落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

へんなおじさん

2008年03月08日 | movie
『どこに行くの?』
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小さな町工場で働くアキラ(柏原収史)はある日バイクの事故がきっかけで香里(あんず)という女性と恋に堕ちるが、その矢先に偶然社長(朱源実)を殺害してしまい・・・とゆー、カルト映画『追悼のざわめき』の松井良彦監督にしてはえらくカワイらしい青春ラブストーリー。
とはいえやっぱ松井監督なので、アキラが社長にセクハラされてたり刑事(佐野和宏)相手に売春してたり香里がトランスセクシュアルだったり、「・・・」な設定はゴチャゴチャある。けどハッキリいえばそういう設定は物語とは直接は関係ない。物語だけをみれば、こういう設定はむしろなくてもいいくらいだ。
ところが映画全体をみれば、これらの設定こそが作品の主軸・主体になっているからおもしろい。社長のキモさや刑事のいかがわしさはみるだに不愉快きわまりなくて、リアルさのあまり画面から目を背けて走って逃げたくなるくらいだったりもするんだけど、そういう「ふつうじゃない」愛もまた愛であることに変わりはない。こんなことがちゃんと映画として表現できるってとこがさすが個性派でございます。だてに22年も沈黙してたワケじゃーないのねー。
けど22年の沈黙は多少のほころびにもなっていて、台詞の半分くらいは削った方がよかったんでは〜?な蛇足口だし、ストーリー展開や編集にも何ヶ所かツッコミどころはありました。すごく気になるってほどではなかったけど、あれくらいならもうちょっと追いこんでもよかったんじゃないかなと。
よかったのはあんずがメチャクチャふつうの女の子だったところ。こういう映像作品に出てくるトランスの人ってやたらめったらがっつりと女性性を強調した、モデル系とかコギャル系な子が多い気がするんだけど、あんずは良くも悪くもまったくごくごく当り前のなんてことない子だったのがリアルでした。
あとは。やっぱ柏原収史は顔がエロい(爆)。兄の崇の方もそーだけど、この兄弟って顔エロいよねえ?すごく?目つきがとろーんとしてて唇がぷりんとしてて、肌も白くてしっとりモチっぽくって中性的とゆーか。ぐりは毎度彼らが画面にうつるだけで軽くモンゼツしてしまうのですが。アタシが変態?そーですか・・・。しかしそのエロ顔な柏原弟に刑事のアレをアレする芝居を意味もなく延々させたり、監督もヨコシマな観客のツボはなかなかしっかり把握しておられますね(笑)。

ちなみにぐりは『追悼のざわめき』は観たことありません(爆)。今はソフト化もされてるし観ようと思えば観れるんだけど、どーもねー。個人的には映画は芸術的とか先鋭的であることよりも娯楽的であることの方がプライオリティが高いのでーなんてのは言い訳ですね。単にビビりなだけっす。
大昔、友だちが松井監督と個人的な知りあいでわざわざ席を設けて紹介してくれたことがあったんだけど、その時すら面と向かって「観たことないです」なんて堂々と言い放ってたな(爆)。若いってこえーな。


