大学2年(かな)の時、石川ひとみを間近で見た。
学生寮から自転車で5分くらいの「スーパーマーケット568」特設ステージで「まちぶせ」のキャンペーンがあったのだ。
友人と出かけ、張られたロープ際で「手出せばさわれるな」と会話してたら、「触ったらしばくぞ」と警備の兄さんから本気で怒られた。
実際にそれくらいの距離感の目の前を彼女は歩き、今ならステージともよべないような一段高いところで、カラオケで「まちぶせ」を歌った。
聴いてる人は100人もいただろうか。
決して無名時代ではない。「くるみ割り人形」や「ぷりんぷりん物語」でメジャーデビューしているれっきとしたバリバリのアイドルだ。
ほとんどの日本人が知らないアイドルグループにもたくさんのサポーターがいる今とは、やはり時代が違う。
しかし「まちぶせ」は大ヒットした。今風に言うとブレークした。
石川ひとみといえば「まちぶせ」になったのは、よかったのか悪かったのか。
「まちぶせ」ほどのヒット曲にはその後は恵まれなかったが、松本隆作詞「三枚の写真」は、隠れた名曲だ。
~ 16の頃 あなたは18 夏のまぶしさに 覚えてますか
はしゃいだ砂に ふれ合う背中 ゆれる笑顔に ぽつりと聞いた
ねぇ目をそらさずに 目をそらさずに 好きって言える
ねぇ目をそらさずに 目をそらさずに 好きって言える
ふたりならんだ 写真の海が ああ指先を濡らしています ~
スクリーンに映しだされた「石川ひとみ」という文字に驚き、登場した彼女の変わらぬルックスにまた驚く。
「変わらぬ」ということもないはずだが、自分より年上には絶対に見えない(おれが言うくらいだから)。
直後に登場した早見優さんもそうだけど、昔のアイドルは筋金入りなのだろうか、何より体型が若いのだ。
そして、声もぐっとのびてくる。
むしろ、金沢のスーパーで営業してた頃より、上手なのではないか。
~ 17の頃 あなたは19 手にひんやりと 谷川の秋
目を隠した あなたの腕に 冷たいねって 涙おとした
ねぇ目をそらさずに 目をそらさずに 好きって言える
ねぇ目をそらさずに 目をそらさずに 好きって言える
ふたりの間の 落ち葉が今も ああ心へと 吹き込んでます
20才の私 あなたは22 写真の春に あなたはいない
別れ間際に 振り向いた街 あのまなざしは 焼き付いてたのに
ねぇ目をそらさずに 目をそらさずに 好きって言える
ねぇ目をそらさずに 目をそらさずに 好きって言える
過ぎた月日が 残したものは ああ 三枚の写真だけです ~
歌のうまさは、けっきょく声のはりとか高音とかビブラートとかの物理的な要素だけではないのだ。
「 20才の私 あなたは22 写真の春に あなたはいない 」
と二十歳の時に歌うのと、50歳を越えて歌うのとでは、歌詞に込められる思いの深さが異なるのは言うまでもない。
見渡すと、客席も、その深さを自然に自分のものとして感じられるようなベテランたちばかりだった。