何となく買って、聴いたら気に入ったというアルバムは、かなり嬉しいものがあります。
例えば本日の1枚も、そのひとつ――
■Happy Bluesday / Gregory Fine (Boheme)
まずジャケットが、イケていませんね……。冴えない中年おやじ3人組が、工事現場で記念撮影したというか……。
ジャズのマイナーレーベルにはありがちな仕様ですし、まあ、ピアノトリオというのは分かりましたが、私の気を惹いたのが、演目の良さです。
リーダーのグレゴリー・フィンはロシア系でしょうか?
録音は1998年2月24日、ロンドンで行われ、メンバーはグレゴリー・フィン(p)、Len Skeat(b)、マーティン・ドリュー(ds) ですが、この中ではドラマーのマーティン・ドリューがオスカー・ピーターソン・トリオのレギュラーでしたから、一番有名でしょう。実は私も、この人が入っていたので安心感がありました。そして内容が楽しく、素晴らしい――
01 There Is No Greater Love
いきなりオスカー・ピーターソン派という本性を現したグレゴリー・フィンが物凄いテクニックを披露します。もちろん歌心も素晴らしく、この人気スタンダード曲をアップテンポで、何の躊躇いも無くアドリブしていくのです。
もちろんマーティン・ドリューのドラムスは、オスカー・ピーターソンと共演している時と変わらぬ姿勢というか、変わりようも無いほどに、グレゴリー・フィンが抜群にグルーヴィです!
すると Len Skeat のベースが、俺はレイ・ブラウンを尊敬していますというソロを♪ たまりませんね、初っ端から♪
02 Waltz For Natalie
グレゴリー・フィンの作った魅惑の幻想ワルツですが、どっかで聴いたことのあるようなメロディが上手いところです。バックではマーティン・ドリューのブラシが、最高に気持ち良くサクサクと蠢いています。
そしてアドリブパートでは倍テンポも交えたグレゴリー・フィンのピアノが、王道のアドリブを展開、それをサポートするドラムスとベースも嫌味がありません。
03 How Deep The Ocean
これまた気持ちの良いボサノバ風のアレンジが効いた名演です。多分原曲は「How Deep Is The Ocean」でしょうか? なんとも言えない魅力溢れるテーマメロディに変奏してありますね♪
そしてアドリブパートに入っては、テンポアップしてのボサロックのノリがグルーヴィです。このあたりはどうやらオスカー・ピータソンのアクが抜け、逆にラムゼイ・ルイスを白っぽくしたようなフレーズとリズム感が、気持ち良さの極致です。
04 Georgia On My Mind
説明不要の名曲を、全くこちらが望んでいるように、ファンキー&グルーヴィンに演奏してくれるこのトリオは、分かっているとしか言えません。
黒っぽさも、ほどほどなのがセンスの表れでしょうか、原曲の「泣き」を嫌味なく拡大解釈していく様は、酒もワインも珈琲も合う仕上がりです。
05 Reunion Blues
今度はオスカー・ピーターソン&ミルト・ジャクソンの十八番に挑戦とあって、最初からブルース魂が全開、バックはもちろん擬似ジャズロックですから、もう楽しさは保証付きです。
グレゴリー・フィンのピアノからはオスカー・ピーターソン流儀のフレーズが連続放出されていきますが、あくまでも自己のフィルターを通そうとする意思が潔いと思います。
06 I've Never Been In Love Before
これもオスカー・ピーターソンの決定的な名演が残されているスタンダードの名曲に挑戦した趣があります。なにせテーマの解釈やオカズの入れ方、リズムアレンジまでも、敬意を払いつつ、完コピの世界になっているのですから!
これは相当のテクニックと自信がなければ出来ませんし、やってはならない事なんですが、ここでもグレゴリー・フィンは潔さの極北というか、堂々とオスカー・ピーターソンの物真似をやっているのですから、聴いている私は感心する以前に笑ってしまう楽しさがあるのでした。
07 Just Friends
モダンジャズでは定番のスタンダードをアップテンポの擬似ハードバップにしていますが、ここでもオスカー・ピーターソンに果敢に挑戦する姿勢を貫いています。
しかし結果はイマイチというか、やはり本家オスカー・ピーターソンの物凄さが実感されてしまうのでした。つまり敢闘賞候補止まりということですね……。
08 How Long Has This Been Going On
このアルバムでは初めてのスロー物演奏です。
なかなかしっかとしたタメが素晴らしく、テーマ解釈とその変奏がダレるギリギリで踏みとどまっているあたりに、グッときます。
サポートのマーティン・ドリューのブラシも粘っこく、素敵な小技を効かせているところが、キモでしょうか。ただし Len Skeat のベースに毒気が足りないのが減点です……。
09 Happy Bluesday
オーラスはグルーヴィな大ブルース大会♪
この全くジャズの王道を行く楽しさは最高ですねっ♪ こういう何の衒いも無い演奏こそが、ジャズ者の琴線にふれるのではないでしょうか?
前曲でヘタレ気味だった Len Skeat のベースも強烈に蠢いていますし、何よりも主役のピアノが豪快なグルーヴの塊です!
もちろんマーティン・ドリューのドラムスもゴスペル味を漂わせながら、エド・シグペン風のオカズを大切に入れてきますので、演奏は否が応でも盛り上がるのでした。
実は私は、朝一番にこれを聴くことが、しょっちゅうです♪ そしてCDならではの特性を活かし、冒頭トラックにプログラムして景気をつけるのです♪
ということで、一聴気に入った私は、こういう生活の必需品的なアルバムこそが、本当の名盤じゃなかろうか? なんてことを思います。
ということは、名盤の基準なんて十人十色!
あぁ、名盤、ですねっ♪ だいぶ前に入手したものですから、今は売っているか不明ですが、見つけたらゲットして間違い無しのブツだと、断言しておきます。