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陽だまりの彼女 越谷オサム

軽快な青春小説を読んでいるなずなのだが、途中から少しずつえもいわれぬ不安のようなものが立ち込めてくる。「色々あるけどそれもご愛嬌」という感じで話は進むのだが、主人公が彼女の持ち物の中にあるものを発見してから、読者も主人公と同じ不安のようなものを抱え込むことになる。主人公に感情移入しながらの読書は久し振りだ。だんだんミステリーじみてきたなと思ったら、最後にとんでもない結末が待っていた。びっくりもしたが、それ以上に色々なところに仕組まれていた伏線に思い当たって、やられたという感じだ。可哀想な話のようだが後味は悪くない。読む人によって感想はそれぞれかもしれないが、私自身はいたく納得してしまった。(「陽だまりの彼女」 越谷オサム、新潮文庫)

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小さいおうち 中島京子

単行本で刊行された時から読みたいと思っていたのだが、ようやく読むことができた。内容は、ある一人の女性からみた戦中戦後の日本の日常風景だ。女性の年代は、ちょうど我々の親の世代。自分などは、親の世代から「戦中戦後の日本人は何を考えていたのか」ということをしっかりと聞いたことがない。本書の主人公がその当時に見聞きして考えた事というのは、そうした我々と親の世代のギャップを非常にうまく埋めてくれているような気がする。どんどん泥沼化していく戦況のなかでどのような不安を感じたのか、資源のない小国日本がアメリカという強国大国と戦争をするということをバカげたことだと思わなかったのか等、今から思うと「何故?」と思うようなことも、本書を読むとその答えが良く判る。最後に主人公の手記と一緒に出てきたもの、色々な解釈が可能だが、色々考えると、胸が熱くなる。読んで良かったと思える傑作だと思う。(「小さいおうち」 中島京子、文春文庫)

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したたかな韓国 浅羽祐樹

最近アジア関連の新書をいくつか読んでいるが、どれも大変ためになる内容だった。本書も、韓国の初の女性大統領の誕生という上手いタイミングで刊行された1冊だが、そうした話題性だけに頼ったものではなく、大変充実した内容だ。女性大統領誕生までの政治の流れを、韓国独特の選挙制度の解説を絡めながら判り易く説明してくれている。韓国の大統領と国会議員には任期途中での解任という制度が全くないこと、予備選挙で各党の候補者を選出する時に「事前アンケート」の結果を反映させるというびっくりするような制度があることなど、隣国ながら知らないことが多いので反省してしまった。本書では、竹島問題、従軍慰安婦問題なども解説されているが、「竹島問題には悪魔の代弁者が必要で韓国はそれをしっかりやっている」「韓国は従軍慰安婦問題を法的解決以外の目線をもって見ており、それを国際社会も認めている」という指摘は非常に示唆に富んだものだ。(「したたかな韓国」 浅羽祐樹、NHK出版新書)

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2013年本屋大賞予想

今年の本屋大賞の候補作は11編。候補作が発表された時に既読だったのが3編。昨年も一昨年も候補作を全部読んだ上で予想できたので、今年もそうしたかったが、結果的には11編中9編を読んでの予想となる。まだ、発表までに日にちがあるので、それまでに読めるかもしれないが、色々読みたい本があって、「これを読まなければ」という読書はイヤなので、この段階で予想してしまうことにする。

自分としては、横山秀夫「64」と窪美澄「晴天の迷いクジラ」の2冊。横山秀夫は今更という感じが強いので、「晴天…」を本命としたい。

 良い意味で予想を裏切ってくれたのが「晴天…」と百田尚樹「海賊と呼ばれた男」。いずれも前の作品があまり自分に合っていなかったという記憶があり、期待値が低かったからかもしれないが、驚くほど良い本だと感じた。西加奈子の「ふくわらい」も、この作家としては少し異色な作品だと思うが、それが却って印象的だった。山田宗樹「百年法」はあまり好きではない歴史改変SFだが、大変面白かった。良い本との出会い、良い読後感には、こうした意外性もかなり重要なんだなと再認識した。これに対して、著者ならではという感じだったのが原田マハ「楽園のカンバス」。著者の略歴をみると、これぞ著者が書きたかった作品ではないかと納得の1冊だ。中脇初枝「きみはいい子」は、自分 としてはややメッセージ性が強すぎるような気がした。 伊藤計劃・円城塔「屍者の帝国」は、著者への思い入れが強すぎたせいかもしれないが、何か娯楽性が置き去りにされているような感じで、読んでいてスカッとしないのが気になった。以上を踏まえて大賞作品を予測すると、①晴天の迷いクジラ ②64 ③百年法 ④ふくわらい ⑤海賊と呼ばれた男、と言ったところかと思う。

 

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ネコに金星 岩合光昭

我が家は全員写真家岩合光昭の大ファンなのだが、こうした写真と文章が一緒になった本を読むのは初めてだ。まず本書では、表紙の写真のあまりのすごさに圧倒される。中にも良い写真は数多いが、マイベストは宮崎の神猫。その神々しい姿はミュージカルの「キャッツ」に出てくるジェリクル・キャッツそのものだ。(「ネコに金星」 岩合光昭、新潮文庫)

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