OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

名盤地獄篇

2006-08-13 19:19:55 | Miles Davis

Miles Davis In Berlin (Columbia / CBSソニー)

私がジャズを本気で聴きはじめた頃は、まだフリージャズが大手を振っていましたので、例えジャズ喫茶でも知らないレコードを聴く時には緊張しましたし、ましてLPを買うとなれば、相当な覚悟が必要でした。

それはもちろん、乏しい小遣いの中から2千円前後の出費をするわけですからねぇ……。しかし純粋に聴きたいという欲求からは逃れることが出来ません。

実は私はウェイン・ショーターというサックス奏者が大好きなんですが、ご存知のようにこの人はハードバップ、モード、フリーからフュージョンまで、何でもござれの天才なので、その変幻自在なスタイルゆえに、危険度も大きいのです。

例えば、参加メンバーのほとんどがマイルス・デイビスのバンドレギュラーという「スプリング / トニー・ウィリアムス(Blue Note)」という作品なんか、大いに期待して買った結果として、亜空間を彷徨うような、自分としては愕然とするような内容に失意のどん底に落とされた記憶が、今も鮮明です。

尤もこの作品とて、今では愛すべき1枚になってはいるのですが、実は当時、ガールフレンドとの付き合いを天秤にかけて買ったブツだったんで、その落胆ぶりを察していただければ……。

あ~ぁ、レコード集めには全てを犠牲にしなければならないのか?

なんていう自虐的自問自答を繰り返しつつも、結局止められないのが、この奥の細道! そんな中で堂々の自身を持って買ったのが、本日の1枚です。

録音は1964年9月25日、ベルリンでのライブで、メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という、所謂黄金のカルテットですが、お目当ては完全にウェイン・ショーターで、マイルス・デイビスが入っているのなら、メチャクチャは無いだろうという、つまりこの時の私にとってマイルス・デイビスとは、安心感のお守りのような存在でした。

あぁ、これ読んで激怒する人が必ずいらっしゃるでしょうねぇ……。しかしこれが本音のその内容は――

A-1 Milestones
 モードジャズに先鞭をつけた演奏として歴史の一部になっているオリジナル演奏は、キャノンボール・アダレイ(as) やジョン・コルトレーン(ts) を含む豪華メンバーによって1958年にスタジオ録音されていますが、リアルタイムのステージでは、ほとんど演奏されていなかったと思われます。
 つまりそれほどに突出した演目だったわけですが、1963年頃からのハービー・ハンコックやトニー・ウィリアムス、ロン・カーターのリズム隊を得てからは、堂々と演奏されるようになり、ここに烈しく燃えたバージョンが残されました。
 それは神経質に突っ走るトニー・ウィリアムスのシンバルに煽られ、焦りを漂わせながらも、お約束のフレーズばかり吹くマイルス・デイビスのカッコ良さ! この当時のライブで特徴的な変幻自在のテンポ設定も時折入れながら、バトンを受けるのが、私にとっては真打のウェイン・ショーターです。
 あぁ、やっぱり最高! 当時はバンドに参加したばかりなのに、全くリズム隊に遠慮することなく、自分勝手にテンポを変えたり好き放題に吹きまくるフレーズには、フリーもロックも内包した恐ろしさが感じられます。
 もちろんリズム隊は、そんな自己中心的な奴を許しておくはずもなく、烈しいツッコミを入れてくるんですが、悉くはね返されている様が痛快です♪
 ですから続いてリズム隊だけの演奏になると、この3人は完全に憂さ晴らし走るというわけですが、それが全体のテンションを高める結果なんですから、ジャズって本当に素敵だと思います。

A-2 Autumin Leaves / 枯葉
 これこそマイルス・デイビスには欠かせない切り札的なスタンダード曲♪ もちろんミュート・トランペットの妙技を聴かせてくれますが、録音状態の所為か否か、音の強弱が烈しく、消え入りそうになった次の瞬間に爆裂的に大きな音が鳴り出すのですから、リスナーは必要以上の緊張感に苛まれると思います。
 もっともそれがマイルス・デイビスの狙いかも知れません。確かにこの緊張感があってこそ、泣いている音色に酔える部分がありますから……。
 トニー・ウィリアムスのブラシやツボを外さないロン・カーターのベースも秀逸で、マイルス・デイビスと一緒になっての締め括りの大盛り上がりは、本当に強烈です。
 そしていよいよ登場するウェイン・ショーターも驚愕の名演です! それは強烈な変態フレーズの連発と脱力寸前の思い入れ、フリーに見せかけたメロディフェイク、さらに全体の構成がショーター好きな者には、ますます好きにさせてくれるもので、全てが8分2秒目からのキメのフレーズに集約されている物凄さです。
 またここで全体がかなり元曲から離れてしまった演奏を、見事に皆が知っている「枯葉」に引き戻すハービー・ハンコックも流石です♪ 多分メンバー中で一番の保守派であろうこのピアニストの存在ゆえに、マイルス・デイビスも安心して危険分子のウェイン・ショーターを入れることが出来たのではないでしょうか。

