落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

懐しい土地の思い出(チャイコフスキー)

2007年02月01日 | book
『やさしい訴え』 小川洋子著
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『やさしい訴え』ってどうも小説のタイトルにしては説明っぽいなと思ってたけど、作中に登場する曲のタイトルだった。作曲者はジャン・フィリップ・ラモー。
主人公・瑠璃子はフリーランスでカリグラフィーの仕事をしている主婦。眼科医の夫には愛人がいて、留守がちの生活が続いている。ある日彼女は思いついて実家の別荘に家出をする。人里離れた山の中の別荘の近所にはチェンバロ職人の男と弟子の若い女性が住んでいて、3人はほどなく親しくなるのだが・・・。

3人にはそれぞれ心の傷がある。瑠璃子には結婚生活の失敗、チェンバロ職人には音楽家としての挫折、弟子には恋人を亡くした悲しみ。傷はそれぞれに深く彼らを蝕み、苦しめているが、その傷の存在が彼ら3人を引き寄せ、結びつけ、赦しあう。
肉体の痛みと違って、心の痛みは人と分けあうことができる。バロック楽器と中世写本技術、朽ちかけた別荘という古い文化の遺物の世界で、彼ら3人が互いにゆっくりと癒されていく過程を描いた物語。

別荘地の美しい自然、穏やかな時間の流れ、その中で苦悩する3人の男女の葛藤が非常に綺麗に描写されていて、読んでいてとても心地の良い小説ではある。
しかしいささか心地良すぎるきらいもある。読み終わってページを閉じた瞬間に、はらはらと頭の中から吹き飛ばされてしまいそうなくらい、淡くはかない物語。
これはこれで悪くないし、決して共感できないとかおもしろくないとかいう明らかな欠点はないけど、やや物足りなくはありました。
『ミーナの行進』が気に入ったから旧作もと思って手にとってみたけど、10年前の作品はやはりいまひとつ。これからもう少しあとの作品も読んでみようと思います。