今、フランスのノーベル賞作家、アルベール・カミユの「ペスト」が大変売れている。新型コロナウルスがその背景にある。
1947年発表の70年以上前の作品だが、アルジェリアの港町で発生したぺストが平穏な市民社会を襲う。町は封鎖され逃れられない。この「不条理」に対し、いかに人間は、戦い、連帯を深めていったか、を描いている。
僕は、フランス語を勉強していて、若い頃、その一環で、カミユのL‘etrange(異邦人)を読んだ。これは、人間個人の「不条理」を描いている。
今、コロナウルスという、市民生活を襲う不条理との戦いで湧き上がるエネルギーを使い、la peste「ペスト」を読みたいと思う。この作品は、長編で、L‘etrangeの3倍以上のボリュームがあり、体力、気力、が必要だ。今、L‘etrangeを読み返し、カミユのフランス語に慣れようとしている。
ところで、2008年の、リーマンショックの時、イギリスの経済学者ケインズの「一般理論」がよく売れていた。多くの人が資本主義経済とはどういうものなのかという疑問を抱いた。僕は学生時代、経済学を勉強していたので、原書の初版、the general theory of employment, interest and money の 完全復刻版を入手し、いつか読もうと思っていた。しかし出来ずにいた。そして、リーマンショックが起きた時に、現状の「不条理」への怒りをエネルギーに変えて読むことができた。怒りというのは大きなエネルギーになるものだ、とその時思ったものだ。ただし、この書物は大変難しく、経済学者の、宇沢弘文氏の丁寧な解説書に導かれながらではあったが。何とか通読し部分的にしか理解できなかったが、いまは当時が懐かしい。
さて、事態が好転し、余裕が戻り、そして、体力、気力があるようであれば東京丸善の洋書売場に、la peste を求めに行こうか。
絵はアルベール・カミュ
2020年4月20日 岩下賢治