全盛期のジョン・コルトレーンは、猛烈な演奏がウリでした。特にエルビン・ジョーンズやマッコイ・タイナーというタフなメンツを従えて以降は、真に爆発的! それはライブはもちろんのこと、レコードという圧縮された世界から解き放たれる瞬間でさえ、驚愕のエネルギーを発するのです。
私がコルトレーンを聴いて快感を覚えるのは、このエネルギーに身も心も溺れさせられるからなんですが、さて、それは実はジャズ喫茶という、日本独自の空間でのお話じゃなかろうか……? というのが、本日の御題です。
実際、私が初めてジョン・コルトレーンという存在に目覚めたのは、ジャズ喫茶での事ですし、そこで大音量で鳴らされるジョン・コルトレーン全盛期の演奏には、許しがたい暴力性と禁断の愉悦があると思います。
そしてもちろん、レコードを買うわけですが、結局、当時の私の生活環境では大型スピーカーでガンガン鳴らすという当然至極の事が出来ず、ヘッドホーンで聴くのが日常でした。
ですから、私はある時期を堺にジョン・コルトレーンのアルバムは買わなくなり、聴きたい物はジャズ喫茶でリクエスト、というコースを辿ることになります。ちなみに後に、ジョン・コルトレーンはその人気と実力、そして実績に反して、リアルタイムでのレコードの売行きは芳しくなかったという事実を知って、妙に納得!
やっぱり、大音量で浴びるように聴いてこそ、ジョン・コルトレーンのレコードは存在価値があると、その思いを噛みしめたわけです。
なにしろ日本の場合は住宅環境、欧米の場合は、おそらくオーディオ装置の普及が日本ほど贅沢では無いという事情があると思います。例えばイギリスあたりでは、1970年代末頃まで、一般家庭にステレオ装置は珍しく、小さなモノラルのレコードプレイヤーで音楽を聴くのが普通でしたし、アメリカにおいては、失礼ながら黒人層でしっかりしたオーディオを揃えていた家庭は、珍しかったようです。
ですからレコード会社が1960年代のジョン・コルトレーンに穏やかな「バラード」や「歌伴物」を吹き込ませたり、スタンダード曲ばかりのアルバムを強要したのも肯けます。もちろんそれらは大ヒット盤になっていますし、魅力の一端をきちんと楽しめるわけですが……。
で、現在の私は、単身赴任地で山間部に一軒家を借り、小さな集落の木立に囲まれた環境を良いことに、30年以上前に父が凝って集めたオーディオ装置を持ち込み、「ひとりジャズ喫茶」をやっていますので、ジョン・コルトレーンのソフトを買う機会が増えています。本日も――
■The Complete 1963 Copenhagen Concert / John Coltrane (Gambit)
以前、別なレーベルから出ていたブツの再発ですが、リマスターされて中低域に厚みのある、ド迫力の音に仕上がっています。もちろん公式音源ではありませんから、モノラルのライブ録音ですが、それが団子状でドッカ~ン! と迫ってくる快感に酔い痴れることが出来ます。
録音は1963年10月25日、コペンハーゲンでのコンサートを収録しています。メンバーはもちろん、ジョン・コルトレーン(ts.ss)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という黄金のカルテットです――
☆Disc 1
01 Mr. P.C.
スピード感溢れるテーマがカッコ良い、このバンドが十八番のブルースです。
まず、いきなりジョン・コルトレーンがリードしてテーマが吹奏され、そのまんまマッコイ・タイナー・トリオともいうべきパートが始まります。
こういう海賊盤の録音では、だいたいマッコイ・タイナーのピアノはオフ気味になっているのですが、ここではしっかりと前面に出たバランスになっていますし、エルビン・ジョーンズのドラムスが、またド迫力!
