ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
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韓国史劇風小説「天皇の母」90(そうそうフィクション)

2013-01-17 12:37:35 | 小説「天皇の母」61話ー100話

朝の東宮御所は静かに明けるのが常だった。

皇太子が独身時代は。

起床は6時と決まっている。7時には食堂に降りて食事をして今日の予定を確認する。

外出予定がなければビオラの稽古か読書をする。とはいってもそんな風に「何もない」日はわずかなのだが。

時折は学友達を招いて酒を飲む事もあるし、あるいは集まりに顔を出す事もある。

東宮御所は半分は公的な場所であるから、常に綺麗に整えられ、時間もきっちり守られているし

調度品などはしかるべきものを選んで置いている。

私室は皇太子の好みによって色や素材が決められているが、誰がどう決めても皇太子は反対はしない。

皇太子は怒ってはいけない」という事をしつこく教えられてきたからだ。

「皇太子が怒ればそれは職員の進退問題にまで発展する」というのがその理由。

だから今までは全てにおいて「よきにはからえ」でやってきたのだ。

 

皇太子は辛抱強く椅子に座っていた。

朝から寝室では「朝でございます。どうか起きて下さい」という女官の声が響き渡る。

朝7時から始まる朝食の時間は大幅にずれ込んですでに8時になろうとしている。

それでも皇太子は黙って座っていた。

「あの・・・お先に召し上がられては

侍従の言葉に「いや・・もう少し」と答える。自分だけ先に食べ始めてしまってはきまずいだろうとの

心遣いだった。

しかし。今日はご接見もございますし。早めに支度を始めないと」

恐る恐る侍従が言い始めた所に、女官長がため息交じりに降りてくる。

ただ今、いらっしゃいますので」

心なしか女官長は怒っているようだ。いつもこんな風景が繰り広げられる。

「殿下、恐れながら妃殿下は東宮御所での生活になかなか馴染まれません。公的な性格のある

生活であるという事に反発を強めておいでです。しかし、皇太子妃という立場はそういうもの。

どうか殿下から妃殿下にお話し下さい」

と侍従長に諭された記憶もある。でも、結果的に皇太子は何も言えなかった。

自分より頭がいい女性に対してそんな事をいうのは気がひけたのだった。

 

マサコは不機嫌な様子で食堂に現れた。すぐにコーヒーが運ばれてくる。

おはよう」皇太子は笑顔で声をかけた。

ああ・・おはようございます。ああ、ご飯はいらないわ。コーヒーだけでいっていつも言ってるわよね」

運ばれてきた朝食をマサコは手でぐいっと遠ざける。

どうして食べないの?朝はきちんと食べないと体に毒でしょう」

私、独身時代はいつもコーヒーだけだったの。それに和食って馴染めません」

「じゃあ、パンにすれば?」

パンって・・・銀座の中村屋のパンじゃないでしょう?いくら言っても聞いてくれないんですもの」

「中村屋っていう所のパンはおいしいの?どうしてダメなの?」

皇太子は女官に尋ねる。女官は答えに窮し、すぐに女官長に言いつけに行った。

女官長は「殿下。東宮御所の食事は全て大膳で作られており、その食材は全て御料牧場から

とられているのです。それはとても贅沢な事でございますよ。民間の食べ物を口になさらなくても

いいという事です。

また、パン1個といえどもそれは税金です。御料牧場の食材は両陛下と東宮家のみ

全て無料です。

他の皇族はお金を出して買わねばなりません。そのように恵まれ立場におられるのですから

どうか無駄遣いは」

やんわりとだが、女官長の言い分はもっとも。皇太子はうんうんと頷いた。

皇太子妃ってつまらないわね。たかがパン1個も買えないなんて。そういう身分になるんだったら

最初に教えてくれたらよかたのに」

マサコ・・・?でも僕たちは恵まれていると

好きな時に好きなものも買えない身分のどこが贅沢なんですか?あなた、皇太子でしょう?将来は

天皇になるんでしょう?日本で一番偉い存在になる人がたかがパン1個買えないってどういう事?

あなたが銀座で何か買ったら誰が反対するっていうの?それこそお門違いじゃないのですか?

そもそも私にだって好きなものを食べる権利くらいあるんじゃないの?そんなちっぽけな権力もないなんて。

あんまりだわ」

・・・・女官長。パンくらい買ってもいいでしょう」

そういうと、女官長はびっくりした目で皇太子を見つめた。そしてちらりとマサコを見る。マサコは

してやったりという顔をしている。

はい。では明日の朝はそういたしましょう

それから殿下。私、今日は皇居に行きたくないんです」

そういえば、今日は月に何回かの食事会。両陛下とノリノミヤ、アキシノノミヤ夫妻と一緒に夕食と

その後のお茶を楽しむのだ。

何で?いつもある事じゃないし」

妊娠したのがアキシノノミヤ妃ではないですか。私は肩身が狭いし、これ以上子供をって言われるのは

耐えられないんです。両陛下は私を嫌っているし」

嫌ってなんかいないでしょう。いつも優しく接して下さっているんでしょう」

あなたにはそう見えるのね」

突然マサコは泣き出した。皇太子はぎょっとしてオタオタとうろたえ始める。

私がどんなに疎外感を持って生きているかわからないんでしょう。そうよね。あなたは元々

皇族なんだし。私の気持ちはわからないでしょうね」

皇太子は助けを求めるように女官長をみたが、彼女は知らん顔をしている。また始まった・・・という具合だ。

わかったよ。今日は僕だけ行くから」

皇太子の判断に侍従も女官もみんな顔をしかめ、ふうっとため息をついた。

マサコは機嫌を直したのか「もっとコーヒー」といいつけ、にっこり笑った。

(皇太子って権力がないの?)

マサコの素直な問いは皇太子の頭の中に大きく残った。今まで考えたこともないけど・・・

皇太子は権力がないのか?あるのか?

マサコの言う通り、今までが人間らしくない生活だったのではないかと思い始めていた。

 

早く。支度を早くしなさい」

いらだった声が響いた。

キコははっとして服を着替える。念入りに化粧をして目の下のくまが見えないように工夫する。

けれど・・・昨夜も眠れなかった。

ヒサコに言われた「皇太子妃殿下より先に妊娠するなんて」という言葉が胸に突き刺さっているのだ。

その後、女性週刊誌で「出産と仕事、どちらが大事か」とか「女性の幸せは」という特集が組まれる度に

皇太子妃と自分が比較対象されて、あれこれ言われているのは知っている。

マコを産んだ時は日本国中が祝福ムードだったのに、今回は違う。

もし男子出産の場合は東宮家に先んじて皇位継承者が生まれる事になる。そうなると将来の

天皇が宮家の男子より年下になってしまう」などと馬鹿な事を書く雑誌もあり

皇太子夫妻とアキシノノミヤ家のバトル」のような書き方もされ・・・・どちらにせよ悪者はいつもキコだった。

一番我慢がならないのは「キコ妃は好きで皇室に入ったし次男の嫁だからプレッシャーが少ない。

それをいい事に皇太子妃に対して不遜な態度をとっている」という印象操作がなされている事。

キコ妃の妊娠がマサコ妃にさらにプレッシャーを与えている」というのもある。

そんなつもりはないのに。

自然に妊娠しただけなのに・・・・・キコは傷つき、何日も枕を濡らした。しかし、それはいわゆる

「マタニティブルー」としてあまり深く取り合ってもらえなかった。

カワシマ家に帰りたい。母の手作りの料理や父の漢文に触れる日々に戻りたいと思ったが、突然の

里帰りすら許されない身。無論、こっそりと手紙を・・・という手もあったが、

そんな事を受け入れる両親ではないし。

「オールウェイズスマイル」が父の信条であり、キコに授けてくれた知恵だ。

そう思って今まで頑張って来たが、そのスマイルですら「わざとらしい」と言われるとは。

何をしている。職員を待たせてはダメじゃないか

とうとう部屋まで宮が迎えに来た。キコの悲しげな顔を見ると宮の目は釣りあがる。

不機嫌な顔をしない。誰にどう見られているかわからないんだから。

僕ら皇族は相手を不快にさせたり、心配をかけたりしてはいけないんだよ。何度も言ってるだろう」

はい。申し訳ありません

だったらもっと早く行動して。1分待たせれば多くの人に10分の迷惑がかかる」

キコは諦めて、すぐに気持ちを切り替えようとした。

 

皇太子妃は具合が悪いのかね」

食事会はいつになく和やかに始まった。

天皇の問いに皇太子は「ええ。疲れているようですので失礼いたしました」

疲れているって・・・公務が忙しいのか」

「マサコには何もかも慣れていない事ですから」

「あら、結婚して1年も経つのに慣れていらっしゃらないってどういう事なの?」

ノリノミヤはしらっと言い、皇后が目配せして止める。

皇太子はちょっとむっとして

マサコは結婚前の環境と全く違う場所に来たんだから仕方ないだろう」

という。天皇は少し眉をひそめて

人間、慣れない環境には常に慣れていく努力が必要だし、この食事会も単なる楽しみではないと

知っているだろうね。皇太子はそのあたりの心得をきちんと教えているのか」

陛下。私にも色々そういう辛い時はありましたし」

皇后が笑ってとりなす。そう言われると天皇は何も言えなくなった。

それにしても皇太子妃殿下は体調を崩しすぎるのではありませんか?公務も欠席しがちと聞きましてよ」

ノリノミヤはお茶のカップを口元に運びながらいう。

たまに会う機会がある時はとてもお元気そうなのにね。検査でも異常はなかったのでしょう?」

サーヤ。マサコはお前たちとは違うんだよ」

皇太子の声は少し怒っている。

まあ、私達と違うって」

サーヤや宮妃のようにのんきではいられないという事さ」

その言葉はキコの心にぐさっと突き刺さった。

どういう意味かしら?私達、決してのんきに生きているわけではありませんのに。お兄様、おかしくてよ」

おかしいのはそっちだよ。結婚してから毎日のように世継ぎ世継ぎって言われて。そうかと思えば

宮妃が先に懐妊して。園遊会でマサコに「おめでとうございます」と言った人がいたらしくてマサコは

いたく傷ついていた。「私じゃありません」って答えるのが精一杯だったんだよ。誰もがキコ妃のように

すぐに子供が出来るわけじゃないんだし」

やめなさい。ナルちゃん」

皇后が気色ばんだ。沈黙が席を覆う。キコは急に気持ち悪くなって立ち上がる。

どうした?」宮が心配そうに声をかける。

大丈夫。少し風に当たってまいります」

キコは部屋を出た。宮が後を追ってきてくれないかと期待したが、そんな事あるわけなかった。

人前では殊更に亭主関白を気取る人なのだ。

つわりで苦しむ程度の妻の心配をする人じゃない。

妃殿下。侍医をお呼びしましょうか?陛下のおぼしめしです」

すっと女官が寄ってきた。

いいの。ありがとう」

キコはにっこり笑った。

中座して失礼してしまったわ。よくないわね。こういうの」

そんな・・・妃殿下は常のお体ではないのですから」

ドアがぱたんと開き、現れたのはノリノミヤだった。

「お姉さま、大丈夫?別室に参りましょうよ。冷たいお水をお持ちするから」

いいのよ。ノリノミヤ様はお部屋にお戻りになって。私はすぐに治まるし」

東宮のお兄様が変ってしまったようで。私は嫌なの」

「皇太子殿下はお優しいだけです。まだ新婚でいらっしゃるし」

お姉さま達だってそうじゃありませんか。お兄様ったら様子を見にもいらっしゃらない

「そんな事して私をかばいだてすれば私が殿下を操っているように見えるから。殿下は広い目で

ご覧になり判断していらっしゃるのです」

自分の口から出てくる「優等生」の答えに嫌気がさす。もっと素直に感情を出して泣いたり笑ったり

出来たらどんなにいいか。だけど・・宮はそれを許さないだろう。

宮の厳しさは自分を鍛えるものだとわかってはいても、時には例外が欲しかった。

私がついていてよ。ご心配なさらないで」

ノリノミヤの言葉だけが心強く聞こえるのだった。

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」89(フィクションよねえ)

