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遠くの声に耳を澄ませて 宮下奈都

本屋大賞を受賞して注目されている作者の短編集。大賞受賞に合わせて特設コーナーが作られていて、そこに平積みになっていた1冊。本書には、統一的なテーマのようなものはみあたらないが、人とのつながりに少しだけ悩んでいる人々の視線で静かな日常が描かれた短編が収められている。自分を大切にしながらも、人とどう向き合っていくかということの難しさというのは、人間いくつになっても変わらないんだなぁとしみじみ思う。静かに心をゆすぶられる作品だ。ひとつだけ難を言うと、この短編集は、それぞれの作品の登場人物が複雑に絡み合っていて、この作品の主人公は別の作品の誰それという緩い関係がいくつも施されている。こうした関係性は、それを見つけて楽しむということもできるのだろうが、その関係自体はそれぞれの短編の内容とは直接関係ないように思われる。登場人物が重なる「小さな世界の出来事」ということを示す効果があるのかもしれないが、小さな世界であると示すことはむしろ各短編の普遍性をそこねてしまうだろう。あえて関係性を見つけようとしなくても何の問題もないので、あくまで作者のサービスと考えれば良いだけの話だが、少しだけ気になってしまった。(「遠くの声に耳を澄ませて」 宮下奈都、新潮文庫)

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