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ふる 西加奈子

小さな会社のOLである主人公の今と過去が交互に語られる本書。普通の小説のようだが、読み進めていくと、不思議というか奇妙なことが幾つかある。主人公には他の人が見えないものが見えていたり、主人公が過去と現在で出会う人が違う人であるはずなのに何故か同じ名前だったりする。しかも主人公には毎日の人との会話を録音して後でそれを再生するという奇妙な習慣がある。そうした設定の中で、話は大きな事件もなく進む。最後にそれらの設定がある一つの意味を持つことが判って話は終わる。そこで、これは何かの答えを見つけるための話というよりも、何かを考えるための材料を提示することを目的とした話であることが明らかになる。おそらくこの小説は、読む人のこれまでの生き方によって全く違う感想を持つことになるだろう。私自身は、主人公の生き方とかなり近い気がしていて、同じことを考えている人がいるという事実にある種の共感を感じることができた。文字が空から降ってくるという感覚も面白い。良い本だなぁと思った。(「ふる」 西加奈子、河出書房新社)

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