2013-01-12 07:00:00 | 小説「天皇の母」61話ー100話

結婚1年目の夏。

皇太子とマサコは葉山の御用邸に滞在していた。

海辺を歩きませんか?」

皇太子がそっと誘ってくる。マサコは返事をしなかった。

皇太子殿下がお誘いでございます」と女官が注意したが、それも無視した。

途方にくれた皇太子は諦めて、自分の部屋に入る。

あの・・・僭越ながら。皇太子殿下の問いかけにはきちんとお答えになるべきでございます。

でないと失礼になります

何様のつもり?私に指図するわけ?」

マサコは鋭い視線を女官に投げかけ、ぷいっと立ち上がるとわなわなと震え始めた。

女官はびっくりして「今、お医者様を」と叫び、部屋を飛び出していく。

 

怒りで体が震えるとはこの事だった。

皇室に入ればイギリスのダイアナ妃のように、毎日おいしいものを食べて海外旅行出来て

みんなにちやほやされると思っていたのに、求められる事と言ったら「お世継ぎを」とこればかり。

静かな環境が必要なんだよ」と皇太子が言えば、海外旅行はもってのほかだといわんばかりに

国内の公務ばかり増やされる。

マサコは正直、児童福祉、老人福祉、障碍者福祉には全く興味がなかったし、赤十字活動にも

関心がなかった。関心がないのに公務に参加させられ、その為にやれ説明だの進講だのと

言われたら退屈のあまりに死にそうになる。

生涯学習のようなものをお持ち下さい。アキシノノミヤ妃殿下は現在、学習院の大学院で心理学を

専攻していらっしゃいますし、手話も続けていらっしゃいます。ろうあ連盟から公務に呼ばれることも

多いですし。皇后陛下は和歌と文学をご趣味にされていますし、ノリノミヤ様は盲導犬の指導に

熱心に取り組んでいらっしゃいます」

そういうものには興味がありません」とマサコは答えた。

だったら外交をやらせて下さい。外国に行かせて

皇室における外交とは、外務省のそれとは全く異なるものでございます」

だって皇太子殿下は皇室でする外交も外務省でする外交も同じって言ったのよ」

それは言葉のあやというものでしょう。厳密に皇室に外交という仕事はございません」

両陛下はしょっちゅう外国に行ってるじゃないの」

それは招待されるからでございます。両陛下は長い年月をかけて各国の王室と友好を温められ

招待したりされたり・・・という事になるのでございます。行きたいから行くというようなものでは」

「約束が違うじゃない。何よ。晩さん会で通訳なしでしゃべったら注意されるし、話す内容は制限

されるし。私が勉強して来た事もやってきたものも全然いかせないじゃない」

皇室は特殊な環境でございます。外国要人をお迎えするにも政治家とは違うおもてないしの

お気づかいが必要なのです。それはおいおい学んでいって頂ければ」

私を馬鹿にしているの?今さら何を学べというの?約束が違う」

約束が違う・・・マサコの心の中はその言葉だけが渦をまき始める。

そうなると自分でも収拾がつかなくなるのだが、その事しか考えられず、それがきちんと解決

されないと次の段階にいけないのだ。

延々と皇太子に「約束が違う」と言い続けた。

皇太子は困り果てる。「マサコさんはまだ皇室に入ったばかりだから。僕も協力しますから

一緒に頑張っていきましょう」

私が頑張りたい事はそういう事じゃないの。私は外交官になる人間だったの。あなたと結婚したら

海外へ行かせてもらえる約束だったでしょうと言ってるの。

なのに、結婚して1年経つのにそういう話はないじゃない。みんな二言目には子供を産めってそればかり。

毎日、SEXしろって言われているようなものよ

あまりのどぎつさに皇太子は言葉を失い、まじまじとマサコを見つめた。

そもそも人のSEXライフに口を出すなんてプライバシーの侵害。宮内庁も東宮職も何様よ」

みな、僕達の事を考えて・・・・」

もういいわ」

マサコは黙り込む。ここ数か月、こんな会話が続いていた。

皇太子は折に触れ、オペラやクラシックの世界にマサコを誘うのだが、彼女はそういう事には全く

興味がなかった。ゆえに演目も知らないし誰それの指揮がどうの・・などという話は退屈きわまりない

わだいで。そういう話に花を咲かせる皇太子と学友達の図は頭に血が昇るだけだった。

皇太子の登山の趣味も理解できない。そもそも山登りして何が楽しいのか。

静養したって、せいぜい海辺や付近の農家を散策するくらい。

葉山なら有名レストランはどこだとか、箱根の旅館に泊まるとか温泉を貸切するとか・・・そういう

楽しみが全くない。

 

そして今もまた「海辺の散歩」ときた。

海辺で一般人とすれ違って声をかけて、それをマスコミが取り上げて・・・ああ、うんざり。

東宮御所に戻ったら、また敵的に参内sてアキシノノミヤ妃達と一緒に食事をしなくてはならない。

キコ妃のいいこぶってる顔を見るだけでぞっとする。

話も、どこそこの施設を訪問した事だとか、アキシノノミヤのなまずや鶏の研究の話だとか

つまらない話題ばかり。

皇族というのはみんなそうなのだろうか。

皇太子と回りの学友達もおおむねそんなもので。

クラシックもオペラもテニスも乗馬も・・・無論福祉も。そんな話題についていけない自分は

陰で笑われているような気がして「もうあの人たちとは会わない」と宣言した。

皇太子の困った顔を見る時は、ちょっとすっきりした。

最初は口うるさくしきたりやマナーなどについて注意してきた皇后や女官達。

彼らにも皇太子を通じて抗議させたら黙った。

そんなささやかな「しかえし」ひどく楽しくなるほど、マサコは退屈し切っていたし、皇室に

自分の居場所がない事を痛感していた。

 

侍医が飛んできて、マサコの脈を取る。

わなわなとお震えになって・・・それはもう

女官のドキドキした声に侍医は耳を傾け、そしておもむろに言った。

安定剤をお出しいたしましょう。軽いものですから落ち着きます。そして少しお休みください」

その言葉通り、マサコは薬を飲むと自室にこもり、昼も夜もなくベッドで眠り始めた。

食事の時間も眠いので、起きるのが面倒になりベッドに運ばせた。

普通ならそんな行儀の悪い事は許されないのだが、医者が

妃殿下は精神的に不安定になっていらっしゃいます。おからだの震えもそこから来るもので。

あまり興奮させないように。お好きに過ごして頂くように」

と言ってくれたので、腫れ物に触るようにちやほやしてくれる。

特に皇太子のうろたえっぷりははたから見てても面白い。

自分が怒りをぶつける度にオタオタする皇太子の姿に溜飲を下げる自分に疑問を持つ事もなく

マサコは時々癇癪を起しては回りを狼狽させた。

 

葉山からの帰り、皇太子とマサコはほとんど会話をしなかった。

マサコは車の中で半分姿勢を崩して寝ていたし、皇太子は無表情で前を見据えるのみ。

そんな空気に、回りの者はみな戦々恐々とし始める。

 

そんなマサコの実態は、実は国民にはほとんど知られていなかった。

女性週刊誌は「マサコ様は人身御供だった」とか「かごのとり」という論調で

マサコ様お可哀想」報道をしてくれたからだ。

優れた能力を持ち、最高の学歴を持っている美しい女性が皇室という旧弊な世界に入り

かごの鳥にされて閉じ込められ、個性を潰されている」

この論調は、ヒサシが機密費をばらまいて女性週刊誌を買収し、盛んに書かせているもの。

さすがのヒサシも娘がここまで無能力だとは思わなかったらしく、アキシノノミヤ妃の懐妊を

きっかけにマサコを援護しなくては、国民の反感を買うと直感した。

「キコ様は先帝の喪中にアキシノノミヤと恋愛結婚。無理を通したキコ妃は皇室に入りたくて仕方なかった。

でもいざ入ってみたら、常識はずれな事ばかりして皇后を怒らせた」

系の報道も相次ぐ。

キコ様の張り付いた笑顔は皇后さまの真似。学生結婚して社会に出た経験のない妃は、何をするでも

皇后の真似をしなくてはならなかった」とか

子供を産む事だけが幸せではない」論調。

 

そんな報道が毎日なされるうちに、皇室ではすでにマサコに何も言えない空気が

出来上がりつつあった。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」88(フィクションですっ)

2013-01-08 18:12:58 | 小説「天皇の母」61話ー100話

キコの懐妊が発表された時、マサコ的には別にどうでもいいと思っていた。

元より自分は子供を望んでいないのだし、その為の作業もまっぴらと

思ってきたのだから。

しかし、父から電話がかかって来た時、一瞬にして彼女の顔は蒼白になった。

何で先をこされたんだ?悔しくないのか?」

と。

「アキシノノミヤの子供より、皇太子の子供の方が大事に決まっているじゃないか。

結婚して何か月経つと思ってる?あっちはすぐに妊娠したぞ。今度は二人目だ。

ただでさえ結婚した時期が遅いというハンデがあるというのに、ここで遅れをとって

どうするつもりだ。何を悠長に構えているんだ」

ほぼ怒鳴り声に近い言葉が次々とマサコの心を刺していく。

だって・・・だって・・・」

だってもへったくれもあるか。お前は皇太子妃になったからってどれで何もかも

成功したと思っているんじゃないだろうな。とんでもない話だ。男子を産まなければ

意味はないんだ。次の次の天皇の外戚になってこそ、オワダ家は成功したといえる

んだから」

側で夫の電話を聞いているユミコは耳をふさぎたくなった。

自分は結果的に3人の娘を得たけれど、そのせいでオワダ家からは無視され

夫からも半分馬鹿にされている。

マサコが皇太子妃になってくれたからまだ「母」としての面目を保っていられるようなもの。

レイコもセツコも幸いにして成績優秀だから・・まだ・・・あとはいい嫁ぎ先があれば。

あなた・・・いくらなんでもまーちゃんが可哀そうよ」

可哀想だって?お前、マサコは子供が産めないからだなのか?」

そんな事ありませんよ!」

だったらお前からもよく言い聞かせろ」

電話の向こうで夫婦喧嘩まで始まりそうな気配にマサコは思わず泣き出してしまった。

自分が妊娠しないからって親が喧嘩をするなんて。

はるか昔に感じた「見捨てられ感」がよみがえってくる。

男に生まれなかったから、成績が悪かったから、フタバに落ちたから・・・・

自分は父にとって理想の娘ではなかった。小さい頃、父の横顔がどこか寂しそうで

不満げである事に心を痛めてきた自分。

それがありありとよみがえってきたのだった。

どうしたのですか?」

心配した皇太子がマサコを見つめる。マサコは慌てて電話を切った。

何でもないわよ。お父様が怒ってるの。アキシノノミヤ妃が妊娠したから

ああ・・」

皇太子は最初、何で怒っているのかわからないという顔をした。わかる筈ない。

皇太子にとっては姪か甥が一人増えるだけの事なんだから。

でも、もし生まれてくる子が男子だったら、皇太子に次いで皇位継承権3位になってしまう。

勿論、その後でもなんでも自分が男子を産めばそれでいいのだが。

でもでもでも、今、確実に自分は傷ついている。

それもこれもアキシノノミヤ妃が妊娠したから。

自分をさしおいて妊娠したから・・・何でそんな事がわからないのか。

あなたって鈍感すぎませんか?もし生まれてくる子が男だったら皇位継承権3位なのよ。

そしたら私の立場はどうなるの?せっかく皇太子妃になってあげたのに、意味が

ないとか言われるじゃないですか」

「だってマサコ・・さんが自分から子供はしばらくいらないって」

言ったわよ。言ったけど。それはあっちが先に妊娠するって話じゃなかったから。

こんなの約束違反だわ」

マサコは吐き捨てるように言い、そのまま自分の部屋に駆け込んだ。

後から後から涙があふれてくる。

悔しくないのか?」父の言葉が胸に刺さる。

悔しい・・・・悔しい・・・悔しくて悔しくて胸が張り裂けそう。

何よ。アキシノノミヤ妃なんて学習院大卒の働いた経験なし女でしょう?

