水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

下克上受験(3)

2017年01月13日 | 学年だよりなど

 

    学年だより「下克上受験(3)」


 9月1日から受験勉強スタート――。夏の間、さまざまな情報を収集して、必要な問題集や参考書をリストアップした。ジュンク堂に行き、片っ端から買い物かごに入れる。
 中学受験サイトに書き込んだりしている過程で知り合った人から、大手塾のテキストを無料でもらえることにもなった。


 ~ スタートした日から受験まで一日も休まず勉強した。旅行どころか身内の冠婚葬祭も父娘で欠席するという常識のなさ。放課後から深夜まで毎日勉強した。一度もテレビを観ることがなく、公園にも一度も行かず、母親の買い物に一度もついて行かず、毎日毎日勉強した。
 膨大な量の問題を父娘で一緒に解いた。いつもお父さんとずっと勉強している娘はファザコンと学校でからかわれ仲間外れになった。さらに子どもだけでなく家族も町内会から仲間外れになった。夜中にどうしても眠くなるとふたりでコンビニに出かける。目を覚ましに行くのだ。真夜中に親子で歩くその異様な姿を何度も見られ、小学生を毎晩夜中まで勉強させているそうだと噂になった。 (桜井信一『下克上受験 両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した! 』講談社文庫) ~


 塾にも行かずに、小五の秋スタートで桜蔭中学校を目指すというのは、受験のプロから見れば身の程知らずの目標であることはまちがいない。
 しかし桜井さんはこうも思う。
 サッカー選手になれるのはどれくらいの確率だろうか。ピアニストになれるのは。オリンピックでメダルをとるのは … 。どれも、挑戦する気にもならないくらい低い確率の目標だ。
 それにくらべ難関中学校に入るのは、毎年数百人。その学校に通学可能な範囲に住む同学年だけが相手だ。本当は現実的な目標なのではないかと。
 同時に、別種の不安もよぎる。早い時期から塾に通いながら、大卒の親が面倒を見ながら、それでも入試で結果が出ない子がいることも事実なのだ。その原因は何か。
 考えても答えの出ない問いに時間を費やすわけにはいかない。
 一緒に勉強する、俺が教えると言ってしまった以上、やるしかない。
 娘が寝た後に、翌日のテキストを解く。答え合わせをする、解法を理解する。「そっか、足す前にかけ算だった!」というレベルからのスタートだから時間はいくらあっても足りない。睡魔との闘いになる。当然酒やたばこには一切手を付けず、友人との飲み会もいかなくなる。
 「おまえ達と一年半は遊べないぞ」と連絡したとき、友人の一人は何かで服役することになったのだろうと理解していたという。
 『下克上受験』がフィクションならば、最後に「合格!」という大逆転シーンが描かれただろう。
 実際、ひょっとしたら手が届くのではないかと思えるぐらいに成績は伸びていった。
 はじめて桜蔭の過去問を見たとき、設問の意味さえわからなかったのは、つい一年ほど前の話だ。
 入試当日、満足そうな顔で会場を出てきた香織さん。そして慣れないスーツ姿で保護者面接を終えた桜井さん自身には、かすかな期待があった。
 結果は不合格だった。

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下克上受験(2)

2017年01月11日 | 学年だよりなど

 

  学年だより「下克上受験(2)」


 世の中はやり直しがきかない、塾に通わせて中学受験させたいという桜井さんに、奥さんは反対した。娘はちゃんと勉強する子だから、私たちと違って高校には普通にいけると。
 ちがう、高校で終わりじゃない、大学を出て「エリート」になると、何かちがう世界が待っているようなんだと話す。娘には、彼女の「人生表」を書いて見せ、ここ数年がんばることで、全くちがった人生が開けてくると説明した。
 ではどこの塾に通わせたらいいのか。夏休み中にいくつかの塾に足を運んでみたが、返ってきたのは、がんばれば「そこそこの」進学はできるという話ばかりである。人生を変えたい、流れを変えたいという思いに答えてくれる塾はない。香織さんが受けた入塾テストも悲惨な結果だった。
 逆に、塾に通わずに親子でがんばってみるか?


