goo

ロシア点描 小泉悠

ロシアの軍事政策を長年研究してきたという著者が、ロシア人の国民性やプーチンのものの考え方について、自らの体験や研究を通じて得た知識を基にして語るタイムリーな一冊。本書は、ロシアのウクライナ侵攻について考える場合にただ問答無用で非人道的な愚かな戦争と斬り捨てるだけでは解決の糸口は見つからないだろう、言いかえれば今の事態を収拾させるためにはロシア人やプーチンの行動様式や思考パターンを理解する必要があるというスタンスで語られている。読んでいて驚いたのは、2019年までモスクワに滞在しロシアの軍事研究に携わっていた著者がそのようなスタンスで語るエピソードの多くが、ロシアという国が最近まで過酷な専制政治の元にあったことと冬の厳しい寒さの2つでほぼ説明できてしまうもので、カルチャーショックとは言えない程度の意外さしかないということだ。言葉を変えて言えば、この程度のカルチャーショックは、海外勤務をしていれば日常茶飯事のショックでしかないという感じであり、これをどう理解すれば良いのか深く考えさせられてしまった。個別の話では、プーチンの国家観の根幹に「軍事的に独立していない国家は主権国家とは言えない」という強い信念があるという指摘、2014年のウクライナ危機の際の西側諸国の経済制裁後にロシア産の農産物の品質が逆に向上したという話、ロシア人も靴を脱いで家に入るという話などが、へぇそうだったのかと強く記憶に残った。(「ロシア点描」 小泉悠、PHP研究所)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )