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オバマのアメリカ 渡辺将人

大統領選でオバマ氏当選直後に真っ先に発売された本書。当然ながら、大半は選挙前に書かれたものだろう。もしかしたら少しだけ手直しした「マケインのアメリカ」という原稿も用意されていたのかもしれない、おざなりなトピックものかもしれない、などと思いながら読んだのだが、その予想は良い方に大きくはずれた。本書は大変すばらしいほんである。特に後半の太宗をしめる第4章<「物語」の政治>の部分は、オバマという政治家の経歴を分析しながら「アメリカ」の政治とは何かを教えてくれる第1級の「アメリカ政治論」として圧巻である。本書の内容は、題名から期待されるような、オバマ氏の政策がどうであるとか今後のアメリカの進む方向といった話ではなく、予備選を含めたアメリカの大統領選挙の内情について書かれたものである。本書の第1章から第3章で語られているアメリカの選挙のプロセスについての説明の面白さや緻密さは、類似の本ではお目にかかれなかったものだ。非常にアンフェアに思われるプロセスでありながら、そこに込められた思いがいろいろあることを教えてくれる。民主党と共和党の予備選挙や党大会の運営の違いなどもマニアックなまでに緻密で大変面白い。さらに「リアライン」といった独特の考え方や、そうした制度の深い意味が解説されていて興味津々で読むことができる。さらに、圧巻の第4章。日本ではほとんど報道されていない「ミシェル夫人」の存在の政治的な意味の大きさが、オバマ氏が拠点としている「シカゴ」という町の政治情勢を絡めて説明されているところなどは、実に面白い。また、オバマ氏のこれまで住んだところが全て「ハワイ」「インドネシア」「NY」など人種差別の少ない地域であったこと、そうした彼が「初の黒人大統領」ではなく「人種を超越した大統領」になっていった政治環境などの分析も、実に知的刺激に満ちている。題名からの期待とは全く違う内容であるにもかかわらず、これほどの満足感を味わえる新書というのは、本当に稀有だと思った。(「オバマのアメリカ」渡辺将人、幻冬舎新書)
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