Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

十九歳の地図

2009-06-05 | 日本映画(さ行)
★★★★★ 1979年/日本 監督/柳町光男
「邦画好きの原点」

<story>地方から上京してきて、新聞配達をしながら予備校に通う19歳の吉岡まさる。毎日300軒以上もある配達先を回る単調な労働。集金に行けば、どこの家からも胡散臭がられ、無視される。まさるは、地図上で、配達先である各家々に×印を付けランク分けしていく。


本作は確か夜中のテレビの再放送で見たのが初見。おそらく10代だったと思います。そして、すっかり魅了されてしまったのです。この手の邦画の佇まいに。主演の本間優二がまるで自分を見るようでした。私も大学に入り立ての頃、大学に向かってずらずらと駅のホームを歩く学生たちをひとり残らずホームに突き落としたい。そんな衝動を覚えることがありました。何が原因というわけでもない、内からふつふつと沸き立つ破壊衝動。青いも青い。こっぱずかしいほどの青さです。

久しぶりに見直して、やっぱりすばらしくて感激してしまいました。この作品が突き付けてくるものが、今見ても全く色褪せていないのです。新聞配達先のムカつく住人たちに公衆電話から嫌がらせの電話をかける。そして、ノートに家族の名前を書き出し、×印を付けていく。まさるはチンケでヘタレなアホ野郎なんだけど、ノートに書かれたムカつく住人のプロフィールが詳細になればなるほど、彼が抱えるひん曲がった疎外感がどうしようもなく迫ってくるんです。「ひとりは怖いよ」ってまさるの声が聞こえる。×印のついた地図の下にはいろんな人間の喜びと憎しみと哀しみが渦巻いているというのに、そんな世界から隔絶されたちっぽけな自分。そんなまさるを本間優二は淡々と投げやりに演じている。デビュー作でつたない演技だからそう見えるんだろうけど、変に達観したり、すれたりしてなくてね。抱きしめてやりたくなる。そして、誰も真似できない存在感の沖山秀子も強烈な印象を残す。

どん底に暗い物語にフリージャズのBGMが妙に合う。そして、額に汗をして新聞配達を続けるまさおをとらえるラストシークエンスもいい。「ネット匿名嫌がらせ」、「デスノート」、「ワーキングプア」と現代社会を表すキーワードもオーバーラップしました。今、みんなに見て欲しい作品。中上健次の原作も読んでみたい。