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私のことはほっといてください 北大路公子

著者の単行本になっている作品はほぼ全て読んでいるはずがだ、本書は明らかに著者のベストONEの面白さだ。これまで通りの脱力系のエッセイという体裁は同じだが、この本に収められているのは、エッセイと小説が融合した今までに読んだことのないような文章だ。特にカッパの話や白熊の話は、超絶技巧の文章で、恐らく何度読んでも面白いだろう。実際、河童の話は直ぐにもう一度読み直したが、なんでこんな文章が書けるのか不思議なくらいに面白い。ものぐさな著者と北海道の冬との延々と続く闘いの話だけでも十分にファンになってしまったのだが、本書を読んでますます大ファンになった。(「私のことはほっといてください」 北王路公子、PHP文芸文庫)

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ルビンの壺が割れた 宿野かほる

色々なメディアで話題になっている1冊。あまりにも話題になっているので、本屋さんで買うのが少し恥ずかしかったくらいだ。内容は、30年振りに連絡を取り合い過去を懐かしむような中年男女のメールのやりとり。自分自身も、「ネットで私の名前を見つけた」という小学生の時の同級生から何十年ぶりかでメールをもらったりした経験があるので、この設定は他人事ではない感じだ。最初のうちはやや危ない感じがしながらも、普通のやり取りが続くのだが、そのうちにどんどんまずいことになっていく。最後は意外と言えば意外な結末だが、それ程話題になるよう内容ではないようにも思える。この本は、ネット社会の怖さをその内容自体で示していると同時に、この本がネットで話題になって売れているという事実そのものがネット社会とはどういうものかを教えてくれているような気がする。(「ルビンの壺が割れた」  宿野かほる、新潮社)

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アレグリアとは仕事はできない 津村記久子

本書の題名になっている「アレグリア」とは、主人公が働くオフィスに設置されたプリンター・スキャナー機能を持った複合コピー機だ。読み始めて2ページ目でそのことが明らかになり、そこからは主人公とアレグリアの格闘、主人公の心の葛藤が続く。いやこれだけの設定でよくもこうした小説が書けるものだと、一ファンとしても改めて著者のすごさを再認識してしまう。昨年来、著者の本を最初に読んでから、随分著者の本を読んできたが、まだまだ半分くらいしか読めていない。同じ作家の本を続けて読むことはしないようにしているので、過去の作品を読み終えるのにはもう少しかかるが、じっくり楽しんでいきたい。(「アレグリアとは仕事はできない」 津村記久子、ちくま文庫)

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よっつ屋根の下 大崎梢

本書の概要を一言で言うと「ごく普通の四人家族が次第にバラバラの土地で暮らすようになるまでを描いた小説」となるだろう。こういうと悲しい話のように聞こえるが、読み終えた感想は、全く違う。四人の家族が夫々色々なことを考え、他の家族のことを思いながら過ごす数年間の記録。色々な暮らし方の形があり、色々な思いやりの仕方がある。それは幾つになっても変わらない。家とか家族に縛られるよりも、それを自分らしく生きるための拠点のように思うことが大切であると本書は教えてくれる。(「よっつ屋根の下」 大崎梢、光文社)

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水鏡推理6 松岡圭祐

今回の作品は、日本社会の大きな課題である「過労死」を真正面から取り上げた内容。働き方改革の旗振り役であるべき霞ヶ関の苛酷な実態を浮き彫りにしつつ、自分の職務に懸命に取り組む主人公の姿が描かれている。私は出向で2年間霞ヶ関で勤務していたが、その時にも「月の残業300時間」ということが現実にあった。本書を読むと、それから30年たった今も全く変わらない状況があることがわかり、暗澹たる思いだ。本書は、びっくりする仕掛けが満載で、私は少なくとも4回びっくりした。本シリーズはますます好調だ。(「水鏡推理6)」 松岡圭祐、講談社文庫)

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