Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

レスラー

2009-06-25 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2008年/アメリカ 監督/ダーレン・アロノフスキー
<京都シネマにて鑑賞>

「無様でもいい。けなげに一生懸命に生きてゆく」



俺の輝ける場所はここしかない、とリングに戻ってゆく男。浪花節っぽい話に見えそうですけど、全くそんなことはありません。悲しくて悲しくて。でも、やっぱり私は輝ける場所を持っていることって、すばらしいことなんじゃないかって気がして。きっとラムは自分の人生に悔いなしだろうと、拍手で送り出したい気分になりました。ラストリングの彼の姿に涙が止まりません。

本作は「試合のシーン」と「プライベートシーン」の2つに大別することができますが、この両者の描き方が秀逸。どちらもリアルさを追求していますが、試合のリアルさは体の痛みを、プライベートのリアルさは心の痛みを表現していて、合わせ鏡のようです。

一介の俳優があれだけのファイトシーンを演じることができるんだろうかってくらいの大熱演ですね。まず、あの体の作り込みが凄いですけど、彼はステロイド飲んであの体を作ったんでしょうか。まさに命懸けの撮影。そして、試合前の打ち合わせの様子をあっけらかんと映し出すのですが、このやりとりを見てレスラーたちのプロ根性に恐れ入りました。

一方、プライベートシーンは、まるでドキュメンタリー映画を見ているようです。大いびきを掻いて寝る様子、むだ毛の処理をしたり、日焼けサロンに行ったり。疲れた中年レスラーを淡々とカメラはとらえ続ける。私はこのOFFを捉えるシーンがすごく気に入りました。確かに寂しくて孤独で情けないのですが、ラムという男が愛おしくてたまりません。

ラムはいつも「けなげ」です。自分の将来や娘のためにけなげに生きようと努力します。そこにとても心を打たれました。特にスーパーの総菜売り場で黙々と仕事をこなすシーンは、あきらめ、やるせなさにまみれたラムがひたすらに生きるためにかろうじて己を立たせているのがわかります。しかも、これらのシーンをユーモアを交えて描いているので、さらに切なさが増すのです。

このラムという人物像を作り上げたのは、紛れもなくミッキー・ロークの演技。寂れた会場で昔の栄光のビデオを売りながらサインをするラムの表情。あれは、挫折を味わった人間にしか出せないものだと確信します。最優秀主演男優賞は彼の方がふさわしい。

私もかつて「ナイン・ハーフ」ですっかりミッキーの虜になった1人です。本作は彼の挫折をそのままに映し出しているようで話題にもなりましたが、それを宣伝文句として捉えることは、ミッキーを始め製作者全員にも失礼なことのような気がします。それほど、熱のこもった作品であり、その痛みを自分の目で見て感動できる作品。少々事前情報が入っていても間違いなく堪能できる。多くの人に見てもらいたいと思います。