KISS OF THE SPIDER WOMAN

2008年03月08日 | movie
『接吻』

無差別殺人の凶悪犯・坂口(豊川悦司)にひと目惚れした孤独なOL・京子(小池栄子)と、坂口の弁護人・長谷川(仲村トオル)の3人の奇妙な恋愛劇。
てゆーとモロ『ブレス』でんがな。そのままです。ストーリーもそっくり。なんでまたここまで似ちゃったのかねー。
ただゲージュツ映画だった『ブレス』と違うのは『接吻』はあくまで商業映画、ふつうの娯楽映画としてつくられてるってとこでしょーか。ものすごーく当り前な映画です。物語も表現方法もヒジョーにストレート。ヒネリもなければ意外性もない。でもそのぶんメッセージはかなりわかりやすい。えーと、ぶっちゃけ、ぐり泣いちゃいました。しかも何度も。しょーじきな話、『ブレス』よりこっちのが好きです。
坂口は見ず知らずの他人を一家まとめて惨殺した凶悪犯だけど、彼や京子がそれまでの一生で味わって来た屈辱には殺人以上の暴力性があった。彼らにはそれを拒否する手段がなかった。坂口や京子だけでなくおそらく現実に多くの人間が感じているであろうこの無力感を、つくり手は形にして大声で叫んでみたかったかったのだろう。無視しないでほしい、無関心は暴力なのだ、敵意なのだと。それはすごくわかるし、映画としても新鮮なテーマだと思う。
全体としてはとってもいい映画だしぐりは好きだけど、せっかくならもっと完成度のある映像にしてほしかった。これは最近の日本映画全体にいえることだけど、物語やテーマや演技がよくても、スタッフにやる気がないのが画面でモロバレしてるのはダメだと思うよ。プロの仕事として。この作品に関していえば、カメラワークとか衣装とか美術とか音響設計が全然ダメ。ありえん。台本も演出も完全に戯曲調なんだから、見た目も思いきって舞台風にしちゃえばよかったのに、どーみても「この映画をこうみせたい」とゆー思想がカケラも見受けられないのがもったいなすぎ。
予算がどーとかゆー問題じゃないのよ。予算なんか『4ヶ月〜』の方がもっとないよ。でも『4ヶ月〜』のカメラワークとか音響設計はカンペキだもん。カットチェンジのたんびに脱帽して土下座したくなるくらいスゴイんだもん。
坂口役がトヨエツってのもミスキャストだったかも。この役はこんな堂々としたイケメンなんかじゃなくて、香川照之とか佐野史郎とか田口トモロヲとか、もーちょっとクセのある性格俳優の方がしっくりハマったんではないかと思うのですが。どーでしょーか。小池栄子と仲村トオルは非常によかったです。ハイ。

ふたりは友だち

2008年03月08日 | movie
『4ヶ月、3週と2日』

2007年カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したルーマニア映画。
舞台はチャウシェスク政権下の1987年。望まない子どもを身籠ったルームメイト・ガビツァ(ローラ・ヴァシリウ)に違法な堕胎手術を受けさせるべく奔走する女子大生オティリア(アナマリア・マリンカ)の長い一日をドキュメンタリータッチで描く。
登場人物はふたりの若い女性と医師とオティリアのボーイフレンド一家、あとはその他大勢のホテルの人々のみ。場面もふたりが暮す寮とホテルと彼氏の家くらいだし、台詞も非常に少ない。ストーリーらしきものもほとんどなく、非常にストイックでミニマルな映画である。
しかし。スゴイです。素晴しいです。カンペキ。
たったこれだけの要素しかないのに、いいたいことがものすごくヴィヴィッドにエモーショナルにガンガンと伝わってくるのだ。若いけれど平凡な女の子ふたりの、迷走と困惑と焦燥と屈辱。女が女であることの業と弱さと愚かさとそして強さ。
大人の女性なら誰でも、彼女たちと似たような経験をしたり見聞きした覚えはあるだろう。よしんば現実に起こらなかったとしても、それを我がこととして想像したことくらいは一度はあるはずだ。そしてそのときに感じる感覚のえもいわれぬ姿かたちに、我ながら恐怖感を抱く人もいるだろう。この気持ちはおそらく男性には決して一生理解できない、男と女を隔てる巨大な溝のひとつといえるかもしれない。
だからぐりはこの映画を、是非とも男性に観てほしい。とくに彼女がいる若い男性に観てほしい。
女が女であるというだけで背負っている重荷、リスク、孤独、悲哀、男性がどうあがいても絶対に肩代わりすることのできない女の宿命を、これほどまでにストレートに表現した物語はこれまでなかったんではないだろうか。
自由がどうとか社会制度がどうとかいう理屈はまったく関係ない。それはこの映画を商業映画として売るための単なるロジックの問題でしかない。
音楽もないしスターも出てないしみるからに超低予算の地味な映画だ。でもこれは見逃してはいけない映画だと思う。必見。