B-1 So What
 マイルス・デイビスの演目では定番の盛り上がり曲ですから、全員が忌憚の無い爆裂ぶりを堪能させてくれます。
 中でもトニー・ウィリアムスの張り切りは、何時だって最高です! ヤケクソのバスドラ、神経質なシンバル、合の手を超越したタムとスネアのコンビネーション! この時、弱冠18歳なんですよねぇ~♪ あまりの事にマイルス・デイビスの怒りの一撃も、虚しく空を切るばかりです。
 そしてそれが一層激烈になるのが、ウェイン・ショーターが登場してからのパートです。ここでは相当にジョン・コルトレーン風のフレーズが繰り出されますが、トニー・ウィリアムスにとっては馬耳東風! ならばと、ウェイン・ショーターは十八番の変態フレーズを連発して対抗するのですから、これにはハービー・ハンコックも成す術無しのアドリブ地獄です。
 その中でクールにビートを刻むロン・カーターが一番印象的な演奏でもありますが、これがジャズ最高! と叫ぶ瞬間なのでした。7分5秒目あたりからの一体感なんて、最初からの仕込みでしょうねっ♪

B-2 Walkin'
 これも人気演目の中の大名演です。最初っから激烈なアップテンポがお約束ながら、ここでの荒っぽいトニー・ウィリアムスは完全に演奏をぶち壊す寸前ですから、マイルス・デイビスもキメのフレーズだけで、得意の思わせぶりを聞かせることが出来ません。完全に若造に煽られているマイルス・デイビス、いつまでも若くは無いことを自覚させられたはずですが……。
 そのトニー・ウィリアムスがますます増長するのが、次のパートでのドラムソロです。何時もよりは空間を切り詰めた感があるものの、リスナーには至福の一時でしょうか。
 しかし不幸の種は幸福の絶頂で蒔かれるというか、続くウェイン・ショーターはそんなトニー・ウィリアムスに冷や水を浴びせるような意地の悪いフレーズばかりを吹きまくりです。そう、もはやこれはフリー寸前! ロン・カーターがルートの音をしっかり出しているので、辛うじて踏み止まっていますが、ハービー・ハンコックまでもが、それに同調してメチャクチャに走りそうで、恐いものが漂います。
 しかし流石、自分のパートでは変幻自在の物分りの良さを発揮し、ビル・エバンスでは無い新感覚のピアノトリオ演奏を披露してくれます。あぁ、ここでの3人は、もう最高です。

B-3 Theme
 前曲に続いて演奏されるバンドテーマで、ロン・カーターが短く一人舞台を演じ、アッという間に終わる物足りなさが逆に素敵です。トニー・ウィリアムスなんか、叩き足りない欲求不満がアリアリですからねぇ~♪

ということで、これはウェイン・ショーターのワンホーン盤にマイルス・デイビスがゲスト参加というのが、私の聴き方です。実際、異議ありとは思いますが、この頃のマイルス・デイビスって、常に同じようなフレーズしか吹いていませんし、特にアップテンポ物では完全な金太郎飴状態……。あれっ、モードって自由にアドリブ出来るはずだよねぇ~? なんか自分からワナに陥ったマイルス・デイビス?

私は何故、マイルス・デイビスが相方にもうひとりのホーン奏者を入れるのか、不思議でした。だってお客さんはマイルス・デイビスを観に来るわけだし、レコード会社だってマイルス・デイビスが良いソロを演じたテイクを使っているわけですからねぇ……。マイルス・デイビス四重奏団でOKでは?

しかし、こう毎度、同工異曲のフレーズしか吹かないのでは、その理由も肯けます。つまりお客さんが飽きてしまうから……。とにかくこの当時のマイルス・デイビスに必要だったのは、変幻自在の極北というホーン奏者だったのでしょう。それにはウェイン・ショーターがうってつけ! もちろん、その根底に潜む広範な音楽性にも目をつけたに違いありません。

もちろん結果は、庇を貸して母屋を取られる寸前だったわけですが♪ まだまだここでは猫を被ったウェイン・ショーター、そして腹の探り合いをしていないマイルス・デイビスということで、素直に激烈な演奏を楽しむことが出来るのでした。

コメント (2)
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