残暑、厳しいです。なんか疲れが抜けないってのは、歳のせいか……。
ても、そんな無気力症状を吹き飛ばすブツが入手出来ました。それが――
■Kenny Clarke - Francy Boland Big Band Live In Prague 1967 (Impro-Jazz)
1960年代のジャズ界は内にモード~フリージャズ、外からはロックやソウルに押され、王道派のジャズメンは本国アメリカに居場所を無くして渡欧する者が大勢いました。
そしてこの時期、欧州のジャズのレベルは飛躍的に向上したわけですが、その中核にあったのが、そうした優れた欧米のジャズメンを結集していたケニー・クラーク&フランシー・ボランのビックバンドです。
その結成の経緯は勉強不足でよく知らないのですが、とにかくオールスタアで構成されたバンドの迫力と演奏能力は、フランシー・ボランの作編曲を完璧にこなして優れたアルバムを何枚も発表しています。
しかしこのバンドが実際にどの程度、ライブをやっていたのか? ライブ盤は発売されていたものの、オールスタアゆえにそれは少なかろうと想像していたのですが、ここに彼等のライブ映像を納めた驚愕のDVDが発売されました♪
その演奏は1967年10月22日、プラハでのステージを68分収録してあります。
気になるメンバーはベニー・ベイリー(tp)、ジミー・ドュウカー(tp)、デレク・ハンブル(as)、サヒブ・シハブ(fl,bs)、ジョニー・グリフィン(ts)、ドン・メンザ(ts)、ロニー・スコット(ts)、オキ・ペルソン(tb) といった超一流の実力者を擁したホーンセクションに、リズム隊がフランシー・ボラン(p,arr)、ジミー・ウッディ(b)、フッツ・サディ(vib,per)、ケニー・クラーク&ケニー・クレア(ds) という物凄さです。ちなみにパッケージにはダスコ・ゴイコビッチが参加しているようにクレジットされていますが、影も形も見えませんので要注意です。変わりに参加しているのが、シェイク・キーンという黒人トランペッターです。
01 My Favorite Things
ジョン・コルトレーンの十八番として有名なスタンダード曲に果敢に挑戦し、楽しい演奏を繰り広げています。
アドリブソロはサヒブ・シハブの烈しいバリトンサックに始まり、ファッツ・サディの浮かれたヴァイブラフォン、ドン・メンザの悶絶テナーサックス、そしてベニー・ベイリーの突っ込むトランペットと続きますが、何れも1960年代ジャズらしいモードと歌心探求の狭間にあるものになっています。
02 Griff's Groove
タイトルどおり、フランシー・ボランがジョニー・グリフィンを想定して書いたハードバップですが、演奏の前にイタリア人興行師のジジ・カンピが登場し、以降MCを担当します。一説によればバンド結成には、この人が関与したと言われていますが……。
で、演奏は何時の間にかスタートするのですが、一応、指揮をするフランシー・ボランのローファイな雰囲気が何とも言えません。フラフラと出てきて、観客に愛想をふらず、指揮も脱力気味というあたりが、映像ならでの見所でしょうか……。
肝心の演奏はベニー・ベイリーのトランペットがミュートカップの妙技で流石の上手さ♪ 続く主役のジョニー・グリフィンも熱演ですが、バックの演奏が崩れそうで崩れない、ダレ気味のリラックス感が絶妙なグルーヴを生んでいると思います。
それにしてもフランシー・ボランは照れ屋なのか、愛想の無い人です♪
03 Box 703,Washington DC
これもダレた雰囲気の中で、何時しかビシッと演奏がスタートするところが凄いと思います。作曲はもちろんフランシー・ボランで、アップテンポの中でソロを聞かせるのは、まずシェイク・キーンがミュートトランペットで奮戦し、フランシー・ボーランが幾何学的なピアノソロで歌心を排除、続くデレク・ハンブルもそれに従いますが、途中で、俺はやっぱり歌心! と思い直して熱くなるアルトサックスが最高です。
またジミー・デューカーのクールなトランペットとオキ・ペルソンの因数分解的なトロンボーンに続くサヒブ・シハブのバリトンサックスが、逆に熱くなっていく様も痛快でした。
もちろんバンド全体も烈しいリフでスイングしまくり♪ ファッツ・サディの打楽器が楽しさのスパイスですし、ツイン・ドラムスの突進力も凄いものがあります。
04 Here The Good Wind Comes
清々粛々としたテーマから一転、イカしたメロディが景気良く合奏される、フランシー・ボランの素敵なオリジナル名曲です。
