誇りに思っている。
こういう人物像が、このミッションにはとてもしっくり来ていたように思います。
バーニーが、いかにもやる気と正義感に満ちた
自信満々、何が何でもオレについてこい!!タイプだったら、
実話の映画化なのに、いかにも作り話みたいになってしまったかもしれません。
控えめだからこそ、静かな感動が押し寄せます。



それにしても、寒々しかったですねえ。
吹雪の海。
あんなところで海水をかぶったら、それだけで凍え死んでしまいそうな気がしますが。
12人乗りの船に結局32人を救出して乗せたというのも凄い・・・。



「ザ・ブリザード」
2016年/アメリカ/118分
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:クリス・パイン、ケイシー・アフレック、エリック・バナ、ホリデイ・グレインジャー、ベン・フォスター

寒々しさ★★★★★
嵐の迫力★★★★☆
満足度★★★★☆

天の茶助

2016年03月05日 | 映画(た行)
人の運命は単なる気まぐれなシナリオか?



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天上で、地上に生きる人間たちの運命のシナリオが書かれている。
そんな設定の物語です。

その無数のシナリオライターたちにお茶を汲む担当の茶助(松山ケンイチ)。
その茶助の何気ない一言でシナリオが書き換えられ、
茶助が気にしていたユリ(大野いと)が交通事故で死ぬことになってしまうのです。
茶助はユリを助けるために人間界に降り立つ。
そこで彼は奇跡の力を駆使し、病んでいる人々をも助け始めるのですが・・・。



沖縄を舞台として、エイサーなど地元の祭事・祭礼の中で、
天界と通じる男を描くということで、
その雰囲気はとても良いのです。
沖縄はどこか天界に近い・・・
まあ確かに、我が北海道よりはずっと天に近い感じがする。
南国ゆえなのでしょうかね。
いいなあ・・・。



でも、それはいいとしても本作の設定自体に難があるような気がします。
一人ひとりの運命のシナリオ・・・。
一体ライター一人で何人分を描くのかなあ・・・。
で、天から降りた茶助に、人の病を癒す力があるというのも
なんだか都合が良すぎるような。
途中でその茶助自身の真実が明かされるというところでははっとさせられるのですが、
全体にご都合主義でとりとめなく、感動の持って行き場がないような・・・。
だって、先がどうなろうと、それが「シナリオ」でした、で済んでしまう。
だからなんだか人の心理とか行動とかに説得力がなくて、
共感も湧かないということかもしれません。
せっかくの松山ケンイチさん出演作でしたが、残念でした。



天の茶助 [DVD]
松山ケンイチ,大野いと,大杉 漣,伊勢谷友介,田口浩正
バンダイビジュアル


「天の茶助」
2015年/日本/105分
監督・原作・脚本:SABU
出演:松山ケンイチ、大野いと、大杉漣、伊勢谷友介、田口浩正
ファンタジー度★★★☆☆
沖縄度★★★☆☆
満足度★★.5

「ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石 上・下」 伊集院静

2016年03月03日 | 本(その他)
短い人生をエネルギッシュに駆け抜けた男

ノボさん(上) 小説 正岡子規と夏目漱石 (講談社文庫)
伊集院 静
講談社


ノボさん(下) 小説 正岡子規と夏目漱石 (講談社文庫)
伊集院 静
講談社


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伊予・松山から上京した正岡常規(子規)は
旧藩主久松家の給費生として東京大学予備門に進学すると、
アメリカから伝わった「べーすぼーる」に熱中する。
同時に文芸に専念するべく「七草集」の執筆に取り組んでいる頃、
同級生で秀才の誉れ高い夏目金之助と落語で意気投合するが、
間もなく血を吐いてしまう。(上)


心血を注いだ小説の道を断念した子規は帝大も退学し、
陸羯南が経営する新聞「日本」に入社する。
母と妹の献身的な世話を受け、
カリエスの痛みをおして俳句をはじめとする
文芸の革新に取り組む子規を多くの友が訪れ、
「ホトヽギス」も創刊されるが、
漱石はイギリスへと旅立っていく…。
司馬遼太郎賞受賞作。(下)


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ノボさんイコール正岡子規、というのは「坂の上の雲」で知っていました。
もっとも司馬遼太郎の原作ではなく、NHKのドラマの方ですが・・・。
だからなんとなく、正岡子規を香川照之さんのイメージで、ずっと読んでしまいました。
まあ、別に不都合はありませぬ。


