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望郷 湊かなえ

著者の最新作。瀬戸内海のある島を舞台にした若干ミステリーの要素を含んだ短編6つが収録されている。短編集ながら、全部の短編を通じてかもし出される雰囲気の見事さは、単なる短編集ではなく、明らかに統一された意思をもって書かれた長編と言っても良いような出来栄えだ。そういえば、名作「告白」が、当初短編として書かれたという話を思い出した。1つ1つの作品の独立した完成度を損なうことなく、短編を積み重ねて1つの長編のように纏め上げる作者の力量は、明らかに現代のミステリー作家の中では1、2を争うものだと感じた。さらに、最近は新刊の出る間隔も短く、かなりの量の作品が刊行されているが、全く質の低下を感じさせないのもたいしたものだと思う。「告白」を読んだ時は、素晴らしいアイデアが生んだ突然変異のような傑作の可能性もあるなと感じたのだが、まさにミステリー界の第一人者になりつつあるのが実感される。(「望郷」 湊かなえ、文藝春秋社)

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