落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

トーキョーのアナタハン

2009年05月10日 | book
『東京島』 桐野夏生著
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夫と世界一周クルーズに出かけて遭難し、無人島に漂着した清子。ほどなくして与那国島でのアルバイトから逃亡しようとしてやはり遭難した23人の若者も加わり、共同でのサバイバル生活が始まる。
太平洋戦争中の1944年に起きたアナタハン島事件にヒントを得た、無人島という社会的・文化的に閉鎖された舞台で繰り広げられる「ひとりの女とそれを奪いあう男」の物語。

うーん。エグい。エグいよー。
ぐりは桐野夏生作品は『水の眠り 灰の夢』『グロテスク』しか読んでないんですが。エグさでは『グロテスク』と近いですね。エグさの質も。なんちゅーか“女の性”のナマナマしい再現性とか。
アナタハン島事件で唯一の女性遭難者だった比嘉和子は20代の若妻だったけど、とくに容色が優れているとゆーわけでもなく、ごくふつうの、まあぶっちゃけていえば十人並みの女だった。ところが清子は46歳。年増とゆーか、23人の若者からみれば、相対的にいって間違いなく“オバさん”である。
その彼女を夫も含めて24人の男が、そして後には11人の中国人遭難者も加えて30人以上の男が奪いあい、共有するようになるんだから、そりゃアタマの具合もズレてくるのが当り前である。
こわいよう。

ただ、実際の事件が無惨な殺戮劇に発展していくのに対して、トウキョウ島の男たちの暴力性はそれほどまでの顕在化には至らない。事件は戦時中だったけど、小説の舞台はあくまで現代。現実の、ほんとうの暴力をしらない男は、自分の中の暴力を顕在化させる能力もないということなのだろうか?
だが彼らの異常性は暴力とはべつに、それぞれの抱えたストレスやトラウマの延長という形で現れてくる。これもこわい。人間は社会性動物だから、社会から隔絶されちゃうとやっぱし精神的な均衡を保ちにくくなるのかなー?だから他者を直接的に攻撃するんじゃなくて、自分自身を変えて孤立化したり、カルト化したりするのかな?
それはそれでこわいです。人間なんてひと皮剥けばみんな狂人ってことなのー?

読んでてちょっと物足りないなーと思ったのは、登場人物が遭難に至るまでの過程がほとんど描かれないこと。
それぞれ個人の生活背景はちょこっちょこっと出てくるんだけど、ふつうに考えたら、こういう場合、遭難そのものの直接原因って結構重要なファクターじゃない?それが全然具体的じゃないんだよね。清子夫妻はクルーズしてて遭難したってことと、若者グループは与那国島でのアルバイトがあまりにつらくて逃げ出そうとして失敗したこと、中国人たちは密航中に船から捨てられたってことしか書かれてない。
読んでたらそのうち出てくんのかな?と思ったら出てこなくて、なんかもひとつリアリティが得られないまま終わっちゃいましたん。

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