~ 中身は、髪型からスーツの着方、持ち物の持ち方、挨拶の仕方、握手の仕方とかをマニュアル化し、「面接とは第一印象で勝負するもの」というセオリーに基づいて徹底的に方法を練り上げたもので、私が知る範囲でこれを越えるマニュアル本は今のところありません。 (『佐藤優の実践ゼミ』文藝春秋) ~
佐藤氏がここまで言う本は手に入れたいと思ってしまう。
たとえそれが絶版本であっても。
まして著者の坪田まり子さんが、往年のアイドル倉田まり子さんであることを知ればなおさら。
それは『面接で『特A』をとる!』という文庫本だ。
版元サイトでは、販売終了のアナウンスがされている。
amazonで調べると、中古が多数販売されているが一冊3000円ぐらいの値がつけられている。
上記の佐藤優氏の本から誘導されて買い求める人が増え、一気に値上がりしたことも伺い知れる。
さて、どうしようか。
二十年前なら、すぐに神保町の川村書店か、池袋の文庫ボックスに探しにいったことだろう。
この文庫専門の古書店を、昔はずいぶん利用した。
行ってみてもいいけど、電車賃を使ってでかけ、徒労に終わる可能性も高い。
行って探すこと自体が楽しみだったが、人生の残り時間を考えると、お金で解決することは悪いことは思えない。
それに都内に出かけていけば、電車賃だけではすむまい。せっかく来たのだから軽く何か食べようか、一杯だけ飲んじゃおうか、時間が許せばさらに大人の社交場にまで出向かないとも限らない。
だとしたら、かりにamazonの中古本に何千円か払ったとしても、トータルでは安く上がることになるのではないか。さすがに1万円とか2万円とか値付けして出品してるヤツはムカツクが、本体+電車賃+池袋イケメンでナポリタンと生ビール代を足した値段ぐらいならと思い切って、注文してみた。
一読する。
あいさつのしかた、笑顔の作り方、写真のとりかた、電話のかけかた、礼状の出し方など、就活を控えた学生さんが知りたいことが、事細かに示されている。
もちろん同じような本はたくさんあるに違いない。
類書とは異なる点があるとすれば、それらのマニュアルを支える思想の堅固さだと思う。
彼女自身に非はないにも関わらず、石もて芸能界を追われ、その後自分で切り開いた道が、キャリアカウンセラーという就職支援の仕事だった。
第一印象がいかに大事かは、アイドル時代からの蓄積もあって身にしみているだろうし、あいさつの仕方などはそれこそ徹底的に仕込まれた経験もあるにちがいない。
事件に巻き込まれたことも、人が人がどう評価するかという現実を知る上で、大きな肥やしになったのだ。
一つ一つの事例を具体的マニュアルで説明しながら、なぜそうすべきかという理由、というか思想を語っているという点で、だんだんと感動をおぼえてくる。
「礼状をその日に出さないといけないのはなぜか」という項目など、気づいたら泣いていた。
ポップス講習会でご指導いただいた植田先生へ、礼状は書いたものの、講習会の翌々日だったことを反省した。
「あとがき」に、「10年間、この仕事を通して … 」と書いてあるのを読み、たかだか3000円支払うことを逡巡した自分を羞じた。
彼女の10年分の仕事がここにつまっているではないか。
読み込んでこの内容を自分のものにできたら、いったいいくら分の価値になることだろう。
あの佐藤優氏でさえ、こう述べる。
~ 初体面での振る舞い方とか、挨拶の仕方とかは、僕は全部、この本からパクってます(笑)そして、いまのところ、失敗していません。 ~
そんなに良い本なら、自分も買い求めてみようと思われるだろうか。
すでにご存じかもしれないが、就職を考える生徒さんがいる学校の先生は、読まれた方がいいと思う。
とはいえ、文庫本に数千円は出せないという感覚は当然あるはずだ。
坪田まり子さんは、現在大変な売れっ子で、普通に本を出してらした。
『就活必修 面接術 2016』(さくら舎)1400円をお買い求めになってはいかがだろうか。
『特a』に述べられた内容が、さらに整理されている本とも言える。
1400円て、ほんとに申し訳ないような値段だ。本ほど安いものはないと、久しぶりに心の底から思った。