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鉄道ビジネスから世界を読む 小林邦宏

本屋さんで題名を見て、世界の鉄道事情とか鉄道ファンに関する軽い本かと思ったのだが、読んでみて全く違うとても濃い内容の一冊だった。インドネシアやアフリカ諸国の高速鉄道の受注競争で日本企業が中国企業に負けたというニュースは何度か見た記憶がある。そうしたニュースに対して、自分自身あまり深く考えずに、中国のダンピングや賄賂戦略に負けた、安全よりも経済が重視された、短期的な損得だけが考慮された結果安物買いの銭失いになってしまうのでは、などといったイメージを持ってしまっていたが、深く考察するとそんな単純な話ではないことを本書は説得力を持って教えてくれる。中国企業躍進の背景には、発展途上国の鉄道需要の本質、為政者の思惑に対する冷徹な考察がある一方、欧米や日本企業には、技術への過信、安全神話の絶対視、グローバルスタンダードの縛りなどがある。こうした彼我の差が端的に現れるのが、鉄道敷設と競技スタジアム建設の2事業なのだという。スタジアム建設については、北京オリンピックの新設競技場の建設費が500億円だったのに対して、東京オリンピックの新国立競技場はレガシーとか云々しているうちに3500億円まで膨れ上がり、後に高すぎるとの批判があって減額となったがそれでも1500億円だった。これだけ違えば勝負にならないのは明らかだ。本書では、ロシアのウクライナ侵攻でも中国の鉄道ビジネスが潤う可能性があることなども指摘している。今年読んだ新書の中でもとりわけ面白い一冊だった。(「鉄道ビジネスから世界を読む」 小林邦宏、集英社インターナショナル新書)
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