冒頭、若きノボさんは、べーすぼーるに夢中。
とにかく時間さえあれば野球の練習をしています。
なんだかいいですねえ。いかにも若くて。
でも、後々このシーンが限りなく貴重な青春の日であったことが見えてきます。
だから、とても大事なシーン。


いや、お恥ずかしいのですが、そもそも私、
正岡子規のことがよくわかっていなかった。
現在の俳句や短歌は日本文学の重要な一ジャンルであることは間違いありませんが、
その基礎を作ったのがこの方。
明治のその頃、俳句や短歌はご隠居の趣味みたいに思われていたのですね。
海外からどんどん目新しい物が入り込んできて、
日本古来のものがみすぼらしく古臭いものと思われていたのだろうと思います。
けれど、正岡子規は古来の歌を集大成し、体系づけていく
ということをライフワークとして、
そして、自らも創作に励み、また、句会や新聞紙面などを通じて後継者を育てていった。
本作に登場する彼の交友関係を見ても、国語の教科書で知った俳人たちの名前がズラリ。
まさに、正岡子規なくしては、現代の俳句や短歌という芸術表現はとっくに滅びていて、
「古文」の授業の中にしか出て来ないものになっていたかもしれません。


・・・と、堅苦しい前置きをしてしまいましたが、
本作はそんな偉人の「伝記」ではありません。
ノボさんが抱いた大志。
けれど病という障害に阻まれながらもなお、憑かれたように己の道をゆく、
そういう「明治」の人のエネルギッシュな生き様が生々しく描かれています。
そしてまた、こちらもまた、近代小説を語るには無くてはならない
「夏目漱石」との交流も描かれます。
文芸という同じ道を志す二人。
性格はかなり異なっているのですが、奥底の方でつながってるという感じです。
後に、子規の郷里に漱石が教師として赴任し
小説「坊っちゃん」の元になる体験をする
というのがまた面白い縁ですね。


それにしても「結核菌」というのは恐ろしいです。
肺結核が恐ろしいのはわかっていたつもりですが、
その菌が脊椎に入り込んで組織を腐らせる、
それがカリエスだということを知りませんでした。
凄まじく痛むらしいのです。
晩年はほぼ寝たきり。
正岡子規の母と妹がつきっきりで看病したといいます。
当時の男子らしく、全くわがままで、金銭感覚もない。
よくもまあ、耐えたこと・・・。
闘病の末、34歳で亡くなったという・・・
短い人生をエネルギッシュに駆け抜けました。


明治の男の凄さ、そしてまた女の凄さ・・・そんなことも考えさせられました。
迫力の筆に、一気読みです。

「ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石 上・下」伊集院静 講談社文庫
満足度★★★★★


女が眠る時

2016年03月02日 | 西島秀俊
無垢な少女が「女」に変わるとき



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待ってました、西島秀俊さん出演作!



多少地味なんだけどね・・・
 でも、こういうのが本来の、と言うか西島秀俊さんらしい系譜の作品だよね。
そういうこと。


西島秀俊さん演じる清水健二は、作家。
といっても、処女作がメジャーな賞を受賞して、名前は売れたけれども、
 2作目は売れず、3作目は書けていないというトホホな状況。
 もう小説は半ば諦めて、就職が決まったところなんだね。
そんな彼が、一週間の休暇で、妻とともにリゾートホテルを訪れる。
 妻・綾(小山田サユリ)は、編集者で、
 それだからこそ、作家の夫には価値を感じるけど、書けない夫には失望している・・・
・・・と、清水は思っているわけだ。
だね。・・・でも実際彼女も、そのように思っている感じ。
彼女は仕事がらみでここへ来ていて、日中は担当作家のところに出かけるので、
 清水は昼間は一人なんだね。

その清水が、プールサイドで気になる二人連れを見かける。
 初老の男・佐原(ビートたけし)と、若く美しい美樹(忽那汐里)。
夫婦にも親子にも見えない、謎の二人。
その夜、眠れない清水はプールサイドを散歩するうちに、
 この二人の部屋を見かけ、つい覗いてしまうんだね。



えーと、前にもあったよねえ、西島さんが壁の穴から隣を覗いてしまう、というのが。
それは「真木栗ノ穴」だね。
 そういえばそこでも西島さんは小説家だ。
人の生活を盗み見る・・・というのは、
 自分だけでは想像もつかない人の営みがみえたりして、
 行き詰った作家には必然的行為なのかもしれない。
で、結局この怪しい二人はどんな破廉恥な行為を繰り広げていたのかというと・・・
女はただ寝ているだけ。
男はその様子をじ~っと見ていて、撮影している。ただそれだけなんだ。