 ~「香織……父さんの話をよく聞きなさい。 … 父さん、色々調べたんだ。
  塾で習う問題集や参考書は全部手に入る。父さんも5年生からやるよ。やり直すよ。
  佳織のためじゃない。実は父さんもやり直したいんだ。
  父さんちょっと油断してた。佳織はよくできる子だから油断してた。
  気が付くともうこんなに差がついていたなんて思わなかった。
  でも謝らない。その代わり一緒に追いかけようぜ。
  父さん自信満々だぜ。父さんもし勉強していたらさあ、頭よかったんじゃないかと思うんだ。
  父さんと佳織の脳ミソは同じだろ。だったら可能性も同じだよ。
  やってみるか佳織。こんな人生を目指してみるか?
  やるなら2学期の最初からだ。9月1日からだ。
   … もしやるなら、その日から佳織は楽しみがひとつだけになるんだ。
  友達と遊びに行く。テレビを観る。お出かけする。いつまでも寝る。
  これ全部なくなってひとつだけになるんだ。
  1年5カ月後の世界を夢見ること、それだけが楽しみになるんだ。
  もちろん父さんも同じだ。 … 日曜日もない。お休みなんてないよ。
  どんなに辛くても頑張るっていうんじゃない。
  わくわくどきどきした1年5カ月なんだ。」 ~


 娘の香織さんが小学校5年生の夏のことである。
 そして、どうせ目指すなら最高を目指そうと考えて目標にしたのは、桜蔭学園だった。
 一学年が240名。うち60名~70名が東大に進学する。中学入試の偏差値は70~75。わかっているとは思うが、北辰の70とは全く性質が異なる。男子で言えば、麻布、開成に匹敵するだろう。小学校の低学年のうちから、日能研やSAPIXに通い続けて入学する子が大半だ。
 受験のプロなら間違いなく「無謀」というこの目標に向かい、親子は取り組んでいく。

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下克上受験(1)

2017年01月10日 | 学年だよりなど

 

  学年だより「下克上受験(1)」


 桜井信一さんは、娘さんを私立中学校に入れたいと考えた。
 桜井さんは「中卒」である。中学時代にヤンチャをして、それに見合った高校に入ったものの、意義を見いだせず、高一の夏に中退した。ともに高校に行ってないご両親も、とくに反対しなかった。転職をくりかえして現在の職場に落ち着いた。奥さんも中卒である。
 暮らしは、裕福とは言えないが、不幸ではない。ただ、中卒という学歴に見合った仕事にしか就けないのが現実であり、それは「食う」ためだけのものだった。仕事そのものにやりがいを感じたことはなく、「中卒」に対するコンプレックスはあった。
 そんな自分の人生にもたらされた最大の喜びは娘さんの誕生だ。無数の父親候補から自分を選んで生まれてきてくれた。
 しかし、こうも思う。もっと経済的に豊かな家に生まれていたなら、娘は違った人生をおくれただろう。家に暖炉があるようなお屋敷の子に生まれさせてあげたかった。
 世の中を現実を知るにつれて、娘をこのまま大人にしていいのかという思いがふくらんでゆく。


 ~ ある書き込みで「職業に貴賎なし」と発言している人がいた。私はそんな言葉を聞いたことがない。大卒の人たちには標準レベルの言葉なのだろうか。私の親類縁者10人に友人知人を加えて20人ほど集めたとしても絶対に誰一人として知らないはず。早速ネットで意味を調べてみたが、いまひとつ理解ができない。
 この言葉は上から下へ向けて慰めるための言葉なのか、それとも下から上へ叫ぶ言葉なのか、私には理解ができない。むしろ、急速なネット社会化は「貴賎」を明確にしてしまったと思ってしまう私は、やはりこの言葉の意味を正しく理解できていないのかもしれない。
 ネット社会化によって、今まで聞えてこなかった罵声が目に飛び込んでくるようになった。身分による壁だけでなく、本音と建前の間にあった和風の壁までも取っ払ってしまい、何もかも丸見えになってしまった。
 すると、知りたくないことまで嫌でも気付かされてしまうのだ。富裕層の年収、貯蓄、食生活、考え方、その羨ましい限りの情報は私たちにとってストレス以外のなにものでもない。確かにネット社会の到来は国境を越えて情報をやりとりすることに成功した。しかし同時に社会のタテ方向の情報閲覧も可能にしてしまったのだ。
 想像の域で止めておきたかったエリート社会の情報の数々。向こう側がそんなにも幸せだとは気付かなかった。それを現実に知ることが可能になった時代をトボトボ生きるということ。劣等感。喪失感。ネット社会は私たちにストレスを与え続けた。 (桜井信一『下克上受験』講談社文庫) ~


