落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ホテル南京

2008年03月23日 | book
『南京の真実』 ジョン・ラーベ著 エルヴィン・ヴィッケルト編 平野卿子訳
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『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者アイリス・チャン氏が取材中に発掘した、在中ドイツ人の1937〜38年当時の日記。
著者ラーベはドイツを代表する総合電機メーカー・ジーメンスの南京支社長だった人物で、南京陥落後に市内にいた欧米人と協力して中国人民間人を保護するために南京安全区国際委員会を組織し、その代表を務めた。
長く日記が公開されなかったのは、彼のドイツ帰国後から第二次世界大戦の終結までの時代、この大惨事の公表が日独関係に悪影響を及ぼす危険性があったためと、戦後にはラーべがナチ党員だったせいで家族に危害が加わることを怖れたためである。

この日記の存在が明らかになったとき、アメリカのメディアは1994年の映画『シンドラーのリスト』になぞらえて彼を「南京のシンドラー」と評したという。
でもこの日記を実際に読んでみると、むしろ2004年の映画『ホテル・ルワンダ』の方を連想する。
ラーベは南京に日本軍が迫り会社から避難を勧められたとき、後に残される使用人や現地従業員やその家族をどうしても見捨てておけず、彼らを自宅内に泊めて自らも留まりつづけることを決意する。『〜ルワンダ』のルセサバギナ(ドン・チードル)も、当初自身の妻の親族や隣人をホテルに収容したのがその後の人道活動のきっかけである。
ラーべは自分が委員会の代表に選ばれたことを「ドイツ人で日本軍との交渉に有利だから」と考えていたし、たった3.8平方キロ(面積でいえば甲子園球場と同じくらい)程度の地域に最大で25万人もの難民を収容したことで、彼自身なんの利益も得ることなど考えてもいなかった。30年もの歳月を暮した第二の故郷でもある中国の人々を、ラーべは人種や国籍や言語を超えて隣人として友人として愛した。愛する人々の窮乏に差し伸べる手があるなら伸ばし続けたい、単純に彼はそう思っただけなのだろう。
文面を読んでいても、自ら労働者と称するようにごく素朴で愚直な人柄がしのばれる。ある意味では不器用な人でもあったのだろう。ドイツ帰国後の不遇を思うと、むしろ不器用であったからこそ、あの南京での彼の誠実さが多くの人に信頼されたのも頷ける。

この日本語版日記にも『ザ・レイプ・オブ・南京』同様、各方面から批難が浴びせられている。
編者のヴィッケルト氏は日本と中国に滞在した経験があり両国の事情に詳しく、かつラーべ本人とも面識があるというこれ以上ないくらいの適任者ではあるが、彼のテキストには故人や遺族への配慮が必要以上に強く感じられるし、翻訳作業になんらかの手ごころが加わっている可能性は否定できないだろうとは思う。
でも、ぐりが読んだ限りではこの本そのものは誰が読んでも─読者がたとえ“事件”否定派でも─それなりに受け入れやすい、読みやすくわかりやすい日記だと思った。意外に残酷な描写は少ないし(ラーべ本人が直接目撃しなかったせいだろう)、彼の仕事の多くは安全区の設置・運営、難民の食糧・燃料の調達、治安維持、日中独の政府・軍部との交渉など実務的なことばかりで、強姦や略奪を防ぐ・止めるといったヒロイックな活動はそう強調されてはいない。
読んでいてもっとも印象的に感じたのは、彼個人の活躍ぶりよりも当時の南京市内の混乱ぶりが非常にリアルに記録されている点。日記は1937年9月中旬以降のぶんからが収録されているのだが、どんな段階を経て南京から中国軍が撤退し日本軍の侵攻が始まり、占領状態がどのように変化していったのかが、実に生々しく表現されている。なにしろラーべは中国軍の側でもなければ日本軍側でもない。どちらに対してもシビアな目で客観的意見を述べている。
しかしこの人の精神力・体力はハンパないっす。強いです。スゴイです。エライかどーかはさておいて、強いことだけは間違いない。

現地ではあれほどヒーロー視されていながら帰国後はなんだかんだと踏んだり蹴ったりな晩年を過ごした気の毒なラーべ氏だが、現在は中独合作で『ジョン・ラーベ』という映画が製作中なのだそうだ。ラーベ役はウルリッヒ・トゥクール(『善き人のためのソナタ』『ソラリス』)、共演はダニエル・ブリュール、スティーヴ・ブシェミ、張静初(チャン・ジンチュー)、香川照之、柄本明、井川東吾、ARATA、杉本哲太など。
どんな映画になるのかは知らないけど(爆)、完成の暁には是非とも日本でも観られることをせつに期待してます。できることなら、『シンドラーのリスト』ではなく『ホテル・ルワンダ』のように、「誰もが人間としてやるべきことをすれば平和は守れるはず」という普遍的な物語になっててほしいなと、勝手に思ってます。あと、ラーべが2月に南京を去った後に“ジーメンス・キャンプ”の人たちがどうなったのかもすごく気になる。
しかしこの『南京の真実』っちゅータイトルはちょっとアレだよねえ・・・あんまり内容に即してるとは思えないし、本のタイトルとしてもイマイチ陳腐な気がしてしょうがない。もっとマシなタイトルはなかったんかなー?