書評、その他
Future Watch 書評、その他
老後の資金がありません 垣谷 美雨
本書では、主人公をはじめ老後を迎えつつある様々な人が登場し、それぞれの立場での悩みや不測の事態にぶつかりながら一生懸命にそれに対処していく姿が描かれている。自分に似た人もいれば、自分にとっての反面教師のような人もいる。人それぞれによって、共感するところもあれば、参考になるなぁと思う場面も違う気がする。そして、全体を通して、老後の生活を支えるものは、お金と友だちと見栄を張らない心の持ち方の3つであるということを楽しく教えてくれた。(「老後の資金がありません」 垣谷美雨、中公文庫)
ナナメの夕暮れ 若林正恭
人気タレントのエッセイ集。彼が司会を務めるTV番組「激レアさん」のファンで、彼が読書好きと知っているので、面白いかなと思って読んでみることにした。本書を読んで、その直感は当たっていた。その本書で一番面白かったのは、彼がモンゴル、キューバ、アイスランド等を一人旅したというくだりだ。特にアイスランドの年末の花火の話は、ネット動画で確認してみたが、正に書いてある通りで、何とか機会があったら見に行きたいなぁと思った。(「ナナメの夕暮れ」 若林正恭、文藝春秋)
音楽会 音楽おもちゃ箱
子ども向けの楽しい音楽会。クラシック音楽を身近なものとして子どもに馴染んでもらいたいという意識の高い音楽家、家族の集いのようで良かった。また機会があったら行きたい。
想い出が消えないうちに 川口俊和
人気シリーズ第3作目の完結編。ある特殊な条件を満たす場合のみ過去に戻って会いたい人に会えるという不思議な喫茶店という設定はこれまで通り。この特殊な条件は、物語の中の登場人物を縛ると同時に、書き手である作者をも縛る。本書を読んでいると、作者自身がその設定の中でどのように話を制作していくか模索しながら書き進めていることがよく分かる。著名な作家が、物語の作成、自らの執筆の秘密として「設定だけを決めてあとは筆に任せる」と言っているが、おそらくそれと同じ感覚なのだろう。本書をもって完結編とする潔さも気持ちが良い。(「想い出が消えないうちに」 川口俊和、サンマーク出版)
火焔の凶器 知念実希人
著者の人気シリーズの長編最新作。このシリーズは、長編と短編集が半々くらいだが、自分としては短編集の方がこのシリーズの良さが際立つような気がする。長編の場合はどうしても連続殺人といった大掛かりな事件を扱うことになるが、そのことによって病院内で大きな事件が頻発することになり、いくらなんでもそれはないだろうという突飛な話になってしまう。本書でも、欠点というほどではないが、やや不自然なご都合主義に陥ってしまっているところがある気がするし、大きな事件ばかりだと厳密さを要求するミステリーファンを納得させるストーリーに無理が生じてしまう。今のところ話の面白さがまさっているので良いが、事件の大きさがさらにエスカレートしていくと、どんどん現実味が薄れていってしまう気がする。(「火焔の凶器」 知念実希人、新潮文庫)
マッカーサーは慰安婦がお好き 高山正之
ずっと文庫で読み続けているエッセイ集のシリーズ。ほぼ全編が中国、韓国、米国、朝日新聞等への批判で終始しているのはいつも通り。本書中の半藤一利への痛烈な批判は、彼の本を読んだばかりで自分が彼の歴史観に無批判であることを危惧したばかりだったので、自分の中でバランスをとるのに役立ったような気がした。また本書の中で一番気になったのは、シリアのアサド政権の悪評が多分に情報操作の産物であるというくだりだ。本書におさめられたエッセイが書かれたのは2012年頃でもう6年も前のことだが、その後のシリアでの色々な出来事も含めて、何が真実なのか、見極めることの難しさを今回も痛切に感じた。(「マッカーサーは慰安婦がお好き」 高山まさゆき、新潮文庫)
蜂に魅かれた容疑者 大倉崇裕
人気シリーズの第2作目。実際にあった大事件を彷彿させる内容だが、どういう展開が待っているのか、黒幕は誰なのか、最後までなかなか明らかにならないのでハラハラさせられた。生物学の知識と直感を駆使して事件の真相、真犯人を追い詰めていくプロセスが読んでいて爽快だ。次の第3作目は短編集とのこと。長編短編とも楽しく読めるシリーズだ。(「蜂に魅かれた容疑者」 大倉崇裕、講談社文庫)
古生物学者、妖怪を掘る 荻野慎諧
間違いなく科学者による啓蒙的解説書なのだが、どこまで本気なのかと思ってしまう不思議な一冊。取り上げられているのは、何故古今東西の邪悪な妖怪や鬼にはツノがあるのか、平家物語に登場する鵺の正体はレッサーパンダではないか、一つ目妖怪の正体は何かなど、冒頭から最後まで、著者の古生物学や歴史に関する知識に基づいた非常に興味深い話が続く。杓子定規な科学書ではなく、もっともらしさや可能性の高さなどにとらわれず、読み手の心を豊かにする「選択肢の提示」に専念している著者の姿勢が楽しくもあり、有り難くもある。語り口も軽妙で、思わずニヤニヤしながら読んでしまった。(「古生物学者、妖怪を掘る」 荻野慎諧、NHK出版新書)
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