学年だより「下克上受験(4)」
第一希望こそ叶わなかったものの、香織さんは誰もが名を知る中学校に合格し、現在は高校一年生になっている。受験の過程を文章化し、誰かの役に立つかもしれないと自費出版した本は、産経出版社の目にとまり、全国の書店に並ぶことになった。この本を原作にしたテレビドラマ(桜井さん役は阿部サダヲさん、妻役は深田恭子!)も始まっている。
出版を記念する講演会の場で、香織さんの声が録音で紹介された。
~ 私のことをすごく大変な受験勉強をしたと思っている人も多いかもしれませんが、私は全然そんなことなくて、もう少しだけ、あともう少しだけやっておけばよかったと思っています。父さんはあれが限界だったなんて言っているけど、自分が眠かったからなんじゃないかな。
… 今私は中学2年生です。みんなにすごいと言われる中学校で生活することができました。毎日がとても幸せです。 … 学校では、たぶん私が一番貧乏だと思います。普通の学校だと普通よりちょっと貧乏なだけだけれど、私立だからみんなお金持ちです。でもそれで困ったことはまだ一度もありません。友達も普通にたくさんできました。何にも困らない生活です。
父さんはわたしにいろいろな方法を使って成績を上げてくれました。私の場合は頭が悪すぎて塾に入れなかったので、父さんとやるしかなかったみたいです。 … それから無理して入学しても何も困らないです。ぎりぎり入学して成績いい子なんてたくさんいます。だから一番行きたい学校を狙ってください。 … 私の場合は、母が受験にすごく反対だったので、父と勉強するしかなかったけれど、父が一緒にやってくれなかったらくじけていたと思います。わからない問題ばかりでしたが、一緒に考え、一緒に同じ時間勉強してくれました。そして次の日には予習もでき夜中に父はチラシをポストに入れるバイトをしていました。それを配りやすいように折るのを手伝ったことがあります。一緒に自転車でついて行ったこともあります。父はチラシを配りながらいつも言っていました。
「お前はエリートになれ」って。チラシを配る父がすごく格好悪くて、でもうれしくて。私はちょっとラッキーな子だと思います。
ここにいるお父様やお母様はもっとえらい人なのかもしれませんが、一緒に勉強してあげてください。そうすると、いつまでも勉強できます。ずっと一緒なら、たぶん1日15時間でも勉強できます。私が一番頑張れたのは、父の作った人生表でした。今も大事にしています。
最後に、お父様、お母様、そして小学生のみなさん、勉強は世界が変わります。思いっきり変わります。見たことのない世界になります。頑張るだけじゃなくて、たどり着いて下さい。 ~
桜井さんは現在、塾や家庭教師派遣会社のアドバイザーを務めたり、受験相談に関する本を出版したりしている。娘さん以上に桜井さん自身の人生も大きく変わった。
勉強ほど自分を変えられるものは、なかなかない。
もちろん、一生同じ場所、同じレベルでいいのなら、無理に勉強する必要はない。もしそうでない気持ちが少しでもあるなら、何を悩む必要があろうか。格好を気にする必要があろうか。
これほど平等にチャンスが与えられるものはないのだ。