Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

オーディション

2009-06-17 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 1999年/日本 監督/三池崇史
「三池流アレンジが圧巻」


<story>42歳の青山は、再婚相手を探すため「オーディション」を行う。4000人の応募者の中で青山の目をひいたのは、24歳の山崎麻美だった。不思議な魅力に惹かれる青山と、素直に心を開く麻美。青山は麻美にのめりこんでゆくが、彼女が求めたのは完璧な愛だった…


原作の意図をしっかり残した上で、監督の個性でアレンジして一級品のホラーに仕上げている。これは、龍作品の映画化ではNo.1ではないかな。(ちなみに今まで一番楽しめたのは庵野秀明監督「ラブ&ポップ」)

この小説を読んで思ったことはいろいろあるんです。まず、スペックで女を選んでると痛い目に合うよってこと。この痛い目ってのが文字通り、とてつもなく痛い目なの。そもそも妻をオーディションで選ぼうなんて魂胆がふざけてるでしょう?でも、履歴書と顔と作文で女を選んでしまう。これは○、これは×。モノじゃないんだから。肝心なのは、この青山って男には何の悪意もないってこと。「悪意がないからって許されるもんじゃないよ」。すべての龍作品の根底にはこうした痛烈な皮肉が込められている。それは政治経済物でもそう。自分の身は自分で守る。そのために、五感を鍛えておきなさいよってメッセージ。そして、都市に潜む孤独とその孤独が生み出す狂気ね。一見してしとやかで清楚な麻美。その裏の顔を一体誰が想像できるというのか。

龍作品は不穏な空気が流れている。そして、常に身構えていないとだめな緊張感。こういう空気感が映画でも見事に再現されています。麻美がうなだれて畳の上で座ってるカットとか、レストランで食事している引きのカットなど、黒沢清を思い出しました。ホラーあまり見られてないからかも知れないけど。

前半部、オーディションをするまでの男たちの会話のシーン。このあたりも無責任な感じがよく出てる。ちょっと女を小馬鹿にしたような男たちの生態ぶりね。これに対してアメリカのメディアがあそこで語られている女性像はいかがなものかってクレームを入れたらしいけど、まさにそれが狙いなんだもんね。

麻美には幼少期にひどい過去があって、青山に出会う前にも恐ろしい殺人を重ねていた。この真実が明らかになっていく様を三池監督は青山が見る悪夢によって表現しています。この料理法が実に巧いなあと感心しました。事実として示すよりも、青山が見た悪夢として見せた方がよりおどろおどろしい感じが出るの。それに観客もこれが夢か現実なのか、心が揺れて不安になるのね。

麻美を演じているのは椎名英姫。モデルとして知っていたのだけど、「東京残酷警察」にも出ているのね。この人はホラー女優としてブレイクしちゃったんだろうか?石橋凌のラスト30分、拷問に合うシーンの演技も圧巻。痛そうで痛そうで、指の間からしか見ることができませんでした。

この作品「タイム誌」が選ぶホラーベスト25に選ばれている。脚本に天願大介も参加。脇役の國村隼や石橋蓮司もいい感じ、となかなかスタッフも充実した作品です。で、エンドロールを見ていて、大杉漣の名前を発見。ええ~どこに出てたの?と思って巻き戻し。そしたら、ズタ袋の中から出てくるゾンビみたいなのがそうでした。あんなの大杉漣でなくてもいいじゃん!びっくりしましたよ。

さて、龍さんは同じ時期に猟奇殺人を扱った「イン・ザ・ミソスープ」というこれまたエグい小説を書いているんですけど、なんとヴェンダースが映画化することが決まっているらしい。犯人役はウィリアム・デフォーだって。風俗斡旋業の若い日本人が主人公だけど、この役を誰がやるのか。これは興味津々です。