何で頭もよくないのに子供を産むわけ?

マサコは頭がよい程子供が出来にくくなるのだ・・と無理やり自分を納得させようと

したがそれは無理だった。

だから、産むなら猫の子でも産むようにいくらでも産めばいい。あちらが10人産んでも

自分が産む一人の方が価値があるのだと思い込む事にした。

それでも「悔しくないのか?」というセリフが頭にはりついて、その日は延々と泣いていた。

あまりに泣き過ぎて、朝になったら目が真っ赤に腫れ上がっていた程。

この恨みは一生忘れまい・・・・マサコは深く心に刻んでいた。

 

一方、アキシノノミヤ家では静かに懐妊の祝いが設けられていた。

昼間に参内して両陛下に懐妊を報告すると、「おめでとう。体を大事に」

いう言葉を賜った。

皇后は目を細めて笑った。

失った声はまだ戻っていなかったが、それでも嫁の懐妊は本当にうれしいらしく

久しぶりに顔がほころんでいる。

おめでとうございます。お姉さま。私に出来る事は何でもいたしますわ」と

ノリノミヤも嬉しそうに言った。

サーヤは自分の心配をしなさい」と、アキシノノミヤが言った。

この所、週刊誌がかまびすしい。

それというのも、ノリノミヤの婿候補と呼ばれる人達が次々結婚していくからだ。

ノリノミヤ自体はそれほど結婚に乗り気でいるわけではなく、候補者が結婚したからと

いってがっかりするような事はなかったのだが。

それでなくても、皇后の看病で自己犠牲になっているのではないか・・・・と宮は

心配しているのだ。

本来なら皇太子妃が皇后に代わり、公務を肩代わりなどをしていかなくてはならないのに

当の皇太子妃は精神的に不安定なまま。

アキシノノミヤ家としては出過ぎた振舞をするわけにいかず。

そんなジレンマに悩んでいるのだった。

私は別に、今のままで十分に幸せなのよ」

そうは言っても。宮内庁は何をしているのか」

お兄様っておもう様よりうるさくていらっしゃるのね」とノリノミヤは笑った。

キコは「兄上様はノリノミヤ様の事を心配しておいでですよ。マコのお世話をされるより

どなたかと楽しくお付き合いする方がよろしいのでは・・・と」

うん。そうだね。いつまでも時代劇だアニメだと言ってる場合じゃないね

と天皇も笑った。

でも、キコは体を大事にして、丈夫な子を産みなさい。マコを育てつつ公務を行い

子供を産むのは大変だろう。もし、困った事があったら何でも相談するように」

ありがとうございます」

笑顔に包まれた報告だった。

 

そして「アキシノノミヤ妃懐妊」の知らせは日本中に流れ、久しぶりに「キコちゃんブーム」

が再燃し、マスコミが取材攻勢をしかけてくる。

国民誰もが心の奥底に持っている願望・・・それは「男子出産」だった。

もし男子だったら・・・」

皇太子家よりも早く男子が誕生したら・・・それはそれでめでたい事になるか

それともお家騒動ぼっ発か。

みな何となく皇太子夫妻のぎこちない風景には気づいていた。それだけに・・・・

 

赤十字公務で女性皇族が集まった時、マサコは明らかに不機嫌そうな顔で

笑顔もなく、顔がひきつっていた。

会場はどこもキコ妃の懐妊でお祝いムード一色。

皇后を始め、古株の宮妃方もこぞってお祝いを言い、子育ての話で盛り上がり

和やかに式典が始まった。

その中でマサコとタカマドノ宮妃だけは特に言葉をかけるわけでもなく

厳しい顔で無視している。

最初は気づかなったキコだったが、次第に二人が自分に対して敵意を持っているような

気がし、ちょっと控えめに下がった。

皇太子妃殿下がお可哀想だと思わないの」

こっそりと耳打ちするようにヒサコは言った。

ご結婚して半年あまり、まだご懐妊の兆候はないのよ。だけど週刊誌も国民も

皇太子妃の懐妊を望んでる。本当に望まれているのは皇太子妃殿下のお子なの。

勘違いなさらないでね」

その言葉にキコはショックを受け、思わず泣きそうになった。

どうなさったの?具合でもお悪いの?」

声をかけてきたのはユリ君だった。

少しお休みになったら?」

いえ・・・大丈夫です。お気づかい、ありがとうございます」

「いいのよ。私にも経験があるわ。何といっても私は5人も産んでいるもの」

ちらりとヒサコを見る。ヒサコは咳払いをしてそばを離れた。

どうかお許し下さいね。カタマドノ宮の所は去年、3人目が女の子だったでしょう?

あれも歳が歳でもう4人目は諦めなくてはという所でね。色々気がたっているの」

いいえ・・・私こそ・・・このような時期に」

何をおっしゃるの。お子が産まれるのはどんな時でも嬉しい事。気にせずに」

キコは頷いた。

これ以上、他の宮妃に心配をかけたくない。

いぶかられないようにポーカーフェイスを貫きつつ、しかし心は穏やかではなかった。

男子出産のプレッシャーは自分にもある。

宮妃ならだれでも。

アキシノノミヤ家としても後継ぎが必要だった。だから宮とは相談しつつ

何人でもという気持ちで頑張ろうとしているのだが。

こんな事、宮には相談できない。

静かに深い悲しみが心を覆っていく。妊娠初期の不安定な心の動きだろうと

自分でも思うのだが、それでも悲しくてたまらなかった。

3年前はそんな事なかったのに。

しかし、それは長い苦しみの始めの一歩にしかすぎなかった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」87(さあフィクション)

2013-01-06 16:19:16 | 小説「天皇の母」61話ー100話

妃殿下。妃殿下。どうかお起きになって下さいませ」

自分を起こそうとする声が聞こえる。うるさい。

昨日、寝たのは何時だったか・・・・確か夜中の3時くらい。

今何時?7時?4時間しかたっていない。

妃殿下。朝でございます。殿下が食堂でお待ちになっておられますから」

女官の声が悲鳴に聞こえるので、マサコは仕方なく目をあけた。

妃殿下。どうか洗面を。それからおぐしを整えて、お着替えになって」

うるさいわね。何で命令するの」

マサコは眠気といら立ちに思わず乱暴な口をきいた。

命令だなんて。殿下をお待たせするのは失礼にあたります」

女官長も負けてはいなかった。

待たなくていいって言ってるじゃない。私、疲れているのにどうして起こすの?」

公務のお時間が」

具合が悪いの。今日はお休みします」

具合がお悪い?では侍医を呼びます。どんな風に具合がお悪いのですか?」

頭が痛いし、微熱もあるし。だから今日は休みます。ほっといて下さい」

そうはまいりません。妃殿下の健康管理も私達の仕事ですから。まずお熱を測って

下さい。それから詳しくおからだの様子を」

プライバシーの侵害」

マサコは叫んだ。

勝手に私に触らないで。何でそうプライバシーを侵害するの?わけわからない」

「妃殿下・・・」

女官長はため息をついた。

どうかしたんですか?」

気が付くとドア口に皇太子が立っている。どうやら食堂でマサコが降りてくるのを

待っていたが、待ちきれずに来たらしい。

おはよう。どうかしたの?」

・・・・・・」

マサコは黙り込んだ。女官長が代わりに答える。

妃殿下は今朝はお具合が悪いと」

え?そりゃ大変だ。すぐに侍医を呼んで。どんな風に悪いのですか?

熱はあるの?」

頭が痛いの。一人で寝ていたいんです」

まずお医者に見せないと」

「私が具合悪いって言ってるんだから悪いんです。熱があるっていったらあるの」

「じゃあ、お薬を」

いらない。ほっといて欲しいの。一人にして」

マサコはほぼ半狂乱になりつつあり、皇太子は困り果て女官長も狼狽する。

とりあえず、侍医を呼んで。それから落ち着くような飲み物を持ってきて。

僕は部屋を出ますから」

皇太子はそそくさと出て行った。女官達も逃げ出すように出ていく。

マサコは思い切り布団にもぐりこんだ。

今、お水をお持ちします」

女官長は諦めて出て行った。

 

マサコの心はいら立ちと苦しみと怒りで一杯だった。

こんな筈じゃなかったのに・・・一体誰を恨めばいいのか。

結婚して最初は楽しかった。

綺麗な服をとっかえひっかえ着替えて、どこかへ行くたび「マサコさまー」と

声がかかり、みんな最敬礼で迎えてくれる。

公務先の施設は完璧だし、食事もおいしい。

多少、堅苦しい式典出席を我慢しさえすれば、「皇太子妃」の地位はこの上なく楽しい

ものだった。

しかし、1月経ち、2月経ち、3月経つ頃には

ご懐妊はまだか」という報道が増え、誰に会ってもそれを期待されていることに気付いた。

3年間は子供を作りません」と両陛下に言ったら、ものすごくびっくりした顔をされて

どうしてですか?」と聞かれた。

だから「子供を産むより皇室外交をしたいからです」と答えたら

皇室外交・・・は仕事ではありませんよ」と言われて、今度はこちらがびっくりした。

慌てて皇太子は「マサコはまだ皇室に慣れていないので、なじむまでは子供はいなくても」

ととりなしたが、「皇室外交は仕事ではない」というセリフが気になって皇太子を追求した。

一体、どういう意味なの?私、皇室外交しにここに来た筈よね?」

そうですよ」と皇太子はにこにこして答えた。

じゃあ、何で両陛下は違うっていうの?」

両陛下のお考えでは、皇族は国民の為に尽くすものだという事です。でも僕達は

僕達なりに国際的な皇室をめざしていけばいいんじゃないかな」

とわけのわからない言い方をする。

まるでけむに巻かれたみたいな思いでいたら、今度は毎日のように国内公務ばかり

押し付けられる。

「外国にはいつ行けるの?」

それは政府が決める事で」

外国旅行が出来ないの?国内ばかりでうんざりなんだけど

「そのうち、そういう話も来るでしょう」

皇太子の言う事は要領を得ない。

さらに、自分とは全く関わりのない学習院のOBらと会わされたり・・・何を話していいか

わからなくなり、そのうち退屈してきたので「具合が悪い」と言って途中で逃げ出したら

妃殿下としての自覚が足りない」と言われてびっくり。

登山にも付き合わされて。どうしても二人で仲良く山を登る絵が欲しいというマスコミのせいで。

しかも「手作りのお弁当」を作れとかなんとか?

