天上の虹 20巻 (講談社・里中満智子)
長い・・・・本当に長いマンガだと思います
とはいってもまだ20巻なんですね。1巻出るのに1年くらいかかってるんです。
なんと言っても作者の里中さん、文科省の仕事もお忙しい上にご病気まで
なさって・・・
今までご贔屓さんの漫画家さんが歳をとっていくなんて、あまり考えたことも
ないんだけど、こうなってくると本当に考えざるを得ないっていうか・・・
とにかく健康を維持されて、頑張って描いてくださいねーー
ところで・・・「天上の虹」というのはいわずものがなの「持統天皇物語」です。
1巻ではまだ小さな子供だった天皇も20巻では明日どうなるかわからない程
体調不良のおばあさまになってます
物語の核心も天皇から、サイドの親王・内親王の話になっているし。
今回のお話は「古事記」の編纂を仰せつかっている忍壁親王の苦悩・・
そしてその忍壁が出会った安麻呂という少年。
この少年、実は亡くなった大津皇子の息子という設定が面白いです。
自分の父親を殺した持統天皇に復讐する為に、宮廷に入り込んだんですね。
その安麻呂と大津の姉、大伯皇女とのシーンは秀逸です
そして、里中満智子さんといえばなんと言っても「男と女」のお話です。
「恋愛」について非常に理屈をつけてきっちり男女の気持ちを整理して
くれるので、恋愛をあまり知らない人でも「男ってこうなのか」
「女ってこうなのか」と納得することしかり
今回は、五百重娘(いおえのおとめ)の心理状態がすごかったです。
彼女は元天武天皇の妃だったのだけど、天皇の死後、異母兄の藤原不比等の
妻になります。
ところが不比等は橘三千代というやり手の野心家女に取られてしまったという
わけです。
それを恨みに思っている娘は息子・新田部皇子を氷高皇女(持統天皇の孫)
と結婚させる事によって自分のプライドを満足させようと「します。
とにかくこの五百重さんは毎回「悔しい」だの「許せない」だのと恨みつらみ
ばっかり言っているんですよねーー
「私も上皇様(持統天皇)も同じ天武天皇の妃なのに何でこんなに境遇が
違うの」と過去を振り返っては嘆きます。
そういう女性特有の湿っぽい感情を描くのが里中さんは本当に上手なのですが
いくら息子に
「いくら嘆いても環境は変わらない。考え方が変わればまた幸せになれる」と
諭されてもがんとして聞き入れずに泣いてばかりいるんです。
でもこの五百重娘の気持ち・・・すごくわかってしまう私って同じ穴のむじな?
どんな女性の心にも、こういう「あの人は勝ち組なのに私は負け組になったのは
一体なんでなのーーー」という感情はありますよね。
湿っぽくていい加減にせいよ・・・と思う五百重娘・・でも見捨てられないですね。
また、今回は流行の「恋の歌」として素敵な歌が出てきます。
ますらをや片恋せむと嘆けども醜のますらをなお恋にけり
(男たるもの恋などに悩むものかと思っても 私は見苦しいことに
それでもあなたに恋をしているのだ) 舎人皇子
嘆きつつますらえおのこの恋ふれこそ我が結う髪の漬ちてぬれけれ
(嘆きなげいて男であるあなたが想っていてくださるから 私の髪は
濡れてほどけてしまうのね) 舎人娘子
そこで「髪ほどけたら恋されている証だわーー」と吉備皇女がわざわざ髪を
ゆるくゆって解けるのを待つ・・可愛いシーンもあります。
これを機会に1巻から読んでみると非常に歴史の勉強になるかも。
(おかげさまでかなりお勉強になりましたーーー)