突然降ってわいたような「惑星騒動」の結末が多数決とは、科学の世界も政治と似ているなぁ、と思います。
そこで突然聴いて、目覚める1枚が――
■King Size ! / Andre Previn (Contemporary)
今ではすっかりクラシック界の大御所になってしまったアンドレ・プレビンも、最初は凄腕ジャズピアニストとして世に出たと言われています。
実際、残されたジャズ作品は強烈至極で、白人らしい硬質なスイング感とバカテクで解釈されるジャズは、モダンだとかモードだとか、そんな枠を飛越えた凄みが感じられます。
代表作としては、シェリー・マンのリーダー盤「マイ・フェア・レディ (Contemporary)」があまりにも有名ですが、自己のリーダー作も凄すぎるアルバムが沢山! 本日の1枚もその中のひとつにすぎません。
録音は1958年11月26日、メンバーはアンドレ・プレビン(p)、レッド・ミッチェル(b)、フランキー・キャップ(ds) という白人ピアノトリオです――
A-1 I'll Remember April
モダンジャズでは定番のスタンダード曲を、初っ端から豪快にスイングさせていくアンドレ・プレビンは、やっぱり凄い人です。フランク・キャップのブラシとステックで叩き出されるラテン&4ビートの嵐も強烈ですねっ♪ この人は日本では無視されていますが、西海岸のスタジオワークでは常にトップだった実力者で、ジャズばかりでなく、ロックやソウル畑でも数多くのレコーディングを残しており、その歯切れの良さは絶品です。
そして主役のアンドレ・プレビンのピアノはアタックの強さ、フレーズの硬さ、幾分タテノリ気味のスイング感が如何にも白人ですが、その猛烈な勢いは誰にも止められません! 一気呵成に駆け抜けていく爽快感が最高です。
A-2 Much Too Late
一転して演じられるスローブルースは、何とアンドレ・プレビンのオリジナルです。トリオは蠢くようなグルーヴを生み出そうと奮闘しますが、その要がレッド・ミッチェルのベースというところに限界が感じられます。
それでも少しずつ盛り上がって、ついに3分20秒目あたりからの津波のようなフレーズの積み重ねはド迫力! 怖ろしい破壊力です。また最終章あたりの破壊的ブロックコードも痛快ですが……。
A-3 You'd Be So Nice To Come Home To
説明不要の人気スタンダード曲を、このトリオは重々しく料理しています。これは少~しばかりオスカー・ピーターソンを意識してのことでしょうか、ドラムスとベースも、その「黄金のトリオ」のアレンジを盗んだような動きを聴かせています。
しかしアドリブパートではアンドレ・プレビンの破壊的なコード弾き、押しの強さ、強引なフレーズの引き回し等々の得意技が炸裂していきます。
あぁ、こんな裏切り的名演があるでしょうか!
B-1 It Could Happen To You
モダンジャズではお馴染みの人気スタンダード曲を、ここでは優しく解釈するアンドレ・プレビンという仕掛けが堪能出来ます。しかし当たり前過ぎてと言うか、個人的にはあまり面白いとは思いません。
B-2 Low And Inside
またまたアンドレ・プレビンのオリジナル・ファンキー曲です。
本人はグルーヴィ路線を狙っているのでしょうが、やはり白人丸出しというか、破壊的な部分ばかりが目立った前衛的な演奏になっています。案外、それを狙ったのかもしれませんが、これもあまり面白いとは思いません。
B-3 I'm Beginning To See The Light
一転して烈しくスイングする演奏です。ネタがデューク・エリントン楽団の当り曲ということで、あまり冒険もしていませんが、真っ向勝負のプレビン節が炸裂する痛快さはたっぷりです。
それは破壊的なコード弾きとタテノリ、ピシビシッとキマるフレーズの妙、つまりアンドレ・プレビン独特のグルーヴが堪能出来るのです。黒人ジャズ的な粘っこさは微塵もありませんが、こういうジャズが成立してしまうのもトリオの優れた技量ゆえのことかもしれません。
通常の「スイングする」という意味では解釈不能ギリギリの演奏だと思います。
ということで、一種の変態ジャズかもしれませんが、不思議な気持ち良さが秘められています。
実は私はジャズを聴き始めた頃、このアルバムを聴いて、例えばオスカー・ピーターソンとは似て非なる、その変態度に呆れかえった記憶があります。何だ! 全然スイングしていないじゃないか!? やっぱり白人物は……。
ですから万人向けでは無いと思いますが、ある日突然、これを聴いて不思議感覚に目覚める恐れも秘めた、別格のアルバムだと思います。