冗談じゃないわ・・・って言ったら侍従や女官が影でこそこそと

「可哀想な皇太子殿下」と言ってるのを聞いてしまった。

また、勤労奉仕団への会釈が毎日のようにあり、そのたびに知らない人と会話を

しなくてはならず、どうにも面倒で仕方ない。

「接見」も最初は「石鹸」と間違えたくらいやたら多く、その度に下調べの為に

資料を沢山渡されるし。これでは休む時間がない。

外国へいかせてくれるという約束はどうなったのか。

「日本にいらした外国の方々を接待するのも大切な皇室外交です」

東宮大夫に言われた。

でも、それは本来自分がやりたいことではない。

私は外国に行きたいのだ。

それでも、ロシアのエリツィンとかアメリカのクリントンとか、有名人と会うのは楽しい。

通訳なんか通さずに得意の英語でバンバン会話したら、今度は叱られた。

妃殿下。外国要人との会話は相手をやりこめてはいけないのです」と。

やりこめているつもりはない。議論をしているだけなのに・・・・

でも男なんて一見バカそうな顔をしている女性の方が好きなのだ。あのエリツィン

だってキコの方ばかり見て楽しそうに話していた。

キコは「ロシアの冬は本当にお寒いそうですね。日本の冬はいかがですか?」

などというどうでもいいような話をする。

ロシアが日本より寒いのは当たり前の話じゃないの。それを言うならロシアの住宅や

車は氷点下何度まで耐えられるのかとか、せめてロシア的社会主義の行く末について

語るべき。

「政治を語ってはいけません」と注意されてびっくり。

気が付くと自分の回りが全部「あれをしてはだめ、これをしてはダメ」の連続になっていた。

期待される事と言ったら「ご懐妊」こればかり。

私は子供を産む為に結婚したんじゃないのに。皇室外交をする為に結婚したのに。

毎日、毎夜、今日は皇太子と一緒に寝るかどうか・・女官も侍従もじっと見守る。

気持ち悪いったらありゃしない。

彼らの同情をいっせいにひいているのは皇太子だ。

「結婚したというのに、妃殿下と一緒にお休みになれない」

「何で拒否するのかわからない

本当にお気の毒」

そんな陰口があちらこちらから聞こえてくる。

その時、初めて知った。私は人身御供なんだと。

皇太子との結婚によって、無理やり夜を共にしなくてはならず、生涯その身を皇太子の

側に寄り添って「妻」の役割をしていかなくてはならない人身御供。

何を今さら・・・まあちゃん。あなた。しっかりしなさいよ

東宮御所に来た母は泣きそうな目で言った。

結婚するってそういう事でしょう?私だってあなたのお父さんと結婚してあなたたちを

産んで。外交官夫人として頑張ってきたんだわ。まーちゃんは皇太子殿下と結婚したから

皇太子妃なのよ。当然、お世継ぎを産まないと」

そんな約束してないじゃない。お父様はそんな事を言わなかったわ」

それは・・言わなくてもわかると思ったからよ」

「お父様は私を騙したのね。お父様だけじゃない。殿下も私を騙したわ。結婚さえすれば

皇室外交させてくれるって約束だったのに、外国に行けないし、わけのわからない人達

と会ったり式典に出たり。祭祀があんなに辛いものだなんて教えてくれなかった」

まあちゃん。落ち着いて。外国はそのうちきっと行かせてもらえるわよ。あなたにふさわしい

外交をさせてもらえるわ。なんたってお父様は国連大使になるんだから」

「本当に・・・・?」

本当よ。もう少し我慢しなさい」

でも。私、あの人と一緒に寝るのは・・・」

じゃあ、具合が悪いとか何とか言って暫くは一人でいたらいいわよ」

母の言葉はどう考えてもその場しのぎに過ぎなかったし、皇太子の顔を見る度

「今日は?」と聞かれているみたいで本当に嫌になってしまった。

結婚当初は「疲れている」の一言ですんなり納得してくれた皇太子も、さすがにこのころに

なると拒否されているのがわかるらしく、ちょっとぎくしゃくするようになった。

僕達、付き合い始めて短いから、もう少しお互いをよく知らないといけませんね」

別に知りたくもないけど。

 

日々が流れるうちに、最初は「愛すべき失敗」などと言われていた公務先の失態も

(例えば、立たなくていい場面で立ってしまうとか、皇太子の後ろを歩かないとか

イヤリングを落としてそれを皇太子に拾わせるとか)

段々「妃殿下の自覚を以て頂きたい」という東宮職からの苦情になって出てくる。

皇室ではあくまで皇位継承権を持っている方が上です。妃殿下は一歩下がって

お支えする立場です。そして一日も早くお世継ぎをお産み下さい」

何という人権蹂躙の世界。

皇太子殿下には敬語でお話し下さい。皇太子殿下をおたてください」

自分としても頑張ってきたつもりだが、侍従長や女官長に言わせると

「不遜な態度」らしい。

人権蹂躙の世界で日々、プライバシーを侵害されて生活している自分こそ本当の

被害者であり、今こそ、その差別の壁を破らなければならないのだ。

でも、そんな事を一生懸命に語っても何も変わらず。

そのうちに公務をしようという意欲がなくなり・・・・

御風邪でしょうか

侍医がやってきたのでマサコはいやいや起き上がった。

少しお熱があるようですね。とはいっても微熱ですが」

微熱?もしや・・・・?」

女官長が期待の声をあげる。侍医はちょっと微笑んだ。

検査いたしましょう」

ああもううんざり。誰もかれも考える事は同じ。

ありえないから。

 

その後、マサコは体調を崩して3週間以上公務を休む羽目になった。

微熱が続いたのでもしや肺炎では?とレントゲン検査をするやら血液検査をするやら。

しかし、どこにも異常は見当たらず。

いうなれば「慣れない環境に適応するのが難しい」「ストレスを抱えた状態」との

診断が下された。

すると宮内庁は、東宮の公務を一気に減らし、夫婦での鑑賞や静養に重点を置くように

なった。

しかし、二人きりを強要されているようでますますマサコは心を閉ざし

部屋に引きこもるようになった。

やりたい事 → 外国へ行き、要人と話をして注目される事

          自分の学歴やキャリアが賞賛され、みながひれ伏すこと

やらなければならない事 → 世継ぎを産む事

                   しきたりに従う事

                   妻として夫をたてる事

やりたくない事 → 子供を産む事

            時間通り動く事

            命令される事

こんな風に紙に書けばきっと現実と理想のギャップがわかったのかもしれないが

今のマサコには理論的に考える余裕も機転もなかった。

ただただ、自分をこんな環境においやったヒサシと皇太子に向かって恨みつらみを

述べるばかりだったのだ。

 

そんな春のある日、アキシノノミヤ妃の懐妊が発表された。

 

                   

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韓国史劇風小説「天皇の母」86(行くよフィクション)

2012-12-22 07:00:00 | 小説「天皇の母」61話ー100話

オオウチタダスとは一体誰なのか・・・ハシモトは慎重に考えねばならないと思った。

元宮内庁職員からの内部告発という事になっている。

けれど、宮内庁に聞いても「内部告発だなんてそんな」と戸惑いの言葉しか返ってこない。

でも、この間、ソノさんという作家の方から問い合わせがあり、侍従職として正確にお答えしました」

みせてくれた雑誌をハシモトは開いた。

彼女は理数系で統計好きらしい。皇后とは親交があるのだろうか。

ページをめくっていくと、その詳しい内容にハシモトは思わず感嘆のため息をもらした。

最初からこっち(宮内庁)でもこういう反論を出していれば、皇后は倒れなかったのでは」

宮内庁はよほどの事がなければ雑誌の記事に反論は・・・言論の自由が阻害されたといわれますし」

よほどの事だよ!皇后が声を失ったんだ!」

「・・・・結果論で」

戦前の宮内省はよかった。身も心も皇室に仕えようとする人物がたくさんいた。

身を挺して守ろうとした。それはマニュアルでもないし押し付けでもない。

まさに忠実な皇室の藩屏だったのだ。

なのに今は、官庁からの回し者ばかりで、何もかも官僚的というか、融通がきかないというか。

それはそうだろう。今の宮内庁には外務省などという朝敵がわんさかいるのだから。

外務省は本来日本の国益を守る最前線にいなくてはならない省なのに、やれチャイナスクールだ

ロシアンスクールだと左翼系の派閥ばかりつくりおって。

その最前線にいるのがよりによって皇太子妃の父親だ。

その父親の口利きなのか、裏で何が動いているのかわからないが、とにかくそっち方面の職員が

増えた事は事実。

だが、ハシモトはまだそれが一大勢力になりつつある事は知らなかった。

 

ページをめくる。

皇后ミチコさま批判再考」とタイトルがうってある。

一々検証したのだろうか・・・・

もともと宵っ張りのご性格なのだが、赤坂御所にしばしばお友達を呼んで深夜までお話をされる。

そこで侍従や女官、仕人や女儒、大膳らはお客様がお帰りになるまでサービスに務める」

「午前1時や2時に「カップラーメンを作って下さいとか林檎をむいてとご下命があったりする」

→ 「天皇が学友を招いたのは6回。皇后はゼロ。そのうち2回は皇太子と秋篠宮。深夜まで合奏などをしました」

宵っ張り?カップラーメン?一体誰の話をしているのか・・・・これは皇后の事ではない。

じゃあ誰の? ハシモトの脳裏に一人の女性の姿が浮かんだ。

東宮職の職員がこぼしていた事・・・・皇太子夫妻は寝る時間が別々で朝食も一緒じゃない。なぜか。皇太子妃は

宵っ張りだから。公務先の居眠り。

吹上新御所の建設で先帝が愛した自然林が丸坊主になりました。総工費56億円の贅沢御所。

新御所は迎賓棟を有している。来賓用の宿泊室や浴室も備えた部屋」

そこであのハマが信じられない発言「迎賓という意味では迎賓館があるのに御所の中に作る必要はない」

→ 実際に迎賓部分はなし。赤坂御所は規模は小さくなっているが書庫だけは大きくなっている。

  新御所は宮内庁長官を始め関係者がどこに建てる。どんな設計にするなどを決めた。天皇はご存じない。

  そもそも新御所の敷地は先帝が若き頃、ゴルフ場にする為に伐採。しかし盧溝橋事件後、国民と苦楽を共にすると

  いう意味で建設を中止し、木を植えた場所。

建設中も皇后から次々細かい注文を出され工事関係者は工期の遅れを取り戻すのに大変な思いをした。

建設中に一番熱心だったのは皇后」

→ 天皇・皇后が現場を見たのは数回にとどまっている。

加瀬英明「あの新御所には疑問がある。皇太后と一緒に住むべき」

→ それは規模的に考えられない。侍従職・皇后宮職・皇太后宮職と別々の組織があるのにそれが全部一つの

  オフィスにはいることは出来ない。

オクジリ島の地震後の見舞いが遅すぎた」

→ 7月12日地震発生・・・・7月27日、閣議決定などを経て見舞い。日帰りで天皇はその後執務。

皇后は公務で述べる言葉や飾る花までこまごまと指示する」

→ 皇后が公務で読む文書に手を加えたのは一度だけ。飾る花については日本いけばな協会が担当。

  でも皇后は日本の花を大事にされ、アドバイスすることも。

 

