落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ニューメキシコにて

2007年02月06日 | play
『フールフォアラブ』

サム・シェパード原作・主演による映画化作品でも知られる舞台。昨日はプレビュー公演、今日から本公演です。
砂漠の中の小さなモーテルに住むメイ(寺島しのぶ)のもとを、かつての恋人エディ(香川照之)が訪ねてくる。エディはやりなおそうとメイに懇願するが彼女は頑として聞き入れない。ところが業を煮やしたエディが立ち去ろうとするとすがりついて引き止める。激しく憎しみあいながら猛烈に求めあわずにはいられない、宿命の男女の会話劇。

すんげえおもろかったっす。
この芝居、場面転換が一度もない。ずーっとモーテルの部屋の中で、登場人物4人の会話だけで物語が進行する。男女はただただストレートに感情をぶつけあい、怒鳴り、つかみあいのケンカをし、呪われた過去を暴きだす。
メチャメチャ緊迫してます。
そこに、現実にはその場にいない筈の人物の不思議な独白がときおり挿入される。初めはただのクッションみたいなものか?と思っていたその人物、ラストシーンで諸悪の根源であることが暴露される。彼のしたことは周囲の人々にとって不幸の始まりでしかなかったけど、お芝居としてみればこの構成はものすごく痛快でした。

メイとエディは一目会った瞬間に恋に堕ち、そして不幸な運命に飲み込まれていった。
自分で自分をどうしようもなくなるほど熱い恋は、他人事としてみれば美しいものかもしれないけど、このふたりにとっては苦しいばかりの恋だった。でも、現実の恋だってそうそう平和なばかりじゃない。恋するふたりはいっしょにいられさえすればそれでいい、しかし現実にはそうとばかりもいっていられない問題はたくさんある。どれだけ愛しあっていても人間同士にはわかりあえないこと、わかちあえないものは限りなくある。そうしたものの積み重ねが人生だ。夢が違う、理想が違う、価値観が違う、ふたり人間がいれば違うところがあって当り前。違うところばかり重要視するといっしょにいるのがつらくなる。それでも離れられないから恋は苦しい。苦しいのに諦めきれないから、恋は美しい。

この舞台には、そういう恋愛のつらい部分、苦しい部分、男の身勝手さと愚かさ、女のしたたかさと情念の深さが見事に描き上げられている。まさに大人の恋愛ドラマ。
キャストがまためちゃめちゃハマってます。寺島しのぶと香川照之は芝居の質というか、役者のタイプに近いものがあってある意味「似たものカップル」な今回の役にもあってるなと思ったけど、考えてみればふたりとも梨園の二世俳優なんだよね。メイとエディはこのふたりの従来のイメージにおそろしーほどぴったりしてて、半ば芝居にはみえないくらいの迫力がありました。迫力ありすぎて共演の甲本雅裕と大谷亮介の影が薄いのが却ってかわいそうなくらい。そのくらいの大熱演。
熱演のあまり椅子は壊れるし香川氏は手にテーピング巻いてるし(笑)。

まあでも観てホントによかった。無理矢理時間ひねり出して観に行ったけど、行って正解でしたです。
実は知りあいが演出するってんで観に行ったんだけど、そんなん関係なく感動できました。今年最初に観た演劇としては大当たりでした。