アドリブソロは、まずサヒブ・シハブのフルートが秀逸! その唸りを含んだグルーヴには惹き込まれます。そして続くのが英国の名手=ロニー・スコットの正統派テナーサックス♪ さらに隠れ名手のアイドリース・シュリーマンが、あまり黒人らしく無い暖かいトランペットを披露するのですから、たまりませんねっ♪
もちろん最後には、最初と同じ雰囲気に戻るという律儀さが、如何にも欧州のバンドらしくて素敵です。
05 Nights In Warsaw
フランシス・ボーランの代表的オリジナル曲ですが、デレク・ハンブルが少し空回りした熱血アルトサックス、シェイク・キーンは、またまた歌心排除のフリューゲルホーン、サヒブ・シハブは垂れ流し気味のバリトンサックス、ベニー・ベイリーは派手なだけ……、と何故か全員のアドリブに精彩が感じられません。
しかしツイン・ドラムスを核としたリズム隊のグルーヴとバンド全体のノリは、流石だと思います。
06 What A Regal Aspect He Yet Retains
演奏前にジジ・カンピによるメンバー紹介がありますが、あらためて凄いバンドだと思いますねっ♪
で、この曲も当然フランシー・ボランの作編曲によるもので、まず本人の現代音楽みたいな完全にローファイで長~いピアノのイントロから、幻想的なテーマが演奏されます。
アドリブソロのトロンボーンはナット・ペックで、愁いに満ちた表現が素晴らしいと思います。
07 Ramo De Flores
アメリカの進み過ぎた作編曲家だったゲイリー・マクファーランドの名曲を、フランシー・ボランが書き直した演奏で、なかなか楽しいラテン・グルーヴが楽しめます。なにしろメンバーの何人かは打楽器に配置転換されていますから♪
ただしアドリブソロの無い、短い演奏なのが残念です。
08 I Don't Want Nothing
ケニー・クラークが書いた、このバンドの演目では最高に楽しい大名曲です。このナツメロ調のメロディとグルーヴは完全に本場アメリカのジャズの底力でしょう。演奏しているメンバーも心底、ノッているようです。
アドリブパートは、まずサヒブ・シハブのバリトンサックス、次いでアイドリース・シュリーマンの味のトランペットにオキ・ペルソンのオトボケ風トロンボーン、さらにファッツ・サディのヴァイブラフォンが熱演を披露します。
そしてクライマックスではジョニー・グリフィンの熱血テナーサックスが登場! もうあたりはモダンジャズのグルーヴでいっぱいです。あぁ、楽しいなぁ~♪ もちろん観客からは万来の拍手! バンドメンバーがケニー・クラークに促されてスタンディングの御礼です。
09 The Turk
そして一転、フランシー・ボランの書いたハードスイングな曲がスタート! ほとんどディブ・ブルーベックみたいな作者のピアノとリズム隊のコンビネーションも鮮やかですが、こうした硬質なグルーヴが当時は先端だったのかもしれません。
それにしてもビバップの創始者であるケニー・クラークのドラムスとデューク・エリントン楽団でリズムの要だったジミー・ウッディのベースという強力なコンビこそ、このバンドの推進力だったのですねぇ~♪ 演奏はこの後、擬似エリントン・サウンドになっていくのでした。大団円でのベニー・ベイリーのトランペットが鮮やかです。
10 And The Hence We Issued Out To See The Stars
こうしてステージはクライマックスに突入し、モード丸出しのアップテンポ曲が演奏されます。主役は2人のドラマーで、ケニー・クラークはもちろん、イギリス人のケニー・クレアが必死の大奮戦! 要所で締めるケニー・クラークとのコンビネーションも息がぴったりです。
11 Kenny & Kenny
これはもう、ほとんどアンコール的に演奏される2人のドラマーのショウケース♪ 一端、退場したメンバーが戻ってきて盛り上げます。そして最後は、お約束の美女の花束贈呈でフェードアウトするのでした。
ということで、これは吃驚仰天の発掘映像でした。今では夢のオールスタア・バンドの動く姿が観られるだけでも感激なのに、その実態というか、幻級のジャズメンが一同に会しての大合奏! 個人的にはフランシー・ボランの脱力おやじぶりが、あまりにも印象的でした。
あとビックバンド物ということで、これも大音量で楽しまなければ、その真髄が味わえないという恨みが、確かにあります。しかし画質はAクラスですし、メンバーが演奏の合間に私語を交わしたり、微笑んだり、さらに楽譜を落として焦ったりという場面も含めて、これは楽しい映像作品だと思います♪
ただし繰り返しますが、パッケージのクレジットと実際の出演メンバーが違っているのは減点です。ダスコ・ゴイコビッチ(tp) とトニー・コー(ts) は登場しないので、ご注意願います。