要は皇后は天皇を支配し、すべて指図しているといいたいのだろう。

新御所は贅沢で公務でヨーロッパを巡った事も「フルムーン」だと揶揄された。けれど実際のデータでは

贅沢どころか事細かな配慮による質素さが浮かび上がってくる。

確かに皇后は細かい性格だ。完全主義者だ。それは長年見てきたハシモトがよく知っている。

何もそこまでという部分も多々あった。でもそれは全てにおいて自己防衛だったのだ。

民間から皇室に嫁ぎ、守ってくれる人は夫ただ一人という状態において、「妃」という地位を確立するためには

後ろ指をさされないように頑張る必要があった。

それが時にはやりすぎて、側近から苦情として出てくることもあったかもしれない。

それを誰が責められようか・・・・・

皇后より輪をかけて完全主義者なのは実は天皇だ・・・と彼は思った。

(もしかしたら夫婦で演技しているのではないかと思う事もあるなあ)と思う程に。そういう意味では似たもの夫婦で

相性はぴったりなのではないか。

そこまで完璧主義者に育てられた3人の子供達。

そのうち、皇后にとってもっともプレッシャーがきつかった時に生まれたのが皇太子だ。

元々がおっとりした性格だし、先々を考えるはしこさのないヒロノミヤに皇后が随分いらついていた事は知っている。

何に対しても消極的で無関心な部分を悩んでいたことも。

それをかばってきたのはハマオで、皇后荷対して少し感情的なしこりがあるのも確かかもしれない。

だからって・・・・こんな・・・・

側近中の側近にまでこんな事を言われている孤独な二人。

これはあとをひくな・・・・ハシモトは直感でそう思った。

傷ついても跳ね返せるほど二人はもう強くない。そういう年齢はとっくにすぎてしまった。

 

それにしても・・・・こんな事を書くオオウチタダス。

皇室内部について相当な知識を持っているのだろう。加瀬のように「皇后と皇太后が一緒に住むべき」

などと非常識な事を言わないだけに余計に腹がたっている。

(そもそも皇太后が住むのは「大宮御所」と決まっている。今上は皇太后の為を思って環境を変えないように

古い吹上御所をそのまま大宮御所にしたのだ)

しかし、ボロを出している部分。「カップラーメン」と「宵っ張り」「贅沢」キーワードはこの3つのようだ。

もしやこれはとんでもない所からの陰謀なのではないか。

ああでも、どうやって確かめたらいいのだろうか。

まて。いつからこんな風になった?このバッシングが出始めたのは皇太子が結婚すると決まってから。

外務省?まさか・・・・

背中に寒いものがしたたりおちるのを感じた。

  

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韓国史劇風小説「天皇の母」85(絶対フィクション)

2012-12-15 12:00:00 | 小説「天皇の母」61話ー100話

事実でない報道には強い大きな悲しみと戸惑いを覚えます」

皇后にできる反論はそれが精一杯だった。

目の前が真っ暗になった。今までの努力が全て水の泡だった。

国民こそが味方だった筈。それだけを頼りに皇室に入った自分。

それなのに、国民は自分ではなく雑誌に書かれた事を信じている。

国民にとって自分とは何だったのだろうか。戦後民主主義の象徴。爵位を持たない家から選ばれた妃。

身分違いとののしられようと、生まれがいやしいと悪口を言われても耐えて来た。

自分は身分以上の、血筋以上のものを得ている筈だと信じてきた。

両親が自分に施した教育はどんな身分の高い人たちにだってひけをとらない。それにこたえようと自分は精一杯努力してきた。

天皇はそんな自分を愛して下さったのだ。

ゆえに、自分は日本の歴史の中でもっとも優秀な妃であろうと血のにじむような努力をしてきた。

決して隙を見せず、失敗せず、完璧に見えるように言葉遣いも立ち居振る舞いも本物の皇族方より皇族に見えるように。

そんな自分を国民は愛してくれた。敬ってもくれた。

今や「民間から出た妃」という言葉は死語になったと思っていた。いや、死語になっている。

なのにどうしてバッシングが起きるのだろうか。

贅沢をしてきた?自然林を破壊した?皇太后との仲が悪い?

何の根拠があってそんな事を。幼いヒロノミヤには父親のお古の制服を着せ、えんぴつ一本に至るまで「国民の税金だから」

と徹底倹約をしてきたし、洋服もリフォームして着ている。

自然林を破壊する権限など皇后にあるはずがない。皇太后は自分を嫌っていた。わかっていたけどちゃんと仕えているじゃないか。

なのに・・・・

こういう記事が出るというのは、結果的に軽く見られているからじゃないかしら。皇太后さまならこんな事、書かれないわ」

と言った宮妃がいたとか。

血筋が問題だというのだろうか。皇太子妃もアキシノノミヤ妃も民間出身なのに。

アキシノノミヤ妃は賢い。たった3年で皇族としての地位を築いた。今やセツ君の後ろ盾を得て立派な宮妃になっている。

セツ君は会津出身。それに縁があるキコは特別に可愛がられている。

結核予防会の仕事もキコに引き継がせようとしている。宮邸も与えようとしている。

セツ君がそうであればキク君もユリ君もそれに倣うだろう。

何といってもキコは学習院出身。常盤会が全面的に擁護してくれる立場だ。

アキシノノミヤは学友などの繋がりを深く持ち、旧皇族や華族との付き合いを重要視している。

それが皇后には出来なかった事だった。

学習院出という事で、そんな事が自然にできる嫁に嫉妬したこともあったかもしれない。

だから、皇太子妃には期待した。

そんな派閥などなくても自分と同じように頑張ってくれるものだと。

しかし、聞こえてくるのは苦情ばかり。

礼儀を覚えられない。しきたりを無視する。宮中祭祀を嫌がる。世継ぎに無関心。実家、外務省を後ろ盾にやりたい放題。

あからさまに皇室をばかにしている

そして「何でこんな嫁を?」と皇族方からは批判の嵐が。

「これだから民間出の方は。お妃選びもちゃんと出来ない。こういう嫁を迎えたという事は皇后自らが皇室を軽んじている証拠。

その結果がこのバッシングなのではないか」

その言葉を聞いた時、皇后の頭は真っ白になり、全体が崩れていくような絶望感に襲われたのだった。

 

気付いた時、そばにはノリノミヤがいた。心配そうな顔で。

おたあさま・・・」

宮は今にも泣きそうで、そんな娘の顔を見たら涙が止まらなくなった。

どうしてお泣きになるの。おたあさまを悲しませるものは全部私がやっつけて差し上げる」

やっつけるなんて下品な言葉・・・皇后はちょっとだけ微笑んだ。

ドンマーインよ。おたあさま。おたあさまには私がついているの。だから大丈夫。ドンマーイン」

この時程、娘の存在がありがたいと感じた事はなかった。

よかった・・・ノリノミヤを産んで本当によかった。私は一人じゃないわ。

大丈夫?」

ドアを開ける音と共に天皇がかけつけてきた。

おたあさま、気がついてよ

そうか。脳貧血だというから心配はいらない。でも安静にしないとね。今日の事は何も考えなくていいから」

申し訳ありません…陛下・・・・・と皇后は言おうとした。

え?何?」

天皇が聞きかえす。

申し訳ありません・・・・・陛下・・・・でも声が出なかった。

皇后は蒼白になり、必死に声を出そうと、まるでおぼれた鳥のように口をパクパクと言わせる。

声が出ないのか」

おたあさま。すぐに侍医を呼びます」

天皇の顔色も変わっていた。呆然としている父を後目に娘はすぐに女官と侍医を呼び、診察をさせる。

「失声症」だった。

強い精神的なショックが原因で一時的に声が出なくなる病気。

いつ治るの?」

天皇の声に医師は言葉を濁す。

わかりません。明日かもしれませんし一生かもしれません。ご自分で乗り越えていかれるしか。今の陛下は強い

お悲しみの中で心を閉じていらっしゃるのです。それを癒す事が出来るのはご家族7だけです」

天皇は言葉を失い、ノリノミヤは母の手をとった。

とりあえず、宮内庁病院でCT検査等を受けて頂きます。精神科も呼びましょう。お心を強くおもちになって下さい」

「病院には私が付き添います」

 

皇后の声が出なくなった事はすぐに発表された。

「強い悲しみ」の為と発表されるや否や、不思議な事にあれほどひどかった皇后バッシングがぴたりとやんだ。

病気になる事でバッシングをかわした」

「これでマスコミは何も批判できなくなった」

とも言われた。

「開かれた皇室」という名の元に、積極的にプライバシーを公開し、皇室について自由に語れる世の中になりつつ

あったものが、「雑誌の記事が原因で皇后陛下が倒れた。全てマスコミが悪い」というマスコミバッシングにより

その後、しばらく後まで「持ち上げ記事」に終始する事になる。

 

極秘に参内したハシモトは天皇の学友だった。

天皇がまだ皇太子だった頃・・こっそり夜に皇居を抜け出して銀座を歩いた時も一緒にいた、何でも話せる「悪友」だった。

悪友であるがゆえにズケズケとものをいい、時には喧嘩になるし、宮内庁職員からは

「言い方に気を付けるように」と注意されることもあったけれど、彼は全然気にしなかった。

なぜなら、孤独な皇太子の姿をtぶさに見てきたからだ。

時代の流れの中で培ってきた友情はそんなに簡単に崩れるものではない。

皇后陛下のご容体は」

うん。まあね。そんなに悪いという事でもないんだけど、声がね。出ないから」

いつになく天皇は憔悴していた。妻が病気でも公務は続けなくてはならない。

無表情で粛々と公務を続ける姿はどこまでも立派ではあったが、痛々しい程で・・・職員達は誰もが胸を痛めた。

公務を終えてプライベートな居室に戻れば声を失った皇后が呆然と椅子に座っているのだ。

現実を思い知らされる気分である。

いっその事、皇太子夫妻に公務を代行させてしばらく御用邸に行けばどうかという意見もあったが

結婚したばかりの皇太子夫妻は自分の事で精一杯のようだ。

特に皇太子妃は体調不良で(それがどんなものなのかわからないが)公務を休むことが多く、きがつくといつも静養している。

その度にマスコミは「懐妊ではないか」と騒ぐが残念ながらそのような事実は見受けられない。

常に微熱が・・・体調が・・・とやってる皇太子妃に公務を代行させる事は出来ない。

東宮はなんだってあんなのと結婚したかな」

ぽつりと天皇が言った。悪口など一度も聞いた事ないのに。

ハシモトはびっくりして思わず「そりゃああんまりな。外務省出身のエリート官僚候補ですよ」と言った。

そこが問題なんだよ。なまじエリート意識が強いから自己主張が激しくて」

なるほど」

それはまあおいといて。今日はね、君に頼みがあって呼んだんだ」

何でもおおせの通りに」

まだ何も言ってないよ」

天皇は少し微笑んだ。

全く君は昔から気が早い」

「そうですか?陛下は何でも電光石火だったような気がしますが。女性を誘うのもね」

何だよ。そんな昔の事」

とうとう天皇は声を立てて笑った。かなり気分が和んだようだ。しかし、その表情もすぐにかたくなる。

オオウチタダスについて調べて欲しいんだ」

例のバッシング記事を書いたといわれる人間ですね。実在するのですか」

わからない。元宮内庁の人間という事らしいが、それらしき人間は見当たらない。本当は長官あたりに相談すべき

なのかもしれないが・・・宮内庁にはあちらこちらに目が光っているようなのでね」

それはどういう?」

わからない。けれどこちらの情報が筒抜けになっている事は確かだ。皇太子が結婚してから何かが変わっている。

その何かが何なのかは全くわからないんだ」

雲をつかむような話ですね

「そう。冗談ではなく真面目に言っているんだよ。今回の一連の記事やバッシングが誰かによって仕組まれたものだったら。

皇室解体を望んでの事だったら」

ハシモトは絶句した。

戦後、日教組による左翼教育のせいで日の丸や君が代を嫌悪する勢力が増えた事は知っている。

けれど大多数の国民は皇室に敬意を払っているし先帝のカリスマ性は半端ではなかった。

だが、代替わりし、民主主義時代の天皇制を考える時、長い間避けてきた「皇室」との関わりを復活する事は

並大抵ではないと推察する。

国歌を嫌い、国旗を嫌い、その象徴である皇室を忌避する風潮は避けられない事だった。

それでも皇后の人気、アキシノノミヤ妃の人気で繋いできたものを。

もっと深く、皇室を潰そうとする勢力が動いているとしたらとんでもない事だ。

わかりました。雑誌社には知り合いが何人かいますから。聞いてみましょう」

極秘に頼むよ。くれぐれも極秘にね」

「はい。陛下の御為ならこのハシモト、命にかえても」

大仰な物言いにも関わらず天皇は笑うどころかほっとしたような顔をした。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」84(だってフィクション)

