落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

今日のテーマは人身売買

2007年02月24日 | movie
『赤線地帯』
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売春防止法成立直前の浅草・吉原を舞台にした女性群像劇。
娼館「夢の里」にはそれぞれに事情を抱えた5人の娼婦が暮している。満州からの引揚者で未亡人のゆめ子(三益愛子)は田舎に預けた息子(入江洋吉)といっしょに住める日を夢みている。通いのハナエ(木暮実千代)は結核で失業中の夫(丸山修)と赤ん坊のために、より江(町田博子)はふつうの結婚に憧れながら売春をしている。ミッキー(京マチ子)は放蕩の挙げ句に家族を不幸にした父(小川虎之助)への当てつけに身体を売り、店でいちばん人気のやすみ(若尾文子)はひたすらあこぎに金を貯めまくる。
売春=下賤の商売という大方の単純な価値観を丹念に解きほぐすように、物語は5人の生活背景を丁寧に描いていく。彼女たちはしたくて売春をしているわけではないが、売春をやめてどうするというあてもない。戦前と違いやめたければいつでも合法的に売春を辞められる環境になってもやめる決断のつかない理由はいくらもある。娼婦という身分が世の中からどうみられているか、吉原の外の世界がどんなものか、彼女たちは彼女たちなりに知っているのだ。知的ではないし愚かな部分もあるが、そういう意味では彼女たちは聡明である。

しかし売春がイヤならどうするべきか、というビジョンのリアリティという点で5人には差が出てくる。結果的には夫も結婚もあてにはせず、自分ひとりで自立することだけを考えていたやすみが勝者となるのである。彼女は5人のうちでは最も娼婦らしく男を騙しまくり、商売仲間にさえいっさいの同情心もみせない冷たい女だが、彼女にとっては売春宿での自分のキャラなんかどうだってよかったのだ。一刻も早く自力でそこから出ていくことだけが大切だったのだから。それはそれで効率的な生き方かもしれないが、恋もせず愛を信じず、誰も頼らずにひとりで生きることを選ぶしたたかな女性を成功させた溝口の女性観もなかなかシビアである。
「夢の里」の主人(進藤英太郎)は売春防止法の報道に対して「我々は政治の手の届かないところを世話しているのだ、我々の商売は社会奉仕活動だ」というのだが、この演説が映画の前半と後半に2度繰り返される。それを聞いている娼婦たちの表情の変化がおもしろい。
確かに売春は有史以来人類最古のサービス業ともいわれる歴史ある職業でもあるし、おそらく人間社会に必要不可欠な商売ではある。だが女の身体を借金の担保にし、必要経費がすべて娼婦の借金に加算されていく当時の売春システムが、カンペキに人権を無視した残酷な人身売買だったことに間違いはないわけで、その現実を語る前と後では同じ台詞でも聞こえ方がまったく違ってくる。

すっごくおもしろかったです。ぐりはこの映画好きですね。若尾文子はめちゃめちゃケバいメイクしてたけど、それでも愛らしかったです。京マチ子はまたキョーレツ(笑)。独特の美術や衣装もよかった。
この映画、登場人物が多いわりに尺が短いのだが(86分)短さを感じさせず、セリフでの状況説明が多いのに概念的にもなっていない。女優たちの迫真の演技と巧みな演出力の賜物だろう。
娼館の話なのにまるでエロティシズムとは関係のない側面だけで物語が進行するという構成も割りきれてていい。こういうの今の日本映画じゃ絶対ムリだよなあ。

今日のテーマは人身売買

2007年02月24日 | movie
『山椒大夫』
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森鷗外原作の同名小説の映画化。
小学校低学年のころ、TVでこの映画を観た妹が、田中絹代の台詞がいたく気に入ってなにかというと「あんじゅ〜、ずしお〜」と意味もなく真似ていたので、ぐりのうちでは「安寿と厨子王」は一種のギャグになってしまっていた。絵本もあってマジメな内容の物語だということは知ってたはずなのに、まだ小さかったぐりや妹には人身売買の恐ろしさがまったくわかっていなかったのだ。
でもあの「あんじゅ〜、ずしお〜」は真似したくなるよなあ(爆)。

閑話休題。
これは生別れになった親子の再会がモチーフになっているので一見家族の物語のようにみえるんだけど、実際には痛烈な社会批判のドラマなんだよね。とくに印象的なのは山椒大夫(進藤英太郎)の息子・太郎(河野秋武)の「世間の人間は、自分の身過ぎ世過ぎに関わりさえなければ、他人の幸せ不幸せにはひとかけらの同情心ももたないものだ」という台詞。このひとことに溝口の社会に対する視線の厳しさがよく表われているように感じた。
情景描写やストーリー構成はやはり見事だし2時間余りという長さとヴェネチア国際映画祭銀獅子賞という栄誉に値する濃さはあるのだが、どうも要素が多過ぎて散漫になっているというか、どのエピソードも尻切れトンボのようにも思える。貧しい農民のために尽くしたせいで左遷された厨子王たちの父の運命は儚過ぎたし、太郎が仏門に入るのもなんだか安直、山椒大夫のその後も描かれないし、厨子王が官職を棄てるのも安易なら、もっともわかりにくいのは安寿の入水である。なんで彼女があそこで自殺せにゃいかんのかがわからんということはないけど、なんとなくご都合主義的な気もする。
いいたいことはすごくわかるんだけど、観終わってよく考えてみるとどうも腑に落ちないところがちょこちょこある映画でした。大作映画だし製作者の力の入り方はひしひしと伝わってはくるのだが。
けど14歳の津川雅彦はカワイかったです(爆)。