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本にだって雄と雌があります: 小田 雅久仁
少し前に書評誌で話題になっていたのを覚えていて、本屋さんで文庫になっているのを見つけて、読んでみることにした。本署のアイデアは「本にも雌雄がある」という単純な発想で、読み手としては、それが物語としてどのように展開されるのかを期待しながら読み進めた。しかし、実際に読んでみると、少し肩すかしを食ったというか、本に雌雄があるというアイデアはこの本のごくごく一部に過ぎず、本署の中心は、むしろある一家の明治から現代にいたるまでの克明な家族史だ。しかも、この家族の歴史の中身とその語り口がめちゃくちゃに面白い。語り口は、いかにもという関西弁なのだが、その面白さは今までに読んだことのない質のもので、関西のノリのようなものは一切関係ないのがうれしい。最後に話は「運命論」的な展開を見せて終わるが、本書の真骨頂はストーリーよりもその語り口にある。登場人物の戦争体験や飛行機事故の記述など、素晴らしい点はいくつも指摘できるが、読んでいる途中の楽しさが鮮烈で、その点で記憶に残る稀有な1冊だった。(「本にだって雄と雌があります」 小田雅久仁、新潮文庫)
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