苗木が到着したので植え付け場所の整備を急がねばならない。この日は27℃超えの夏日になったものの気合が入っていたためかさほど暑さは感じずに済んだ。二つ池のある棚で生育していた二本のクワの樹は競合相手もおらぬ環境だから伸び伸びと育ってしまい周囲に大きな日陰を作っていたのだ。樹高が低かった当時はクワの実採集も出来て野趣も楽しめたのだが手が届かない大きさになってしまっては単なる景観樹でしかなかった。今回、周囲に日陰を作ってしまっている二本のクワの樹を除伐する事で棚二面の空間を繋げ、ギンヤンマの好む広域空間を得て、合わせてハンノキを育てるのである。ハンノキは隣り沢に数本の林があったのだが沢崩れや沢止め工事で消失してしまったのである。その当時にミドリシジミが繁殖していたのかどうかの記録は無いのだが失ってしまったハンノキ林を再生する事で絶滅への坂道を落ちるミドリシジミの生息域を与えたいのである。
クワノキの1本は切断径50cmの大きさなのでバーサイズ350mmのチェーンソーでは工夫が必要だ。その上、高さもあり枝も周囲に張り出しているから重心位置が判らない。間違って棚田部に倒してしまうと泥田の中で処理作業を行わねばならなくなる。そこで大きい1本は牽引して生えている棚面に倒して処理し易くした。広葉樹なので針葉樹ほどの樹高は無いけれど切断径50cmともなるとさすがに太いのであった。水源地の河原で立ち枯れている杉の巨木2本は胸高直径50cmほどなのだが梢を見上げると伐採するのが恐ろしく感じる威容があるのだった。倒して導水堤代わりに使う心算であるのだが怖れをなしてまだ手つかずである。
さて今回の1本目、牽引器を2本目のクワの樹を支点にして張力を掛けてから伐採に入る。追い口を作り楔2本を打ち込んでから牽引力を更に加える事数回、心配していたほどのトラブルも無く地上に落ちてくれた。まずは上側の枝を運べるサイズに切断しつつ集積しつつ片付けていく。二本目は重心の偏りが立っている棚内にあるので牽引せずに伐採出来た。これも同様に上側から枝を外して幹と太枝にし、更に運びやすいサイズに切断したところで作業終了である。とりあえずここまで行っておけば、先日に客土しておいた植え付け場所に定植できる環境が出来た。植えつけしてからの伐採では苗木を傷めるリスクが高くなるからまあ、地拵えの一環であったと言えよう。
毎度のことであるが伐採作業では足拵えは編み上げの安全靴に履き替える。普段の長靴ではつま先に鉄心入りであっても頼りないし足運びも緩くなるのだ。平坦地の広さのある作業域であっても伐採は危険作業である事に代わり無く、それなりの緊張感は忘れずに作業に入るのだ。チェーンソーを入れる前には光明真言を唱える。最初の頃は般若心経だったのだが長すぎて現場に合わずほどなく変更して現在は光明真言オンリーである。自分の末路は臓器提供・葬儀無し・海洋散骨と子どもたちには伝えてあるけれど伐採し命を絶つ樹木にもそれなりの敬意は必要であろう。改植の必要あっての事とはいえ樹木自身の意思ではないし環境にはそれなりの価値があったはずなのだから。