落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

がんばれあんちゃん

2008年08月08日 | movie
『闇の子供たち』

2回めの鑑賞。初見のレビューはこちら
実をいうとこの1週間、ずっとこの映画のことが頭から離れなかった。桑田佳祐の主題歌がくり返し耳に響き、宮﨑あおいのたどたどしいタイ語の台詞が頭の中をぐるぐるまわっていた。
映画そのものが強烈だったということもある。観ていた間、異常に緊張していた肩の力がなかなか抜けなかったということもある。
観た後、観る前には避けていた監督や出演者のインタビューを読み、ほうぼうで観客のレビューを読み、これはやっぱりもう一度観るしかないなと思った。
そしてもっと、この題材についてちゃんと知りたいと思った。

2度観ても映画の印象はあまり変わらない。
最初に観たとき思った通り、やはりこの映画にも欠点はいろいろある。人物造形や状況設定が平板なこと。立体的にしようとしたのは理解できるが、それらが効果的に機能せずに小手先で終わってしまっている。たとえばトラフィッカー役のプラパドン・スワンバーンが泣く子を慰めようとアニメ「タイガーマスク」の歌を歌って聞かせる場面があったり、街中のノイズに日本語の呼び込みの声が混じっていたり、車道ではトヨタ車やら三菱車ばかりがやたらに目立っていたり、タイと日本との密接な関わりを匂わせるディテールはチラホラあるが、いずれも妙に浮いていてとってつけたような表現にしかみえない。
ストーリー展開にしても終盤にいけばいくほど乱暴になって来て、台詞のひとことひとことが飛躍してしまっているように聞こえて仕方がない。
そういう映画的テクニックの面では、毎週映画ばっかり観ている映画好きにとっては不満はいくら挙げてもきりがない。

それでもぐりは、この映画はこれで良いと思う。
あるいはもっとそれらしく綺麗にまとまった、映画的にクオリティの高い作品に仕上げられる映像作家は他にもいたかもしれない。この物語をもっと巧みに表現する役者だって他にいくらもいるだろう。
しかしこの題材だからこそ、阪本監督が「娯楽映画にしなければ」とあえてこだわった理由に異論はない。誰もがTVで見慣れた江口洋介と宮﨑あおいと妻夫木聡が演じるからこそ、本来ならこんな問題に見向きもしない観客層を劇場に呼んで、思いっきり衝撃を与えることができるのだ。確かに彼らの演技は佐藤浩市や豊原功補や塩見三省に比べれば見劣りはする。むしろ彼らを主役にした方がはっきりとわかりやすく‘社会派映画’風になったことだけは確かだ。でも、題材につりあうキャスティングで撮ったところで呼びたい客が来るかどうかなんてわからない。もともと問題意識のある客、映画好きな客なら誰が出ていようが関係ないだろう。だがこの題材を映画にするからにはそれだけではダメなのだ。

宮﨑あおいと妻夫木聡に関してはぐりはとくに何の期待もしてなかったけど(爆)、江口洋介には今作も含め今後の展開はちょっと楽しみにしている。
2年前に東京国際映画祭で台湾映画『シルク』台湾シネマコレクション2008にて今秋公開)を観て、その後のQ&Aに登壇した彼の話を聞いて以来、あるいはこの人に向いているのはこういう多国籍映画や社会派映画なんじゃないかとずっと思っていた。彼よりもうまい役者はいる。だが90年代に一世を風靡した大人気ドラマの中からそのまま抜け出て来たような自然なキャラクターを活かして、つくりてが観客に届けたいメッセージを運ぶ触媒として幅広く柔軟に活動できるなんてのは、もしかすると彼にしかない個性ではないだろうか。何をやっても江口洋介にしか見えないとしても、そんな活動ならまさにうってつけだ。

というわけで、やっぱりこの映画、できるだけたくさんの人に観てほしいと思う。
不安がある人は事前に監督のインタビューを読んでくといいと思います。文字通り身も細る思いをして真剣にこの題材と向き合った監督・スタッフと、自らの代弁者として日本側クルーを支えたタイ側関係者の真摯な情熱を踏まえて観れば、この映画がいかにきちんと神経を遣ってつくられたフィクションであり、同時にどれほど真実に迫っているかがわかるはず。
下記にいくつかサイトをリンクしておきますので、参考にどうぞ。

内外タイムス 阪本順治(映画監督)インタビュー
@nifty映画 『闇の子供たち』 阪本順治監督インタビュー
テアトル・ラボ 闇の子供たち インタビュー
realGuide 闇の子供たち 特別インタビュー(動画)

NHKインタビュー
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Online Videos by Veoh.com

取材に協力した医師のインタビュー:
もしもあなたに臓器移植が必要になったら〜大阪大学医学部付属病院移植医療部 福嶌教偉さん【前編】

参考資料:カンボジアの売春窟を取材したTV番組
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (harry)
2008-08-09 14:09:51
この映画、私も1週間引きずってます。
佐藤浩市の舞台挨拶目当てで観た母は、能天気にもペドファイルが何を意味するか知らなかったそうで、ショックからいまだに立ち直れてません。
でも、そういう観客も引き寄せるからこそ、この題材を商業映画でやる意味があるんですよね。

子供と手をつないで歩くシーンの対比(宮崎あおいの場合と江口洋介の場合)、いまも心に残っています。ロングランでヒットして欲しい映画です。

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Unknown (ぐり)
2008-08-09 22:50:14
harryさん

引きずりますよね。思いっきり監督の術中にハマってます。

>佐藤浩市の舞台挨拶目当てで観た母は、能天気にもペドファイルが何を意味するか知らなかったそうで、ショックからいまだに立ち直れてません。
佐藤浩市はホントよかったですよね。たった1シーン、2カットの登場なのにすごい存在感。
子どもを溺愛してるわけでもないのに「自分の子どもくらい守れなきゃ」みたいな男の沽券に縛られて困惑してる日本人、なんてムチャクチャ絶妙なキャラクターをあれだけばっちりと表現できるって、いったいどんな才能やねん。

>ロングランでヒットして欲しい映画です。
ホントに。
これ話題になってるのに上映館が少なくて残念です。とっとと拡大してほしい。
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