2012-12-13 08:57:40 | 小説「天皇の母」61話ー100話

ヒサシは頭をかかえていた。

自分の娘がここまで皇室に馴染めない人間だとは思わなかったのだ。

結婚前、「まーちゃんは大丈夫かしら?あの子・・・本当に」とユミコが神経質なくらい心配して、

その度に「あの子はハーバードを出ているくらい、頭がいいのだから」と慰めてきた。

ユミコも「そうよね。皇室に入ってしまえば何とでもなるわね」と言っていたが

何ともならないのだ・・・・・

最初の地方公務、岩手で居眠りした写真を見た時は驚きのあまり卒倒しそうだった。

立ち位置が逆などというのは日常茶飯事。

皇太子と一緒に学習院の同窓会に出席した時は途中で「具合が悪い」と言い出して退出した。

だって知らない人と会話するのって嫌なんですもの。学習院の人達ってやたら身内意識が強くて

私の事をよそ者だと思っているし」

というのがマサコの弁だったが、皇太子の困惑は手に取るようで、妻のいない部屋で学友達に無意味な笑顔を

振りまいていたとか。

それを東宮侍従長から聞かされ「困ったことですな」と間延びしたような事を言われ、立つ瀬がなかった。

寝室を共にしない事も結婚早々から問題になっていた。

生活時間帯が違うという言い訳だったが、当然誰も納得しない。

そのうちに

妃殿下は皇太子殿下をないがしろにしすぎる」という噂まで立ち始めた。

惚れた弱みなのか、皇太子は朝、妻が起きてこなくても文句も言わず延々とテーブルについている。

起きてくるまで待っているのだ。

女官たちは慌てて何とか早くマサコを起こそうとするし、侍従達は顔色を変えつついたたまれない気持ちで

控えているのだが、皇太子は無表情のまま延々と座っている。

自分が皇太子の立場だったらこんな妻は追い出す所だ。

だから「少しは皇太子に合わせろ」と言ったら

だって、私、昨日寝たの午前2時よ。起きれるわけないじゃない」との答え。

今の今まで自分の娘がこんなに宵っ張りの朝寝坊だとは思っていなかった。

ヒサシは愕然として言葉を失った。

だから、朝は自由にしましょうって言ってるのに皇太子殿下はずっと食べないで待ってるの。嫌味よねー

私、食堂へ行く度にあの人がじーっと座ってるのを見るとぞっとするのよ。気持ち悪いって」

夫になんという事を」

さすがのヒサシも怒るしかない。

「お前は妃殿下なんだぞ。少しは立場をわきまえろ」

そういう男尊女卑って最低だと思う。お父様はそんな事おっしゃらないと思ったのに」

「そういう問題じゃない。妃の最大の務めは世継ぎを産むことだ。男子を産まないと皇室内での立場が悪い。

そんな事百も承知だろうが」

3年間子供はいらないって言ったら、それでいいって殿下が言ったもの」

 

マサコは自分が興味がないと思うと、徹底的に排除する性格だった。

とりあえずうまくやろうというのではなく「必要ない」と切り捨てるのだ。

だからいつまでたっても儀礼を覚えないし、気の利いた会話の一つも覚えない。

公務先でのお手ふりは大好きなようで、それだけは欠かさないのだが、会話になると途端に沈黙。

宮中祭祀に関しては「あんな時代錯誤の人権侵害行為はするべきでない」とさえ思っている。

まあ、それはわからないでもないのだが。

最初は誰からもちやほやされて「皇太子妃殿下」と持ち上げられる事にすっかり気をよくし

こんなに待遇がいいのならもっと早くくればよかった」などとユミコに漏らしていたマサコだったが

ひと月もすると、堅苦しい時間に追われた生活に嫌気がさしてきたらしい。

何より女官や侍従達の目が光っていて、朝から晩まで監視されているような生活が嫌だというのだ。

二言目には「人権侵害」を口にするマサコの姿にヒサシはうんざりした。

 

今はどんな失敗をしても「愛すべき」などという形容詞をつけてくれている週刊誌もいつかバッシングに回るだろう。

夫婦が寝室を共にしない事、微妙な仲であることもばれてしまう。

何とかしなくては。

国民の目をどこかにそらさなくてはならない。

ヒサシはもう一度「あの手」を使う事にした。

外務省の機密費を使ってマスコミを買収するのだ。

 

やがて。

皇后陛下は皇室の女帝」記事が復活して出るようになった。

先帝が愛された皇居自然林が丸坊主。かくも深き皇后の恨み」

「皇后が皇太后と同居しないのは確執が深いから」

「皇后は完璧主義で女官の失敗を許さない。何から何まで事細かく指示し、それを守らない、あるいは

失敗するときつい口調で怒鳴りつける」

「今や天皇は皇后のいいなり。皇室の真の天皇は皇后だ」

全て「オオウチタダス」という宮内庁職員の内部告発という事にして。

 

ヒサシの思惑通り、この件は日本中に大きな渦を巻き起こした。

どれもが事実ではない。けれど本当に事実でないといえるか?

皇后は本当に完璧主義である。立ち居振る舞い全てが練に練られたものだ。

一分の隙も見せないその完璧な仮面こそが弱点なのだ。

皇室の中で「平民出身妃」としてプライドをズタズタにされながらも、必死に「最高の妃」になるように

生きぬいてきた皇后。

誰もが認めるその努力が何の役にも立たなかった事を思い知ればいい。

人間というのは努力だけではどうにもならない。

生まれた時から運命は定まっている。

金持ちに生まれたか貧乏に生まれたかで人生が大きく違うのだ。

よそ者が脅かす事を上の人間は嫌う。

皇后はまさに「よそ者」30年経とうが40年経とうがそうに違いないのだ。

国民を味方につけて勝ち誇ってきた皇后。でもマスコミに惑わされやすい国民は

週刊誌の記事を信じるだろう。

結果的には生まれを超えるものは金と権力のみ。

週刊誌で散々「女帝」と語られた所は皇后がもっとも触れて欲しくない部分。

一番の弱点。

それがどんな結果を出すか。

 

「皇后陛下倒れる」の一報があったのは、皇后誕生日の朝だった。

宮中は大騒ぎになった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」83(絶対フィクション)

2012-12-02 10:16:04 | 小説「天皇の母」61話ー100話

御所の庭ではセミの声が響いていた。まるで合唱のようである。

そんなセミの声を聞くと、慰められるようでもあり、または夏の様々な行事の事で追い立てられているような

気もする。

皇室にとって夏は特別なもの。

6月23日、8月6日、9日、15日と忘れてはならない4つの日があり、「慎みの日」としている。

この日は外出を控え、静かに黙とうし祈る。

それが今上の決めたおきてだった。

いまだに「戦争責任」という言葉を使う者がいる。先帝は戦犯だと堂々と言うものがいる。

そんな声が聞こえつつも、静かに祈りそして黙とうし・・・・そんな夏。

勿論、楽しい事もある。

葉山や那須で息子夫婦や娘、孫などと過ごすのは本当に楽しい。

心の慰めであり、「今まで生きていてよかった」と思える瞬間である。

思えば、その「瞬間」の為だけに子育てをしてきたようなものだと思う。

それは皇族だろうと庶民だろうと同じだろう。

子供が生まれた瞬間から、数々の心配と努力と悲しみや苦しみを乗り越えて一人前にして

ほっと一息ついたその時、「ああよかった」と思うのだ。

そういう意味では皇后は半ば夢がかなえられたといっていい。

後は皇太子夫妻に子供が生まれ、ノリノミヤが結婚すれば。

ノリノミヤは生来おっとりとした性格で自分から行動しない。

本当はたくさんの能力と才能にあふれているというのに、それを殊更表に出さず黒子に徹する。

それは体が弱い自分のせいだと皇后は思った。

体調を崩したり、落ち込んだりするとすぐに娘を頼ってしまう。

ノリノミヤは辛抱強く母を看病し、愚痴の聞き役になり。そんな生活に慣れてしまい、気が付いたらもう

嫁に行く年齢になってしまっている。

しかし、婿選びは遅々として進まない。

皇太子の結婚に時間がかかりすぎたのも原因の一で、「恋愛結婚こそよい」とされる現代では、昔のように

回りが勝手に人を選んで見合いさせるわけにもいかない。

ノリノミヤはプライベートで外出することもほとんどないし、出会いは限定されてくる。

どうしたものか・・・・本当に頭の痛い問題だ。

本人がそれほどでもないのが救いではあるが。

今はノリノミヤはマコ内親王に夢中である。

姪っこが可愛くて仕方ないらしく、しょっちゅうアキシノノミヤ家へ行っては遊び相手になっているらしい。

普通の嫁なら嫌がるものだが、キコ妃は喜んで迎え姉妹のように仲良くしているらしい。

この間、野鳥の観察に行く時にお寄りしたらお弁当を作って下さったのよ」と喜んでいたし。

でもいい年した娘が兄の家に入りびたりというのもいかがなものか。

さりげなく宮にはよい人を紹介するようにと言ってあるが・・・・

週刊誌等でもノリノミヤの結婚は関心事らしく、次から次へと婿候補の名前が挙がっている。

有力候補はボウジョウ家の長男。

いつも歌会始めで歌を詠む・・・・そういう家柄の由緒正しい貴公子。

一時期、ノリノミヤも夢中になったらしいが今はそれほどでもない。

公家の家柄に嫁ぐのはいいことではあるけれど。

複雑な心境になる母に考慮したのだろうか。気にしなくてもいいのに。

ともあれ、娘の結婚は母の仕事。何とかせねばとは思う。

思うがこのままずっと手元においておきたい気もして。

ノリノミヤはそれがわかるのだろう。

あたあさまと一緒の時が一番好きよ」という。すると陛下が

私じゃないの?」と笑っておっしゃる。宮は慌てて「おもうさまも一番ですけど。私がお嫁に行ったら悲しいでしょう?」

と逆襲すると陛下は

そうだね。慣れるように努力するよ。サーヤが幸せならいいさ」とおっしゃる。

こんな微笑ましい会話がいつまで続くのだろうか。

 

後は皇太子に一日も早く男子が生まれること。最初は女子でもいい。

マサコの年齢が年齢なのだから一日も早くと思っていたのだが。

先日、参内してきたマサコは堂々と「3年間は子供はいりません」と発言したので、今上も皇后もあっけにとられて

しばらく言葉が出なかった。

どうして」とやんわり聞いたら

すぐに子供が生まれたら楽しめないでしょう」

と言った。

楽しめないって・・・何を?

