Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

2009-06-18 | 日本映画(さ行)
★★★★★ 2007年/日本 監督/若松孝二

「思想と暴力~私の中の区切り」

映画監督の強い意志と熱意をまともに喰らうことができるのは、映画ファンとして至高の体験ではないでしょうか。その作品の背景についてどれほど知っているかとか、監督の意図をどれほど理解できたかなんて、究極のところ関係ないと思う。それは、ゴヤがどんな時代を生きて抜いてきたなど知らなくとも、見た者が「我が子を喰らうサトゥルヌス」に圧倒的な力を感じるのと同じでね。勇気を振り絞って言わせてもらうならば、連合赤軍って何?という人にもぜひ見て欲しい。私だって、彼らのことを詳しく語る知識も力量もない。でも、このスクリーンにみなぎる若松監督の凄まじいパッションを1人でも多くの人に受け止めて欲しいと感じるのです。

加えて言うならば、連合赤軍の歴史を語りつつも、思想、信念、暴力、組織というテーマが渾然一体となって見る者を強くとらえます。例えば、ひとつの思想を貫徹するために作り上げた組織が分裂し、崩壊していく様。信念に縛られて、人が人の命をもたやすく奪ってしまう様。閉鎖した空間がやがて人を狂人たらしめてしまう様。これらは、例えば「ヒトラー最期の12日間」や「マグダレンの祈り」や「es」と言った作品にも通じるでしょう。ましてや、ここで描かれているのは、紛れもないこの日本で、たかだか40年ほど前の出来事なのです。

と、言いつつも「かろうじて世代」の私は、やはり自分自身の歴史に重ね合わせてしまいまいます。そして、本作をもって、私は一つの大きなけじめがつけられた、という感慨で一杯なのです。もちろん、これで全てがわかったと言うつもりは毛頭ありません。けじめというより区切りかも知れない。

リーダーと同じ大学だったからでしょうか、私が通う大学の正門にはヘルメットをかぶった学生が毎日立っていました。開始ベルが鳴ると教壇で演説を始め、先生と押し問答になり授業がなくなることもしょっちゅう。「今日もヘルメット君が来て授業がつぶれればいいのに」なんて、呑気なことを言っていたものです。一度学内に機動隊がやってきたこともあったかな。時は、すでに1985年。バブル経済の真っ只中。コンパだ、高額バイトだと浮かれポンチな時代の中で、自分の通う大学は何てダサイんだろうと思ってた。でも、あの狂騒の時代だからこそ、彼らが放った思想の残滓は、私の心にへばりついた。喉に刺さった魚の骨のように引っかかり続けた。

あれから、20年以上経ち、様々な書籍や映画で彼らとかろうじて接触してきたけれども、これほどインパクトの大きいものには出会えませんでした。3時間という長い尺の中で語るべき部分は山のようにあるのだけど、やはり最も印象深いのは、リンチ事件の元となる「自己批判」と「総括」。現代日本人が犯した過ちをきちんと振り返り、考察する手段を忘れてしまったのは、この経験がトラウマになっているのか。とにかく「総括」を通じて行われる無惨なリンチを若松監督は執拗に描き続ける。なぜその思想はこれほどの暴力を必要としたのか、そして、なぜあのヒステリックな状況から彼らは脱却することができなかったのか。あの死に一体何の意味があったのだろうと、今なお様々な思いにとらわれつづけています。そして、リアル世代ではなく、「かろうじて」の世代の私は、ここで感じたことを今後どう残していけばいいのかと自問自答するのです。

坂井真紀の女優魂に感服しました。壮絶な演技に心からの拍手を贈ります。そして、私財を投げ打って本作を完成させた若松孝二の監督魂。天晴れです。