なーんだ、と思う。
 だけどね、これが毎日毎日で、映像は上書きしているんだって・・・。
 でも、気に入ったものだけはちゃんととってある。
 まだ「少女」というような年代の頃から今のものまで、ずら~っと記録があるんだよ。
 皆ほとんど変わらないような寝姿。
でも、微妙に成長しているのは見て取れるよね。
 無垢で無防備に眠る少女・・・
 そしてそれが今「女」に変わろうとしている。
そこに性的行為は全くないのだけれど・・・何やら隠微だよねエ。
 で、清水はその隠微さにハマり込んでしまうわけだ。
 彼らの部屋に忍びこんだりもしちゃう。
そこに美樹が帰って来ちゃったりするから、焦るよねえ・・・。



それにしてもね、そんなまだ子どもと言うべきような時から
 一緒に二人だけでいるっていうのはどういうことなのよ・・・? 
佐原が彼女を勝手に親元から連れだしてしまったらしいのだけどね、
 そういう謎は謎のママ・・・
男は女がその「無垢」を今しも脱ぎ捨てようとするのを予感し、
 そして恐怖しているんだよ・・・。
ふしぎな物語。時にはこういうのもいい。
それ、いつもじゃ嫌だってことだね・・・。


でもプールで泳ぐ西島秀俊さんのシーンがあった!!
やったー!! あの肉体美。
 監督のサービスだね。
それからいつも鉛筆くわえてるね。
MOZUでは常にタバコだったけどね。
 鉛筆のほうがいいよね。
 そういえば、チュッパチャプスというのもあったな。



「女が眠る時」
2016年/日本/103分
監督:ウェイン・ワン
原作:ハビエル・マリアス
出演:ビートたけし、西島秀俊、忽那汐里、小山田サユリ、リリー・フランキー

隠微さ★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★☆☆

激戦 ハート・オブ・ファイト

2016年03月01日 | 映画(か行)
マカオのロッキー



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香港作品ですが、ロッキーを彷彿とさせ、
そしてそれが決して二番煎じではなくて、新たな感動を呼ぶ素敵な作品です。


借金を抱えた元ボクシング王者ファイ(ニック・チョン)は、
友人のジムで雑用係をしています。

また、父親の会社が倒産し、すっかり気力を失った父親を支え工事現場で働く青年スーチー(エディ・ポン)。
そんな彼がマカオの総合格闘競技MMAに興味を持ち、
ファイの働くジムにやってくるのです。
ファイを元チャンピオンと知ったスーチーは、彼に弟子入りを志願。

新参の若者と、古参の元チャンプ。
おお!! 
先日見た「クリード」ですね!
そんな中、物語はファイの間借りする家の母娘についても描写していきます。
自分の不注意で息子を失い、心を病んでいる母親クワン。
そしてその母親を守るため、必死に頑張っている少女シウタン。
ともに暮らすうちに、3人は次第にうち解け家族のようになっていきますが・・・。



スーチーがリングで栄光を掴んで終わるのかと思って見ていたのですが、
ところがそうではなかった!! 
死力を尽くしたスーチーの姿は十分に彼の父親に響いたのですが、
残念ながら大変な重傷を負い、勝負には敗れてしまう。
そして・・・!!



勝負の最後の最後には「リングに立つ理由」が大切だと、ファイはいいます。
それは、自分だけのためではなく、誰かのために・・・と思う時、
大きな力が生まれるということなのでしょう。
バックに流れるメロディーは、「ロッキーのテーマ」のように勇壮なものではなく、
サイモン&ガーファンクルの静かな調べ。 
ステキにオシャレです。



格闘技などには全く疎い私。
MMRというのは凄いですね。
キックボクシングにレスリングまで足したような、
おまけにリングはこんなふうに逃れようもない金網の中。
公然と賭けが行われる。
確かにこれは興奮します。

激戦 ハート・オブ・ファイト【DVD】
ニック・チョン,エディ・ポン,クリスタル・リー,メイ・ティン,アンディ・オン
TCエンタテインメント


「激戦 ハート・オブ・ファイト」
2013年/香港/116分
監督:ダンテ・ラム
出演:ニック・チョン、エディ・ポンメイ・ティン、クリスタル・リー
試合のハラハラ度★★★★☆
満足度★★★★★