~ 突如としてネット上に現れた、謎の「誘拐サイト」。
<私たちが誘拐したのは以下の人物です>
という文言とともにサイトで公開されたのは、6人のみすぼらしい男たちの名前と顔写真だった。
果たしてこれは事件なのかイタズラなのか。
そして写真の男たちは何者なのか。
半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に、誘拐サイトは“驚くべき相手”に身代金を要求する――。
日本全体を巻き込む、かつてない「劇場型犯罪」が幕を開ける! ~
と、いう本。
上記の“驚くべき相手”は、書いてもネタバレと非難されはしないだろう。
犯人たちが、莫大な身代金を要求した相手は、新聞社とテレビ局だ。
人権の大切さをかかげ、人の命は平等と常日頃説くマスコミに対して、浮浪者の命にいくら出せるのかと犯人たちは迫る。
本当にそんな事件が起きたとき、現代社会は、どう反応するだろう。
描かれていくマスコミの世界、ネット民の動向、警察組織、政界の様子は、なるほど、まさにそうなるにちがいないと納得させられる。
犯罪はフィクションだが、想定される事態はまるでノンフィクションだ。
日常的に「世間」に喧嘩売ったり、偽善をあばいたり、バカとやりあったりしてきた百田さんだからこそ書けた作品だと言えるだろう。ふつうの小説家さんなら改めて取材しないといけない関係各所の生態、実態やものの考え方は、自然に頭に入っているのだ。
すぐれたエンタメ作品は、現代社会の問題を解決はしないが、するどくあぶり出す力をもっている。
これは令和の『レディ・ジョーカ―』級の作品だと感じながら、今年一番、読み終えるのがもったいなかった本だ。
犯人グループの一人に、裏将棋をシノギをしてきた男がいる。
「心理戦」担当だ。マスコミや警察とのかけひきに、絶妙の力を発揮する。
その男が、これは将棋の戦いとは違うと語るシーンが印象に残っている。
将棋のように目の前に盤面がさらされ、相手の手持ちの駒もわかっている戦いでは、戦術にたけていて、相手の出方を読み切れば基本的に負けない。負けた場合には、その原因もはっきりする。
麻雀は相手の牌は見えない。ひょっとしたら対面と上家とはつるんでいるかもしれない。
自分の予想がまるっきりちがっているかもしれない。
手にした情報をもとに判断するしかないが、100%はありえない。
振り込む確率50%の牌をきるしかないこともある。
人生は、まちがいなく、将棋ではなく麻雀だと思った。
年末年始にぜひどうぞ!