Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ヤングハート

2009-06-23 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2007年/イギリス 監督/スティーブン・ウォーカー

「ジャンルを超えて音楽ファンに訴えかける」


<story>コールドプレイ、ソニック・ユース、ボブ・ディラン、ジェームズ・ブラウンといったロックを歌う平均年齢80歳のコーラス隊“ヤングハート”。そんな彼らが6週間後に迫った年1回のコンサートに向けて練習を重ねる日々に密着、老いや死の問題に直面しながらも歌うことに情熱を注ぎ、若い心とロックな気概を持ち続けて元気に生きる姿を映し出していく。


この作品は、老人たちからパワーをもらえるし、残り少ない人生をどう生きるかってことも考えさせられるし、その点については、他の方の感想を大いに参考にしてもらえればと思うのです。で、私が深く考えさせられたのは、音楽の可能性について。

実は当初これらの選曲についてちょっとあざといんじゃないかって感じてました。老人たちがパンクを歌う。その落差の妙を狙ってるんじゃないかって。ところが、蓋を開けてみると、メンバーたちは楽曲に対する思い入れとかなーんもないのね。最初のインタビューで日頃どんな音楽を聞きますかと質問するくだりがあって、「クラシック」とか言ってんの。合唱隊に入ったことでロックやソウルが好きになりました、なんて老人はひとりもいないわけ。そこが、凄く面白い。

彼らは、「歌うことのみ」に徹しているのね。歌詞の意味を理解しようとか、自分の感情をそこに乗せようとか、そういう情緒的なものはあんまりないのよ。ソウルは黒人がバリバリにダンスしながら歌うし、パンクなら革ジャン野郎がギターぶっつぶして歌う。そのスタイルに乗っかるからこそ、よりその楽曲らしさを楽しめるんだよね、普通は。でも彼らは、ただひたすらに歌う。与えられた歌詞を間違わないように。音程を外さないように。そこから見えてくるのは、音楽と正面から向き合おうとするピュアな姿勢だけ。

これはね、彼らが例えば老人らしく「千の風になって」みたいな曲を歌って受ける感動とは異質だと思う。人間の体をバイブレーションして、声帯から出てくる「歌声」そのもののチカラというのを私は感じました。そして、彼らはみな白いシャツをユニフォーム代わりにしているのだけど、それも彼らの音楽に対する「無」の境地をイメージしているみたいなのね。もちろん、そういう「無」の境地って、長い人生を生きてきた老人だからこそできることなんでしょう。

だからね、本作はあらゆるジャンルの音楽好きに見て欲しいと思う。人間はなぜ歌うことを始めたのか、音楽を生み出したのか。そのヒントが隠されているような気がするのです。