皇太子は横でにこにこ笑っている。意味がわからないので「どういう意味かしら」と聞いたら

マサコではなく皇太子が答えた。

二人きりの時間が欲しいのです。マサコはまだ皇室に慣れていませんし。もう少ししてから」

これが現代的な考え方なのだろうか。

世継ぎが大切な事は皇太子が一番知っている筈なのに、どうしてそんな発言をするのか。

皇太子ご夫妻はまだご一緒のお部屋でお休みではありません」

こっそり報告してくれた東宮女官長の言葉に皇后は色を失った。

「どうして?」

「妃殿下が」

「妃殿下がなに」

殿下と妃殿下は行動する時間帯が違うのです。朝はきちんと6時には起床される殿下。でも妃殿下は8時すぎまで

起きていらっしゃいません。当然、お休みになる時間も別々ですから・・・妃殿下は夜中までご自分の部屋に

いらっしゃって、他のものを寄せ付けません。下手に「そろそろお休みの時間で」などと申し上げようものなら

「プライバシーの侵害」とお怒りになります。そんな妃殿下に殿下は何もおっしゃいません。朝は妃殿下が起きて

いらっしゃるまで朝食を食べずにお待ちになっていらっしゃいます。これまた下手に部屋に行こうものなら

「プライバシーの侵害」と叱られてしまいますので。ご公務の時はそれなりに早くお起こししますが、せんだってなどは

岩手県でしたか、壇上で居眠りされて・・・」

最後まで聞いていられなかった。

東宮御所には60人もの職員が詰めて交代制で規則正しい生活を送っているのだ。

それなのに、なぜ夜更かしや朝寝が許されるのだろうか。

皇太子は怒ったりしないの?」

殿下は黙っていらっしゃいます。どんな時でも。ただ黙って。一言おっしゃれば3言返ってくるだけじゃすまないのです。

すぐに泣きだされたりご実家に帰りたいとおっしゃったり「こんな筈じゃなかった。約束が違う」とそれはもう・・・

そのうち、職員が何か申し上げるのもはばかられるような雰囲気になり。妃殿下がいらっしゃってわずか2か月ですが

東宮御所の雰囲気が変わってしまいました」

何と・・・・・

妃がきちんと公務を果たす事が出来るようにしつけるのが夫である皇太子の仕事だ。

それなのに何もかもやりたい放題にさせているとは。

最初の数日はそれなりにきちんとした生活を送られていたのですが。伊勢からお帰りになってからオワダ家の母君様が

よくおいでになり、それからだんだん崩れていったという印象でしょうか。オワダ家の母君様は「私が妃殿下を助ける」と

おっしゃって頻繁に東宮御所にいらっしゃり、あれやこれやと女官に指図なさいます。調度品などをよくご覧になり

「いくらくらいするの」とお尋ねになる事も。母君様がいらっしゃる時だけ妃殿下はよくお笑いになるので、殿下もダメとは

おっしゃれないのでしょう。儀式とかしきたりとか、そういった事がたいそう苦手で、強制されているとお感じになるようで。

特に祭祀は・・・屈辱的なお顔をなさるので」

わかったわ」

皇后はため息をついた。まだ慣れない事とはいえ・・・マサコの非常識さは群を抜いているような気がする。

そういえば先日も、懇意にしている作家に頼んで二人の為にウエディングケーキを焼いてもらった。

7段重ねの、それはそれは素晴らしいケーキで、これは皇族方が集まる時に出す予定だった。

その前にケーキを見せたらなんと、二人で「おやつ」代わりに食べてしまったというではないか。

呆れて言葉も出なかったが、仕方ないのでもう一度作り直して貰った。

結婚式の後の祝宴ではシャンパンを飲み干すし、立たなくていい場所で立ち上がったり、立ち位置を間違えるのも

一度や二度ではない。あまりに頻繁にやるのでわざとではないかと疑いすら持つ。

家族で食事をする時にもノリノミヤはキコは気を利かせてあれこれと動くのに皇太子妃だけはでんと座ったまま動かず。

しゃべらずもくもくと食事をする。

無頓着なのかおおらかなのか・・・・・

 

本音を聞き出すには参内させねばなるまい。

そこで皇后は「ケーキ作り」を提案した。

皇后、ノリノミヤ、アキシノノミヤ妃、そしてマサコを呼んでケーキを作ってお茶をするのだ。

そうすれば色々話の中で見えてくるかもしれない。

 

何がいいかしら・・・まだ夏だし、フルーツたっぷりのミルフィーユがいいかしらね。

皇后は一時、楽しいケーキ作りを思い浮かべて微笑んだ。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母82(フィクションさっ)

2012-11-25 17:14:40 | 小説「天皇の母」61話ー100話

人は人生の中で「自分が主役」である時が何度あるだろう。

生まれた時、結婚する時、そして死ぬ時くらいか。

マサコは人生でもっとも晴れやかな華やかな舞台に立つ喜びに得意満面になっていた。

ハーバード大の卒、外務省の才媛が仕事をけって皇太子妃に」という見出しはどこまでも

自尊心をくすぐるものだったし、マスコミの持ち上げ方もそれなりに気にいった。

誰かにあう度に「おめでとうございます」と言われるのは気分がよかった。

 

けれど。

皇居内に入った途端、そこは彼女にとって理解不能の世界である事をしった。

お洋服を全てお脱ぎ遊ばして。それから潔斎し、唐衣・裳にお着替え遊ばします」

え?服を脱げ?

わかりました。じゃあ・・・」

でも誰もそばを離れない。

あの・・・着替えますから」

はい。どうぞ。お手伝いいたしますので」

着替えは自分で出来ますが」

潔斎はおひとりではできません

「何でですか?」

思わずマサコはムキになって言い返した。

女官は有に10人は控えている。この人たちの前で裸になれというのか?

それがしきたりですので」

それって人権侵害じゃないんですか?服を置いておいてください。自分でやりますから」

着付けは一人で出来るもんやありません」

突如、ぴしゃりという声が聞こえた。入ってきたのは老女風の女官だった。

お初におめもじいたします。本日、おすべらかし、唐衣、ローブデコルテ担当になりましたもんです。

京都からまいりました。本日は女官長はんのご指導により、着付けの方は全て私が担当いたします。

ところで、本日は目出度い日にあらしゃります。姫さんが皇祖の神様の前で東宮はんのお妃になられる

大事な日や。神様の前に出るんは皇室にとってとても大事な事や。それゆえ潔斎を行います」

知ってます。習いました。でも全身をみんなに見られて入浴するなんて聞いてません

するとその女官はコロコロと笑い出した。

何を恥ずかしがる事がおありになるんやろ。神様の前ではみな裸同然や。姫さんは今、人であって人ならぬもの。

ゆえに恥ずかしさなどという感情は持ってはならんもんなんや。おわかりになりますか?それよりも大事なんは

神様の前に出るにふさわしく体を隅々まで清める事。私共はそのお手伝いにここにいるんどす。どうかおむずかり

遊ばしませんとおするするにお脱ぎ遊ばせ」

女官長はじめ、私共も同じように潔斎して今日を迎えております。どうぞご理解下さいませ」

女官たちの悲鳴のような声を聴き、マサコは仕方なくなされるがままにされるしかなかった。

しかしこれは屈辱だった。

この私が第三者の前で裸になるなんて・・・・こんな侮辱は初めてだ。二度とこんな事は嫌だ。

こんな事を強要されるなら結婚をやめたい。

「お父様に相談させて下さい」

お時間がありません」

マサコの言葉は父には届かなかった。

 

皇族方始め、式の列席者は雨の中、テントを張った賢所内の椅子に順番に座っていく。

アキシノノミヤ夫妻とノリノミヤはどこか厳しい顔つきで真一文字に唇を結んでいた。

オワダ夫妻とセツコ・レイコ達も親族席に座るために賢所の門をくぐるが、彼らは一礼しなかった。

その事を皇族方は眉をひそめて見守ったが「常識を知らないのだから」という諦めの気持ちで

何も言わなかった。

 

確かに十二単衣は一人では着付けなんかできる代物ではなかった。

というより、こんなに髪の毛を引っ張られビン付油で固められ、かつらを乗せられる事が苦しいとは

想像外だった。さらに幾重にもかさなっていく装束の重い事と言ったら。

これが地位の重み・・・と感じる筈などマサコにはなかった。

ただた合理的でもないし、華やかでもないと感じた。

「ご出発のお時間です。おするするさんと」

女官の言葉で女官長達に先導され、扇を持ち歩き出す。うまく歩けない。

まるで自分が2歳の幼児になったような気分だ。

それでも歩けないなどとはいわせたくなかった・・・・・ゆえに挑むように前かがみになって歩く。

雨がしのつく賢所。音一つない世界。その廊下を前かがみになって歩く女性の姿は

初々しさよりも「戦」に出る兵士のよう。

途中で黄色の装束を着た皇太子に会った。

彼は嬉しそうにこっちをみて笑った。でも言葉はない。彼も緊張しているらしい。

やがて外宮から内宮へ入る。

あまりにも質素で簡素で狭い部屋。

その中に装束を着て入るというのはとにかく大変で、女官たちがしきりに裾を持って歩きやすいように配慮する。

キコ妃の時は萌黄の夏装束だったが、今回は緋色の美しい装束だった。

皇太子が告文を読み酒に口をつけて終わり。

指輪交換も誓いのキスもない、何ともあっさりとした式だ。これで皇太子妃になったというのだろうか。

 

しかし、一歩外宮を出て廊下を歩くときには「オワダマサコ」ではなく「皇太子妃マサコ妃殿下」になっていた。

記念撮影をする。

綺麗ですよ」皇太子に言われて、マサコもちょっと心に余裕が出来た。

歩きにくいし、大変ですね」

そうでしょう?でも本当によくお似合いですよ」

 

