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ノヴァーリスの引用/滝 奥泉光

著者の初期作品を2編収録した本書。著者の本はこれで3冊目だが、前に読んだ作品と同じ作者とは思えないようなガラリと違った雰囲気にびっくりさせられた。巻末の解説を読んで、著者の処女作が「虚無への供物」の流れをくむ幻想ミステリーだったということ、その後の作品で芥川賞を受賞していることなどを知ってこれにもびっくり。もう何冊か著者の本を読んだ上で、それらを書かれた時系列に並べてみると著者の進化ぶりというか変化の過程が見えてくるかもしれない。本書に収められた表題作は、中年男性が酒を飲み交わしながら学生時代のある事件を回想するという内容。それぞれの人物が事件当時の記憶を辿り真相を推理していくのだが、それぞれの記憶が曖昧だったり、記憶同士に齟齬があったり、さらには酔っ払って夢うつつに語り出したりで、とにかく一筋縄ではいかない不思議な物語だ。もう一つの「滝」という作品は、かなり衝撃的な作品だ。ある宗教団体の夏季合宿で行われる「山岳清浄行」という修行での出来事を綴ったものだが、こちらも最後の着地点がなかなか見えてこないなか、最後の1ページに至って、予想を上回る結末の悲惨さと理不尽さに驚かされる。それにしても、最後の手紙が善意なのか悪意なのか、そもそもその答えが重要な要素なのか、「誰か教えて」と言いたくなってしまった。(「ノヴァーリスの引用/滝」 奥泉光、創元推理文庫)
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