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カンボジア孤児院ビジネス 岩下明日香

東日本大震災以降のボランティアへの関心の高まりもあって、最近「ボランティアツーリズム」という言葉をよく耳にするが、本書はそのような風潮に大きなリスクがあることを指摘する。日本では最近カンボジア等の発展途上国に行って孤児院を慰問したり短期間のボランティアを体験するツアーが盛んで、大手の旅行会社によるパッケージツアーもあるらしい。こうした体験ツアーに参加することについて、日本人はほとんど無条件で良いことと思ってしまうが、そこには孤児院という看板を掲げた悪意や冷たいビジネスの影がちらついている。日本からのツアー参加者を受け入れる孤児院では、子供たちによるカンボジアの民族舞踊で歓待しつつ、わざとみすぼらしくした環境を見せることで寄付を募るビジネスやひどいところでは売春行為などもまかり通っているとのこと。カンボジアでは既に戦争や内戦が終わってからかなりの年月が経ち、孤児の数は減少している。にも関わらず、近年カンボジアでは孤児院の数が急増しているそうだ。事実、孤児院で暮らす子どもの8割は実際には孤児ではないという。しかしそれでは、そうした孤児院が完全に子どもを食い物にした悪かというと、話はそう単純ではない。子どもたちに売春行為を強制するようなところは論外だが、非常に貧しい家庭の子どもにとって孤児院は曲がりなりにも食事に困らず教育も受けさせてもらえるという意味で意味のある存在になっている面もあるらしい。日本人としては、自分のしていることが本当に貧しい子どもたちやその国の将来の役に立っているのか、何かに利用されているだけなのか、もう一度よく考えてみる必要があることを教えてくれる一冊だ。(「カンボジア孤児院ビジネス」 岩下明日香、潮出版)

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