「さあ、次は朝見の儀や。さっさと髪をといて」

厳しい声が飛ぶ。

あれよあれよという間におすべらかしは外され、髪はとかれ、結い上げられてティアラをかぶせられる。

重い装束の次はローブデコルテだった。

モリハナエ作のローブデコルテは、美しい地紋が入ったアイボリーシルクで出来ており、首回りに薔薇の花のような

飾りがびっしりとついていた。

実はこのデザインについてももめた。

マサコはどうしても首を出すのが嫌だったのである。

アトピーで首回りが美しくない事を知っていたからである。

でも、ローブデコルテですから肩を出さないといけませんし。首全体を覆ってしまいますとモンタントになりますし」

というデザイナーの話を一蹴し「何が何でも肩と首を隠せ」と厳命したのだ。

モリハナエ側では仕方なく、通常のデコルテの上にマフラーのように花をあしらい、袖をつけた。

まるで小さな女の子のドレスのような仕上がりで、マサコ本人は大満足したが、回りは何となく不安だった。

早くお着替えあそばせ

女官が叱り飛ばす。

申し訳ありません。今、チャックを・・・・」

どうやらマサコは少し太ったらしい。採寸の度にサイズが変わるのでデザイナーを始め、縫製係は難儀に難儀を重ねた。

コルセットをもっとしめて」

また厳しい声が飛ぶ。ギュギュっとしめつけられるコルセットにマサコは悲鳴を上げそうになった。

お許しあらしゃりませ」

とは言われても頭痛がひどくなってきたマサコはひどく不機嫌になってきた。

朝から緊張のしっぱなし・・・・・さらにこれから緊張しなければならないのだ。

朝見の儀は皇太子夫妻が両陛下の前に出て結婚の挨拶をし、固めの杯を交わす儀式である。

何歩歩いて立ち止まり、どの程度腰をかがめねばならないかなど入念にリハーサルを繰り返して

来たのだが、それでも緊張し、震えてしまう。

可愛らしいローブデコルテにティアラ、キク君から拝領の「先々帝の妃」の扇を持って鏡の前に立つと

そこにいるのは今朝までの自分ではなかった。

少なくとも回りはそう見ている筈。

けれど、朝と今と自分の何が変わったのか、マサコ自身は何一つわかっていなかった。

ただ急に回りがうやうやしく自分に接するのを見て、ちょっと嬉しくなっただけだった。

 

ぶるぶる震えるような緊張感の中で朝見の儀が終了。

ここまでは失敗はない。

それを祝福するかのように、じょじょに雨がやみ始め・・・・やがてパレードの頃には夕焼け空が広がった。

パレード・・・・皇居から東宮御所へロールスロイスのオープンカーに乗り、滑るように沿道の人々を眺めつつ

滑るさまはマサコにとって人生最高の瞬間だった。

一体、どれだけの人がいるのだろうか。まるで虫のように群がる人々がみな自分たちを見て拍手し、手を振り

笑っている。

ねえ、あれ。あれみてください。あんな所に人が」

マサコは夢中でしゃべり続けた。マサコは左側に、皇太子は右側に手を振っていたのだが、たびたび

マサコが話しかけるものだから、そのたびに皇太子はそっちに振り向いた。

すごい。あんな所にあがって落ちたら怖そう」

「みんな私の名前を呼んでる。すごい」

もう何を見ても「すごい」としか言いようがなかった。

そしてそれが「皇太子妃」というものなのだ。

始終聞こえる「マサコさまあ」という声。国旗に交じってソウカの旗も翻っていた。

自分が予想以上に興奮している事は確かだ。そして気分が高揚してくると、しらずに

しゃべり続けてしまう。

見てみて」

というたびに振り返る皇太子。早くもマサコのペースになっている。

ああ、何て素晴らしいんだろう。

朝の屈辱的な出来事は頭からさっぱり抜け落ちていた。

今のマサコはどこの国のプリンセスよりも美しく輝いている筈だ・・・と思った。

ふっと父の顔が浮かぶ。満足そうな顔。

人生で最高の日だ。かつてない程父は自分を誇りに思っているだろう。

 

やがて車は東宮御所についた。職員が迎える中、

皇太子が先に降り、次にマサコが降りた。その時、立ち位置が逆になってしまった。

この映像は未来永劫残るのだが、序列を重んじる皇室の中で妃が皇太子よりも上座に

立った瞬間だった。

そしてそれはこの先の二人の関係を象徴しているかのような姿だった。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」81(絶対にフィクション)

2012-11-20 16:19:07 | 小説「天皇の母」61話ー100話

皇室を敬うもの、貶めるもの、さまざまな思惑に彩られた朝がやってきた。

その日は朝からひどいどしゃぶりだった。

何だか不吉な」と感じたのは誰だったろう。

天皇と皇后は粛々と式の段どりに入り、ノリノミヤは無口だった。ただ、大好きな兄宮の結婚式に

雨が降った事、自分がこの結婚を少しも喜んでいない事に自己嫌悪になっていた。

アキシノノミヤ家でも粛々と準備を始めていた。

雨音が激しく、小さな内親王はしきりに窓際を見る。庭の土がドロドロになって

流れを作りやがて水がたまって池のようになっているのを、面白そうに眺めていた。

若い筆頭宮家の夫婦はあまり口をきかなかった。

天気と同じように重苦しく、そして湿った空気が流れていた。

 

東宮御所では皇太子が一世一代の晴れの日を迎え、得意満面・・・の筈だった。

6年越しの恋とか、一途な愛とか十分に持ち上げられたし、この結婚に対する自分の思いが

きちんと通じた事は一種の「勝利」だったと思う。

ふと、この結婚は「戦い」だったのだろうかと思う。

自分はオワダマサコを欲し、最初はそれが先帝や宮内庁によって阻止されかけた。

それを覆し、あくまでも彼女に拘った自分。

彼女は弟宮の妃よりも学歴があり美人で金持ちで。いわば「皇太子妃」にふさわしい女性だ。

今でも思い出す。

弟が結婚した日の朝の妙なうきうき感と家族の笑顔を。

自分よりも6歳も年下なのに、妃問題をあれこれいわれていたのは自分なのに、その合間をするっと

通り抜けてさっさと結婚を決めてしまった。

まさに遠慮も何もない行動。でもあの時は素直にめでたいと思ったし、キコ妃はとてもよくできた女性だった。

でも、内親王が生まれたあたりから考えたりする。

もし自分が結婚できず世継ぎに恵まれなかったら、弟の子供が次世代になるのだろうか」と。

生まれたのが内親王でよかった。これがもし親王だったら自分は心の動揺を隠せなかったろう。

そんな思いもあって、自分はオワダマサコを選んだのだと思う。

彼女がチッソの血筋だとか、気が強くてダメだとか、家柄が・・・とかいろいろ言われる程意地になったのは事実。

反対されればされる程、さらに意固地になった。

そして今、勝利の朝が明けたのだ。

それと同時に、皇太子の心に微妙な空気が流れる。

結婚を決めた達成感なのか、今一つ盛り上がらないのだ。

これから彼女と結婚して幸せになるというのに、その姿が想像できない。

なぜなんだろう。

殿下、そろそろ準備にかかりませんと

侍従長が呼びに来た。みな、心なしか嬉しそうな顔だ。当然だ。

自分の結婚は東宮職すべての望みだったのだから。

ゆえに、今、自分は幸せにならなければと思う。マサコと理想の「東宮家」を作っていくのだ。

 

オワダ家では朝からの雨にも関わらず、華やかな雰囲気が包んでいた。

朝の3時にたたき起こされたマサコは母の「まーちゃん、今日は晴れの日なんだからしっかりしなくちゃだめよ」

というセリフを何度も聞かされ、少々うんざりしていた。

妹達は早起きが苦ではないらしい。

自分よりも早く洗面をすませ、テーブルについている。

この日のとっておきの衣装に身を包んで化粧をする。母がつききりだった。

一つ一つの事がイベントのように華やかで面白い。まるで他人事だった。

いい?皇太子妃になるんですからね。しっかりしないとダメよ。みんなを見返してやるの」

皇太子妃よ!私は皇太子妃の母ですって。これってすごいじゃない?」

「これからは何だってできるわね。なんだって」

母のセリフは意味不明だったけれど、マサコは嬉しかった。

お姉さま、おめでとうございます。今日は頑張ってね」

レイコもセツコも笑顔が絶えないようだった。

ありがと、頑張るわ」

マサコはそう答えてテーブルについた。小さなグラスにシャンペンが注がれる。

父はおごそかに真顔で乾杯の音頭をとった。

今日の式が終われば皇太子妃殿下だ。しかし、どんな時でもオワダ家の娘であることを忘れるなよ」

そのセリフに家族はしーんとなった。

今こそオワダ家は家族として一丸となってマサコを盛り立てていかなくてはならん。ユミコもレイコもセツコも

いいな?オワダ家の栄えある皇太子妃を盛り立てる。それが我々の義務だ」

マサコは思わず涙ぐんだ。

小さい頃から父に認められる事だけを夢見て頑張ってきた。

成績優秀な子が好きな父、その期待に応える為に一生懸命に勉強をした。

父と同じ外務省に入ることも躊躇した事はない。

勉強でも仕事でも常に父が一緒にいてくれれば心の安定があったから。

皇太子妃になる事も父の希望だ。本当はあんな背が低い面白味のない男なんて

まっぴらごめんなのだが、父が結婚しろというから・・・・彼の妻になれば間違いはないと。

多分そうなんだろう。何がどう間違いはないのかよくわからないけど、とにかく父の言う事を

聞いていれば間違いはないのだ。

そう思って、ここ数か月蛆虫のように張り付いてくるマスコミにも笑顔を向けてきたし

意味があるのかないのかさっぱりわからないお妃教育も受け、しきたり等にも従って

来たのだ。

「皇太子妃になってしまえば全部こっちのものよ」

心が折れそうになるたびに母はそういって慰めてくれた。

そうか・・皇太子妃になってしまえば・・・・我慢してきたのだ。

けれど。ふと不安がよぎる。

本当にこれでいいのだろうか・・・・・・・と。

父の言うとおりに行動することが「幸せ」だと信じてきた。そしてそれは常に正しかったと思う。

父は自分を日本で最も高い家の妻にしてくれる。

皇太子妃になれば将来は皇后だ。日本でもっとも地位が高い女性になるのだ。

それがどんなに恵まれて幸せな事か、自分はまだよくわかっていないのだと思う。

なんせ実感がないし。

でもそれがきっと「幸せ」なんだと言われればそうなのだろう。

 

宮内庁差し回しの車が到着した。

大雨がふりしきる中、オワダ邸の前には大勢のマスコミが詰めかけている。

今、日本中の視線が自分に向けられているのだ。

どの局も「お祝いコメント」一色で、すでに「日本一かっこいい女性」として紹介されている。

誰がそれを想像したろうか。

留学して修士論文を出せなかった事から始まって、ハーバードでのみじめな一人ぼっちの自分や

部を立ち上げたはいいがうまくいかず逃げ出した事など・・ネガティブな思い出がよみがえる。

それらの人々に(自分をみじめにさせた人々)に対してみせつけてやりたい。

「皇太子妃」である自分の姿を。

 

両陛下のおぼしめしにより・・・・お迎えに上がりました」

宮内庁の口上が始まり、マサコは両親と共にうつむいてそれを受け、玄関先に出た。

ふりしきる雨は一段と強くなっている。

妹達はすでに雨のように涙目になっている。どうして泣くのかしら?めでたいのに。

マサコは近所の小さな子から花束を受け取った。

満面の笑みで手を振るとみな「わあ」と言った。なんて誇らしいのか。

お手ふり一つでこんなに喜ぶなんて。やぱり自分は特別な存在なのだ。

両親にあいさつし、車に乗り込む。

さあ、頑張らなくちゃ。

その時、雷が鳴った。雨はひどくふりしきり、記者たちのコメントもかき消す勢いだった。

何だか不吉な」

その場に居合わせた人々はみな一瞬そう思って、それを慌てて打ち消した。

でも多分心のそこで

自分の結婚式がこんなに土砂降りだったら嫌だな」

「こんなに日に結婚式なんて気の毒な」

思っていたに違いない。

雨でも式は賢所ですし、朝見の義は皇居ですから問題ありません」とレポーターは

カメラの前で話していた。

この時からすでに本心を隠した報道を余儀なくされている事にまだ誰も気づいていなかった。

雨の中、宮内庁の車はマサコを乗せて皇居へ向かった。

 

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