市馬師匠の「妾馬」が聞きたくて行った。35分ほどの口演。終わりの時間を考えながらだったのだろう、殿様と八五郎のやりとりの一番泣かせるとこは、時間があるならもっとたっぷり演じられる部分だろう。まして市馬師匠のことだから、いい声の都々逸をもっと聞きたかった。でもさすが落語協会会長というでき。
まくらの、師匠小さん(五代目)が昭和天皇の園遊会に招かれたときの話はおもしろかった。五代目小さんは、前座時代に徴兵されて陸軍にいたのだが、そのころ二二六事件が起こった。小さんも反乱軍の中にいたという。
そんな歴史があり、まさか自分が園遊会に招かれるようになるとは思ってもいず、陛下に話しかけられることなど想定もしていない。「落語の方はどうなの?」とお声をかけられ「だいぶよくなりました」とおろおろになってわけのわかんない返答をしてしまった、と。
五代目が亡くなってずいぶん経つ。自分ら世代にとっては、三平師匠も先代のイメージがつよいが、そういう師匠方は普通に戦争に行っている。落語家は誰も戦死しないで帰還した、三平なんか太って帰ってきた、なんてネタもよく聞くが、自分ら世代にはけっこう戦争は身近なものだなと、同学年の市馬師匠の話をききながらあらためて思った。
扇辰師匠「阿武松」、紫綬褒章受章の雲助師匠「二番煎じ」というラインナップは、ぜいたくだった。