 自分とは別の人生を歩ませたい。さいわい、香織さんの成績は小学校ではいい方だ。
 そして、試しにと受験させた四ッ谷大塚の模試は、26000人中20000番台、偏差値41だった。

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新年おめでとうございます!

2017年01月05日 | 日々のあれこれ

 

  新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします(_ _)


今後の予定

1月9日 南古谷ニューイヤーコンサート@東邦音楽大学グランツザール

              15:31演奏 ウィークエンドインニューヨーク シングシングシング

2月5日 川越市合同演奏会@ウエスタ川越

       時間・曲未定

3月24日 第25回定期演奏会@ウエスタ川越

       18:00開演予定

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川越市合同

2017年01月04日 | 日々のあれこれ

 

 ウエスタ川越に行き、来年の予約をした。希望日は抽選となり、引き当てててよかったものの、はずれたらどうすればよかったのだろう。川越市内の小・中・高校、大学、一般バンドまで集う行事で、市から何の協力もなく、純粋な営利事業と同列でくじをひかないといけないのはどうなのだろう。そのへんを何とかすることまで含めて自分の任期中の課題としようかなとも思う。
 とりあえず安心して新宿テアトルで「14の夜」を鑑賞。佳品だった。「この世界の片隅で」が未だに満席・立ち見の表示が出ていることに驚く。明日から練習再開になる。

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ひとりのビッグショー

2017年01月02日 | 演奏会・映画など

 

 「清水ミチコひとりのビッグショー」1月2日


 昨年のお正月に続いて二回目の開催だが、武道館が満席になるという噂は本当だった。
 行ってみたいなあ、直前でもチケットはあるだろうぐらいに考えていたので、まあまあ端の席だった。
 武道館は見やすいけどね。少しみにくい場所の追加席も発売されたようだが、その席のあたりに手を振って「1000円安い席のお客さんも、楽しんでる?!」と声をかけるのもミっちゃんらしい。
 芸人さんのワンマンで武道館が満員という公演て、今まであったろうか。春風亭小朝師匠やダウンタウンさんはどうだったのか。
 小池都知事のモノマネでの前説ビデオが流れはじめた時点から、館内は熱気にあふれ、定番のモノマネや、テレビでは見られない「危険」なネタがあり、後半の「誰それ作曲法」コーナーは、さすがとしか言いようがない。
 では「スピッツ作曲法」を歌いますといって、スピッツの曲風の新作が披露される。彼らの使いやすい歌詞、コード進行、歌い方が渾然一体となった楽曲だ。山口百恵さんがもし今新曲を出したらこんな感じかなという曲も寒気がするくらいのできだ。もちろんユーミンはおてのものだし。
 純粋にユーミンのモノマネで歌った「雨の街を」もよかったなあ。
  ~ 夜明けの雨はミルク色 静かな街に ささやきながら降りて来る 妖精たちよ ~ 
 くそ、ニセモノに泣かされるなんて。
 清水ミっちゃんのものまねは、タモリ氏の系譜をひくイデオロギーモノマネだ。
 対象の心身両面を真似る。内面に近づくことの方がむしろ重要で、結果として形態、顔、歌い方も似てくる。
 きっとモノマネされた側は、自己の内面の真実に逆に気づかされるんじゃないかな。
 たっぷり3時間弱。武道館満員もうなづける。日本のエンターテインメントの一つの頂点を見た思いだが、それを一人で、ピアノ一台でやってのけるところがすごい。

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2017年

2017年01月01日 | 日々のあれこれ

 新年おめでとうございます。
「顔で笑って心で泣いて」の一年になるのでしょう。
 それが仕事ですし。

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