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ルバイヤートの謎 金子民雄

本書を手にするまで、「ルバイヤート」という書物については、名前だけは聞いたことがあったものの、いつ頃のどこの国の誰の本なのかという知識は全くなかった。本書を読んで、「ルバイヤート」という本が、11世紀頃イランのアフガニスタン国境近くで生まれたオマル・ハイヤームという詩人によって書かれたペルシャ語の「四行詩」集のことだと知った。それだけでずいぶん賢くなった気はするが、その本に書かれた詩とはいったいどういうものなのか、あるいはなぜこの本が世界中で読まれているのか、そのあたりの事情は、どうも一筋縄でいかないらしい。そもそもこの詩集の前述した基礎知識でさえ、様々な謎があり、しかもほとんどの謎が解明されていないという。要は、深い謎のベールに包まれていながら、あるいはその謎ゆえに世界の人々を魅了するというのがこの本の正体であるらしい。80歳になろいうとしている著者自身その魅力に取りつかれてしまったようで、学術的に謎を解明していく一方で、著者自身がその謎を楽しんでしまっているようで面白い。そんな本に巡り合ってしまった著者が、なんとなくうらやましい気がした。なお、巻末の著者の略歴をみたら、「ツアンポー渓谷の謎」の訳者とある。かなり守備範囲の広い人なんだなぁと感心してしまった。(「ルバイヤートの謎」 金子民雄、集英社新書)

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赤い刻印 長岡弘樹

好きな作家の新刊書。読んでみて、著者の作品に漂う独特の雰囲気はいつも通りだし、ミステリーの要素も面白かったので、特に文句はないのだが、どうもいまひとつ満足できなかった。著者の作品を最初に読んだ時のインパクトが感じられなくなってしまったのはこちらの事情なので如何ともしがたいが、それだけではなく、やはり本のありようにも多少の問題があるのではないかと感じた。まず収録された短編の数が4つというのはやはり少なすぎる。また、それぞれの短編に統一感のようなものが感じられずバラバラという印象もある。これでは、私のように著者の作品ならば読んでいるだけで満足という固定ファンには良いかもしれないが、本書を読んで著者のほかの本も読んでみたくなるといった感じで新しいファンを増やすことにはならないだろう。著者の真骨頂は、スーパーヒーローの探偵ではなく地道な警察官を主人公とする短編ミステリーだと思う。それだけにアイデアを出し続けて高い水準を維持していくのは容易なことではないだろう。それだけに、寡作でも良いのでじっくり読ませてほしい、読み終えてまた彼の本を読めて幸せだなぁと感じたい、というのがファンの勝手な希望だ。(「赤い刻印」 長岡弘樹、双葉社)

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心中おサトリ申し上げます 未上タニ

どこかの本屋さんだか忘れたが、サイン本だったので、内容を確認せずにとりあえず入手してしまった1冊。その後、ずっと未読のままにしていたが、今回何となく読んでみた。全く予備知識なく、しかもあまり期待せずに読んだのだが、これが結構面白かった。荒唐無稽な話だが、妙に説得力があり、登場人物のキャラクターも何となく面白い。話の流れが、妙に遅くなったり早くなったりで少しまごつく部分もあったが、作者が書きたいように書いているという感覚が伝わってくるので、途中からそれはそれで良い気もしてきた。これ以外にも未読のサイン本が何冊か手元にあるので、機会を見つけて読むようにしようと思った。(「心中おサトリ申し上げます」 未上タニ、角川書店)

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幻想古書店で珈琲を 蒼月海里

サイン本を買ったら、それがシリーズの第2作目だったので、まずは第1作目をと思い第1作目の本書を読んでみた。大きな本屋の6階に人知れず佇む古書店。働いていた会社が倒産して無職になった主人公が偶然そこに迷い込むという設定。そこにいるのが、魔法使いで、古書が絡んだ小さな事件を解決する。お仕事ミステリーと言えばそうなのかもしれないが、設定が荒唐無稽過ぎて読んでいても話になかなか入り込めない。何かの薀蓄が語られることもなく、一体これは何なのだと思いながら、最後まで読み終わってしまった。何となく話は面白いし、それなりにまとまっている気もするが、どうも釈然としない感じが残る。既に第2作目も入手済みなので、それも読むつもりではあるが、すぐに読まないと読む機会を失くしてしまいそうだ。(「幻想古書店で珈琲を」 蒼月海里、ハルキ文庫)

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言ってはいけない 橘玲

話題になっている本なので読んでみた。著者の本は2冊目になる。世の中には様々なタブーがあり、特に人種差別、性差別は決して思っても口に出してもいけないこととされる。様々な分野の研究者が、様々な実験をして、その結論を説明する仮説がそのタブーに抵触する場合、科学者はどうするべきか。それを発表して強い批判を受けるという事件は後をたたない。人々のタブーには、色々な段階があるのだろうか?少なくとも、どういう意見や仮説があるのかは知っておきたい。何もしないとそうした意見に出くわす機会はなかなかないのが現実だ。そうした状況だからこそ、本書のような本の存在意義があるのだろう。本書の中では、心拍数と犯罪率の関係の話には、最も驚かさせれた。(「言ってはいけない」 橘玲、新潮新書)

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ふる 西加奈子

小さな会社のOLである主人公の今と過去が交互に語られる本書。普通の小説のようだが、読み進めていくと、不思議というか奇妙なことが幾つかある。主人公には他の人が見えないものが見えていたり、主人公が過去と現在で出会う人が違う人であるはずなのに何故か同じ名前だったりする。しかも主人公には毎日の人との会話を録音して後でそれを再生するという奇妙な習慣がある。そうした設定の中で、話は大きな事件もなく進む。最後にそれらの設定がある一つの意味を持つことが判って話は終わる。そこで、これは何かの答えを見つけるための話というよりも、何かを考えるための材料を提示することを目的とした話であることが明らかになる。おそらくこの小説は、読む人のこれまでの生き方によって全く違う感想を持つことになるだろう。私自身は、主人公の生き方とかなり近い気がしていて、同じことを考えている人がいるという事実にある種の共感を感じることができた。文字が空から降ってくるという感覚も面白い。良い本だなぁと思った。(「ふる」 西加奈子、河出書房新社)

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