落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

Would that it were so simple.

2016年05月14日 | movie
『へイル、シーザー!』

1950年代のハリウッド。大手映画スタジオ「キャピタルピクチャーズ」のプロデューサー・マニックス(ジョシュ・ブローリン)の仕事は、酔っぱらった若手アイドルの不始末の尻拭いから、妊娠したお色気女優(スカーレット・ヨハンソン)の子どもの養子縁組の手配、ゴシップ記者(ティルダ・スウィントン)の相手などスタジオ内外で起こるあらゆるトラブル解決。
ある日、社運をかけて撮影にとりかかった歴史超大作「へイル、シーザー!」の主演俳優ベアード・ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が誘拐され、身代金まで要求されてしまうのだが・・・。

実をいうとこの時代のハリウッドにあまり詳しくなくて。
もともとクラシック映画をさほど真面目に観るほうではないしハリウッド映画も大して好きではないので、正直なところこの映画に出てくるパロディの半分も理解できてないんだけど。でもじゅうぶん楽しめました。そういう人間でもなんとなく、「ああ、アレのことだな」と思いあたるような、「どっかで聞いたな」みたいなネタが満載です。
ベースは汚れ仕事専門のマニックスの分刻みの働きぶりを通して描くハリウッドの内幕物語で、そこに当時はやってたシリーズものの娯楽映画のあれこれ—ミュージカル、西部劇、恋愛ミステリー、水上スペクタクル、etc.—の撮影風景が挟み込まれる。劇中では撮影風景として表現されてるけど、実際には映画のワンシーンがそのまま登場する感じで、リアルな撮影風景ではない。懐かしいね、映画って昔こんな感じだったよね、舞台裏はこんな感じだったね、というノスタルジーを喚起するような構成になっている。
だから映像として単純に楽しい。てんこもりです。飽きない。

ハリウッドの虚構がいかにカラッポかというバカバカしさをどこまでも徹底的にシニカルに描いているのが途中まで意図が読みにくい気がしてたんだけど、最後の最後、マニックスがウィットロックに怒鳴るシーンで全部スッキリ読み解けるのがものすごく気持ちよかったです。
自分自身、長い間、映像をつくる仕事をしていて、何本かは映画制作にも関わった経験がある。映画を含めて映像の仕事は楽しいけど、99%まではつらいこと、くるしいことの連続である。嘘で塗り固められた虚構の世界に己の命と人生のすべてをかけてとりくんでいても、生まれる作品は端から世間に消費されていってしまう。それでも映像をつくる、人を楽しませる仕事というのはほんとうに特別で、ほんの一瞬、たとえばクルーの気持ちがひとつになったとき、思いもかけないような名シーンが生まれたとき、観客の大喝采を浴びたとき、自分がこの世に生まれてくるよりもずっと前から捜し求めて来たものはこれだったんだと確信できたような、そんなマジカルな幸福感を味わえる。
そういうほんとうの幸福は目の前の仕事と自分自身の手の中にあるもので、まだ目にしたこともないどこか遠くの夢の世界になんかあるものではない。
なんとなく、そういうことがいいたかったんじゃないかなと、思いました。

しかし主演のジョシュ・ブローリンは不思議な人ですね。ぜんぜんスターって感じじゃないんだけどものすごい存在感。こないだ観たばっかりの『ボーダーライン』とか『ノーカントリー』が印象に残ってて、ジョシュ・ブローリンといえば=タフなおっさんというイメージだけど、今回の作品では、タフでありつつも家族には優しかったり、禁煙にまじめに苦労してたりヘッドハンティング話に揺れたり、多面的なキャラクターを器用に演じてたのがちょっと意外でした。
あと日本のプロモーションではあたかも主役のよーに扱われてたジョジクルさんは、アホな大根役者っぷりがもうむちゃくちゃおもしろかった。これまでにも『バーン・アフター・リーディング』なんかでもアホ役はやってたけど、ここまでとことんアホキャラになりきれるって天晴れです。

映画の華やかさと地味で暗い部分を両方描きながらも、ちゃんと映画愛にあふれた娯楽映画にまとまってて、そしてメッセージ性もある作品でした。
けどやっぱし、これ元ネタしってた方が楽しめるんだろーなー。
というわけで同時代のハリウッドの内幕が題材になっている7月公開の『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』の公開を楽しみに待ちたいと思います。



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