あぁ、最高だっ! 私の世代では多分、マッコイ対エルビンという部分で「パブロフの犬」状態では? つまりそれだけで、ジャズを聴いている気分に浸りきってしまうのです。
こうして5分半近く対決が続いた後、今度はエルビン対ジミー・ギャリソンという、恐いものが待っています。そして完全なべースソロになった次の瞬間、コルトレーン対エルビン・ジョーンズという、待望のお約束があって、いよいよジョン・コルトレーンが鬼神の咆哮! 魂の大爆発です。
結局こんなの、生演奏か大音量じゃなければ楽しめないと痛感するのでした。エルビン・ジョーンズのヤケクソのブッ叩きが全てかもしれません。
02 Impressions
これも当時のバンドでは定番メニュー♪ 豪快にモードを使ったアップテンポの演奏で、その展開は前曲同様、テーマの後にはマッコイ・タイナーの全力疾走ピアノが堪能出来ます。もちろんエルビン・ジョーンズのポリリズムとシンバルワークの妙、ジミー・ギャリソンの蠢くベースも強烈です。
そしてジョン・コルトレーンは16分過ぎにようやく登場し、律儀にもテーマを吹奏しなおしてアドリブに入るのですが、盛り上がったところで残念ながらテープがブチ切れの不完全版なのが、全く惜しいところです。
☆Disc 2
01 Promise
アフリカ調のゴスペルとでも申しましょうか、何とも思わせぶりな始まりですが、アドリブパートでは何時ものコルトレーン・ジャズが楽しめます。と言うか、楽しめますというよりは、苦行を経ての快楽というSM的要素が、この時期のモード~フリージャズの本質かもしれません。
ここでもマッコイ・タイナー・トリオが露払いを務めた後、ジョン・コルトレーンがソプラノサックスで登場する、その刹那の一瞬が最高ですねっ♪ もちろんその後は白熱のモード地獄が待っています。そして最後には、何とモトネタの「Summertime」を吹いていまうオトボケも憎めません。
02 Afro-Blue
これも当時の定番中の大定番! ジョン・コルトレーンのソプラノサックス、ここにあり! なんですが、またまたマッコイ・タイナーが先導するあたりに、マンネリが感じられます。
しかしエルビン・ジョーンズが炎のドラムスで鬼のように煽りたてますから、聴いている私は感極まって……♪ これがジャズです! 大音量で聴かなければ、バチが当ります!
03 Naima
コルトレーンのと言うよりも、今やモダンジャズを象徴する名曲となった静謐なバラードですが、かなり混濁したものが出るようになっていた当時のバンドですから、タダではすみません。
後半になるとジョン・コルトレーンが独り善がりに力み、リズム隊が呆れかえるという展開になります。そしてそれゆえに、ラストテーマの吹奏が、より荘厳になるという仕掛けが、あざとさ満点! 個人的は大好きな仕掛けです♪
04 My Favorite Things
そして大団円は、これが出なけりゃ収まらないという、ジョン・コルトレーンが生涯のヒット曲です。もちろん原曲は有名ミュージカルからのスタンダード曲ですが、曲そのものは、ジョン・コルトレーンが演奏してから有名になったという経緯があるようです。
ここでの演奏は何時もの展開同様、テーマの変奏からマッコイ・タイナーの暗くて饒舌なピアノソロ、そしてジョン・コルトレーンがバンドを従えて痙攣&爆裂の心情吐露に終始します。そしてそれが唯一無二の快感に繋がるところが、この当時のバンドの凄さだと思います。
ということで、演目そのものについては、毎度お馴染みの事しか書けないほど、完成された展開になっています。出来・不出来の評価も、この当時の一連のライブ録音の中では平均点というか、そのレペルは永遠不滅の領域まで達していますから、素直に聴いて納得のバージョンばかりです。
ただし個人的な鑑賞法では、前述したとおり、大音量で聴いて感銘という部分を楽しんでいるので、現在の境遇には感謝するところ♪ 結局、若い頃に出来なかった事のリベンジとして、このCDを買ったわけです。