落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

明るいほうへ

2008年05月20日 | book
『そんなはずない』 朝倉かすみ著
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こないだ読んだ短編集『肝、焼ける』の朝倉かすみの長篇小説。
松村鳩子は30歳の信金職員。両親に引きあわせる当日に婚約者に逃げられ、その矢先に勤務先の信金が破綻する。やがて彼女は妹・塔子を通じて5歳年下の午来新太郎と知りあうのだが、彼はそれまで鳩子が交際して来たどの男とも違っていた。
『肝〜』と同じく、北海道を舞台にしたブラックラブコメディかな?これは。微妙にサスペンスタッチでもあり、たいへんおもしろかったです。

25歳で結婚、ふたり子どもを産んで社会復帰して、夫が定年したら海外に移住して100歳まで平和に暮す、というのが主人公15歳のときの人生設計だった。
中学生の処女の考えることだからたわいもない夢でしかないけど、30歳になっても鳩子は何やら形式ばった「設計」にこだわっている。結婚願望はあってもそれは自分が結婚することが大切なのであって、相手がどうとかお互いの気持ちがどうとかいう、本心本音の部分はあまり重要視していない。
これってありがちなことなのかしらん?ぐりにはイマイチぴんとこないんだけど。結婚願望もほとんどまともにもったことないし、周りにもそういう女友だちはいなかったし。
だが鳩子は午来新太郎にめぐりあって少しずつ変わっていく。午来くん自身は小説の中には何度も出てこない。本人が直接的に鳩子に働きかけるということはあまりないのだが、彼との些細なやりとりが鳩子の中で化学変化を起こし、彼女自身気づかないうちに、本物の恋心を燃え上がらせていく。
そういう女心の成長が、リアルに生々しく、それでいてぴりりとクールに描かれている。これはおもしろいですよ。今までこんな小説ちょっと読んだことなかったかも。

『肝〜』もそうだったけど、この小説にも官能的な描写がじつにうまく利いている。露骨なようで露骨過ぎず、それでいってしっかりとエロいんである。ほんの数語で女の肉欲を実にあざやかにかつドライに表現していて、読んでいて何度も参ったなと思った。上手い。上手すぎる。
もっと参ったなと思ったのは主人公と家族との関係である。鳩子と塔子はみっつ違いのふたり姉妹なのだがまったくキャラが違っていて、ひとつ屋根の下に親といっしょに同居していてもさほど仲のよい間柄ではない。といって仲が悪いわけでもない。鳩子の方はいつも気ままに自分の好き勝手している妹をどこかで羨みつつ、つかみどころのない娘だと思っている。要するに人間として家族として信用していない。だから肝心の塔子の方で姉をどう思っているかなど考えも及ばない。というか妹の気持ちになど興味がないのだ。それと同じように、両親の思いにも彼女は興味がない。つまり傲慢なわけである。
ここのところは読んでてけっこうイタかった。ぐりも長女で妹がいて、鳩子と同じように、彼女たち(うちの場合は2名)の気持ちなんかまったく理解不能な関係だからだ。ぐり自身にも鳩子のように傲岸不遜なところがあるのは否定しようがない。うぬ。
妙な話だけど、もっと妹と仲良くした方がいいかもなんて思ってみたりもしましたです。

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