水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

たま虫

2012年01月18日 | 日々のあれこれ

 は~い、じゃ、今日は小説講座の実践編第一回です。今までね、理論的に勉強してきましたが、今日から実際に書いてみましょう。
 どんな手順で書いてもらうか説明するよ。
1 まず今までの自分の人生をふりかえってみよう。
2 それぞれの年代別で、できるだけ具体的なエピソードを書き出してみよう。
3 そしたら分類してみるよ。楽しかったこと、悲しかったこと、うれしかったこと、笑ったこと、泣いたこと、怒られたこと、はしゃいだこと、つまずいたこと、悔しかったこと、というようにね。よく見てごらん、今まで何度も同じことしてないかな。人間て同じ失敗をくり返すよね。
4 その場面場面にあった、何か印象的な景色や風物、季節のもの、ちょっとした小物はないかな。小説の大事な小道具になるよ。悲しい時になぜかいつもアイス食べたくなったりしなかった? 悔しい時に決まって行く喫茶店とかない? 楽しかったときいつもそばにいたのは誰だった? そんなを思い浮かべよう。え? 何もない? じゃ、つくればいいじゃん。でっちあげ。それを創作って言うんだよ。思いついたかな、じゃ書いてみよう。

 先生! できました。提出しておきます。
 はい、じゃ明日までに読んでおくからね。

 どれどれ。ほおっ。「たま虫」ときたか。何々、自分の小学校時代、大学時代、無職時代の … 、ふむふむ、なるほど物事がうまくいかなかった時に必ずたま虫を目にした。なるほどねぇ、めちゃめちゃ作り物くさいけど、小説の形にはなっているな。
 ただ主人公がちょっと今時にしてはイタイなあ。いかにも昔風のプータローで自意識だけは微妙に高めのおにいちゃんて、どうなんだろ。友達いなさそうだな。
 娑婆でつらい思いをしてるのは自分だけだ、そしてそれは全部世間のせいだという、いかにも昔の文学青年の書くものみたいで、こんなのも一応ありだけど。よくこんな古くさいのを書けたなあ。
 今の時代には、何も生み出さないタイプの小説だ。メンヘラちっくな女の人もきもっ。
 ま、形としては小説になっているからギリギリ合格点にしておこうか。
 あと、もう少し「たま虫」の象徴性がうまく働くように添削しておいてあげようか。
 こんな対応じゃ、あれだ。たとえば入試で出題したら、正解がつくれないだろう。いや、これを積極的に試験に出そうなんて感性の人がいるとしたら、世間知らずの文学オタクとしか言いようがないか。

 こんにちは。
 はい、こんにちは。
 先生、すいません、まちがって提出してしまいました。あれ、自分が書いたんじゃなくて、実は井伏 … 。

コメント (2)
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